沢音千尋さんの漫画「夜間中学へようこそ」。

原作は、山本悦子さん。

 

 

 

 

主人公は、沢田優菜という女の子。

彼女が、中学校に進学をする時、祖母の幸が、「自分も中学に行く」と言い出します。

幸は、子供の頃、家の事情で、学校に通うことが出来ず、文字の読み書きが出来なかった。

そして、それを、これまで、家族にも、隠して、生活をして来た。

幸が、文字の読み書きが出来ないことを、夫が、かばって生活をして来たのだが、その夫も亡くなり、幸は、一念発起して、「夜間中学」に通い、勉強をすることを決意したのだった。

 

しかし、幸が、夜間中学に通い始めて、しばらくした頃、幸が転倒し、足を痛めてしまう。

そして、幸の足が治るまでの二か月の間、孫の優菜が、幸の通学をサポートすることになる。

その優菜の目を通して見た、夜間中学の生徒たちの物語が、この本。

 

この「夜間中学」には、様々な人が通っている。

物語では、76歳の幸。幸と同年代の松本さん。中学の勉強について行くことが出来ず、今は、働きながら、夜間中学に通っている美緒。小学校の時にイジメを受け、中学は不登校のまま卒業してしまった和真。

この四人が、同級生として、一緒に授業を受けている。

 

優菜が進学をした中学では、同級生たちは「出来れば、勉強なんかしたくない」「出来れば、学校なんか行きたくない」という考えを持っている。

授業を受ける態度も、不真面目な生徒が多い。

しかし、夜間中学の人たちは、「学ぶ」という喜びに溢れ、熱心に授業を受けている。

その姿を見た優菜は、「学校に通う」ということ、そして「学ぶ喜び」ということを、真剣に考えることになる。

 

また、その学校には「夜間中学」と同時に、日本語教室もあり、多くの外国人が通って来ている。

彼らもまた、働きながら学び、優菜は、その外国人たちからも、大きな刺激を受けることになる。

 

さて、この「夜間中学」について、最近、NHKで、何度か、岡山の夜間中学をテーマにした番組が放送されていたのを偶然に身て、ずっと、関心を持っていました。

やはり、本来、当たり前に受けているはずの教育が受けられなかったということは、その後の生活に、大きな支障をきたす。

そして、様々な事情で、学校で勉強をすることが出来なかった人たちが、この夜間中学で、勉強をしている。

特に、文字の読み書きが満足に出来ない、そして、簡単な計算が出来ないとなると、まともな仕事に就くことが、ほぼ、不可能なのではないでしょうかね。

そのため、最低の、貧しい生活を強いられることになる。

 

この漫画に登場する「幸」や「松本」は、戦後の混乱期で、満足に学校に通うことが出来なった。

 

幸は、父親が戦死をし、戦後、母親が、必死に働いて生活をしていた。

長女だった幸は、家のことを任され、家事全般、そして、下の兄妹の面倒を見ることに精一杯で、学校に通うことが出来なかった。

 

松本は、満州から引き揚げの混乱の中で、親が亡くなった、いわゆる戦争孤児ということになる。

松本もまた、自分が生きて行くことに精一杯で、学校になど、当然、通えない。

 

戦後、長い年月が過ぎ、こういう事情で、学校に通えなかったという人は、もう、ほぼ、居ないのかも知れない。

しかし、他の様々な事情で、学校に通えなかったという人は、今でも、数多く、居るのではないでしょうかね。

例えば、病気のために学校に満足に通えなかった人。

和真のように、イジメのために、学校に行けなくなってしまった人。

美緒のように、学校の勉強に、上手く、ついていくことが出来なかったという人も居るのかも知れない。

そういう人のためには、改めて、学び直す期間は、どうしても必要ということになる。

 

日本は、「教育」というものにかけるお金が、他の先進国に比べると、極度に低いという話は、よく聞くところ。

本来、こういった場所にも、十分な予算を回すべきなのでしょうが。