手塚治虫さんの漫画「ブラックジャック」の他に、医療をテーマにした漫画は多いのでしょうが、個人的には、あまり、読む機会が無い。

しかし、その中で、こやす珠世さんの漫画「病室で念仏を唱えないでください」は、とても、面白かったです。

なぜ、僕が、この本を読むことになったのかと言えば、最初は、やはり、テレビの連続ドラマになったのがきっかけ。

しかし、このドラマの方は、第一話を見ただけで、あまり、面白いとは思えなかったので、それ以降は、見ていない。

しかし、漫画の方は、とても面白かったので、全巻を読みました。

そして、やはり、興味を惹かれたのは、主人公が、医者でありながら、僧侶でもあるということ。

なぜ、医者が、僧侶をしているのか。

また、なぜ、僧侶が、医者をしているのか。

その点に、大いに、興味があったところ。

 

 

 

主人公の松本照円は、救命救急の医者であり、僧侶でもある。

照円が、なぜ、僧侶をしているのかと言えば、それは、子供の頃、一緒に遊んでいた親友が、目の前で、溺れて、亡くなったため。

照円は、その出来事に、大きな負い目を感じ、僧侶になることを決める。

そして、照円は、その負い目を感じながら、親友の家族とは、ずっと、親しく、交流を続けていた。

そして、親友の母親が、病気で亡くなったことをきっかけに、医者になることを決意する。

 

この僧侶であり、医者でもある照円は、物語として、「僧侶」としての活躍は、ほぼ、無い。

基本的には、救急救命医としての照円の物語。

救急救命医の、過酷な状況が、この漫画を読んでいると、よく分かります。

 

次々と、重い病気、重い怪我をした人が、救急救命に運ばれて来る。

救命医は、その患者を診て、即座に判断をし、治療をしなければならない。

状況は、一刻を争う。

判断ミスは、即、患者の命を奪ってしまうことになり、許されない。

そして、全力を尽くしたとしても、目の前で、亡くなってしまう患者も多い。

とても、自分には務まらない仕事だと思いました。

自分が、そのような状況の中、精神的に、耐えられるとは思えない。

 

また、救急救命医は、幅広い、医療知識を持っていなければならない。

つまり、救急救命医の知識は「広く、浅く」と言ったところのようで、いわば、運ばれて来た患者の「応急処置」をするのが、役目。

そして、救急救命が引き受けて、応急処置をした患者は、専門医の方に回されることになる。

この時、やはり、救命医と、専門医では、治療法が異なる場合もあるよう。

 

また、救急救命が受け入れた患者は、結局、処置の後は、専門医が診ることになる。

そのため、「救急救命が、勝手に受け入れた患者を、自分たちが診なければならない」と、救急救命を迷惑に思っている専門医も居るようですね。

そういうキャラクターが、漫画の中に出て来ますが、実際に、そういうことは、あるのでしょうか。

 

また、病院の中で、様態が急変をした患者も、救急救命医が診たりするようですね。

これも、意外なところ。

 

ちなみに、タイトルの「病室で念仏を唱えないでください」の「念仏」ですが、実は、照円は、真言宗の僧侶。

照円が唱えているのは「念仏」ではない訳ですが、これは、どういうことなのだろうと思いつつ読んでいたところ、これは、日本人が、宗教に無知、無関心であることを意図的にタイトルに使っているようで、それは、物語の中で、照円のセリフとして出て来ました。

「俺が唱えているのは、念仏ではなく、念誦(ねんじゅ)と言うんだ」

と、照円が、説明をする場面がありました。

 

この「念誦」をネットで調べてみると、仏の加護を祈り、経文や仏の名号、または、真言を唱えることだそう。広い意味で、「念仏」もまた、この念誦の中に含まれるのでしょう。

恐らく、照円が唱えているのは、真言で、念仏ではない。

 

自分のせいで、親友が死んでしまった。

そういう状況になってしまった場合、僧侶になって、親友の菩提を弔い、親友の残された家族のために、出来る限り尽くしたいという気持ちも、分かる気がする。

 

なかなか、面白い漫画です。