「伊勢物語」という古典文学があります。

 

この「伊勢物語」については、「昔、男ありけり」という文章で始まること、この「昔男」が、「在原業平」を指していること、この在原業平の「恋愛物語」であるということ、そして、「和歌」を中心にした「歌物語」であるということ、は、以前から知っていました。

しかし、あまり、関心はなく、これまで、全く、興味が無かったのですが、この「伊勢物語」が、あの「源氏物語」よりも成立が古く、「源氏物語」はもちろん、後世の文学に、大きな影響を与えたことを知り、読んでみようかと思ったところ。

 

 

この本は、初心者向けで、「伊勢物語」の全文が収録されている訳ではないですが、分かりやすく、面白い。

「伊勢物語」は、全部で、125段あり、それぞれが、とても、短い、シンプルな話で、それぞれの話に、登場人物の詠んだ和歌が挿入されている。

内容は、「昔男」つまり「在原業平」と思われる人物の「女性遍歴」「恋愛物語」で、これが、とても、面白い。

 

当時、貴族の結婚の形態は、「通い婚」と呼ばれるもので、男性が、女性の家に、夜に訪れ、一夜を共にして、朝には帰って行くというもの。

この本の解説によれば、三日、女性の家に通い続ければ、結婚は成立し、通わなくなれば、離婚をしたと認識をされるようです。

生まれた子供は、女性の家の子供ということになる。

また、男性の身の回りのものは、女性が用意をするのが一般的だったようですね。

 

主人公の「昔男」は、様々な女性との恋愛をする訳ですが、その中で、中心になるのは、前半に登場する「藤原高子」との恋愛。

この「藤原高子」は、後に清和天皇の皇后となり、陽成天皇を産む人物。

そして、後半に「伊勢斎宮」との恋愛の二つのエピソード。

ちなみに、タイトルの「伊勢物語」とは、この「伊勢斎宮」との恋愛物語から取られたものではないかというのも、一つの説だそうです。

 

一つ一つのエピソードが、短く、読みやすいので、とても面白いですね。

当時の貴族社会に広く受け入れられ、後世の日本文学に、絶大な影響を与えたというのも、よく分かる。

 

個人的には、在原業平の「和歌」にも興味のあるところ。

 

この「伊勢物語」は、在原業平が、実際に詠んだ和歌が、多く挿入されている。

もっとも、物語自体は、在原業平の人生の実話という訳ではなく、創作物語が大部分のようです。

挿入をされた「和歌」に合うように、エピソードが作られたものも多いようです。

 

在原業平の和歌で、有名なものを、いくつか。

 

「ちはやぶる神代も知らぬ竜田川唐紅に水くくるとは」

 

この和歌は、「百人一首」にも選ばれていますよね。

個人的には、この和歌を知り、在原業平に興味を持ったところ。

 

「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」

 

この和歌は、とても有名なのではないでしょうかね。

多くの歌人が、桜を詠んだ和歌を、数多く残している。

その中でも、最も、有名なものの一つでしょう。

 

そして、個人的に、最も、気を惹かれたもの。

それは、この「伊勢物語」の最後のエピソードに挿入された和歌。

 

「ついに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思わざりしを」

 

これは「昔男」が、年を取り、病気になり、死を意識した時に詠んだ歌。

これは、恐らく、普通に生きて来た人の全てが、感じることなのではないでしょうかね。

実際に、この歌を在原業平が詠んだのかどうかという解説は、本には無かったようですが。