井伏鱒二さんの小説は、大江健三郎さんの小説とは反対に、読みやすく、分かりやすく、面白いです。
純文学というよりは、大衆文学に近いのではないかという印象です。
実際に、井伏鱒二さんは、「ジョン万次郎漂流記」という小説で、直木賞を受賞している。
芥川賞ではないところが、意外なところ。
代表作と言えば、広島の原爆被害を扱った「黒い雨」ということになるのでしょう。
そして、有名なのは、短編「山椒魚」。
個人的に、大好きなのは「本日休診」という小説。
戦後、間もない頃の東京。
主人公は、町の産婦人科医院の先生で、その病院を訪れる人たちの悲喜こもごもを描く。
みんなが貧しかった時代。
患者たちは、それぞれに、貧しさや事情を抱えている。
その患者たちに、優しく接する先生。
何度も読みたい小説です。
そして、もう一つ、大好きな小説が「さざなみ軍記」。
若き平家の公達が主人公。
源義仲が京都に侵攻し、主人公たち平家は、西国に都落ちをすることになる。
主人公たちは、瀬戸内の海を舞台に、源氏を相手に勇敢に戦い続けます。
「ジョン万次郎漂流記」もまた、面白い小説で、ジョン万次郎の人生が、簡潔に、分かりやすく、面白く、描かれている。
ちなみに、「ジョン万次郎」という呼び方は、この小説によって広まったという話。
それまでは、日本では「中浜万次郎」、アメリカでは「ジョン・マン」と呼ばれていて、井伏鱒二さんは、その二つをつなげて「ジョン万次郎」としたということなのでしょう。