井上井月という人物を、知っているでしょうか。
江戸時代の終わりから、明治の初めにかけて、信州の伊那という地方で生活をしていた俳諧師です。
僕は、この井上井月という人を、つげ義春さんの漫画「無能の人」で、初めて、知りました。
実際に、このような人が、存在をしていたのかと、興味を持ったところです。
井上井月のことを知りたいという人は、まず、この本を読むと良いでしょう。
一般に知られている井月の姿、そして、井月の残した俳句が、収録されています。
この井上井月は、当初、俳諧師としては、全く、無名の人だったということのよう。
本来なら、そのまま、忘れられた人になるはずだったのですが、あることをきっかけに、世に知られることになる。
それは、芥川龍之介の主治医だった人物が、子供の頃、実際に、老齢の井月に接していたということ。
自分が子供の頃、村に、このような人が居たということを芥川に話したところ、芥川が興味を持ち、その人のことを本にして出版することを勧められたそう。
そのことも、上の本には書かれています。
僕が、この井上井月という人物に興味を持ったのは、その「生き方」の不思議なところ。
江戸時代の終わりに、信州伊那に姿を現した井月は、何十年も、亡くなるまで、その伊那で過ごす訳ですが、最期まで、定住をする場所を持たなかった。
俳諧師として、俳句を教えたり、仲間たちと連句をしたりしながら、知り合いの家を泊まり歩く生活を、亡くなるまで続けることになる。
そして、晩年には「乞食井月」と呼ばれ、邪魔者扱いをされても、伊那を去ることは無かった。
その時の姿が、一般の井上井月のイメージで、「無能の人」の中にも描かれている。
僕は、この「井上井月」の生涯に興味を持った訳ですが、井月本人は、自分の生い立ちを周囲に語ることは無かったようで、伊那に来るまでの井月のことは、ほぼ、分からないということのよう。
元々は、越後長岡藩の武士だったということは確かなようで、その井月の生い立ちの謎を追ったのが、この本。
上の本は井上井月の生涯を、詳細に追ったもので、非常に、興味深いものでした。
井上井月は、日記も残しています。
井月の、伊那での生活が知れて、興味のある人にとっては、面白いものでしょう。