灯台の街へ行くなら、何か光る物を忘れずに。 -9ページ目

夕暮れの紅い西日を透かした吹寄障子。
夏の残り香を思わせる青い祝儀敷きの畳床。


数十畳の大座敷に中央には、
1本の槍が垂直に突き刺さっていた。

柄にも刃にも飾り気は無い。


単純な造りであることは、
禍々しさも清浄さも感じさせる。




…槍の前に立つ一人の女性が私だ。


一糸纏わぬ姿ではあるが、
腰まで伸びる長髪は羽織の如く
肩や胸で歩みとともに靡いた。


細長い指で槍の柄を握る。
腕も華奢で膂力は無い。
畳に深々と突き刺さった槍を抜くには
あまりにも頼りないが、
握手を上げれば
槍は寄り添うように着いてきた。


畳から引き抜かれる音も無い。




その腕を水平に…。
切っ先で円を描く。
私はその中心で廻る。


槍の延長線上にある障子は音も無く切断されて
座敷を閉鎖する全ての壁は切伏せられた。


開放された全方位から冷たい風が流れ込み、
風は畳も天井も吹き飛ばして
私に次の景色を見せてくれた。




茜色から翠色へ。


遥か頭上から淡い翡翠色の光が降り注ぐ
石灰で作られた塔の中にいた。

円筒状の壁には螺旋階段があるけれど、
その段差は人の背丈を越えていた。


風の通り道の様だと思った。

不規則に流れを変える冷たい風が、
私の素肌から体温を急激に奪ってゆく。


寒いと感じるより先に、
私の身体は塔の材質と同じ石灰と化していった。


白く、硬く、冷たく彩られた独りの彫刻は
瞬く間に表面から風化してゆき、
粉々になって螺旋階段を昇っていった。




…身体の破片全てが風を感じる。
塔の頂上に近付くにつれ、酷く寒く感じた。


…とても、




…とても寒くて目を覚ました。
昨日の雨が原因だろうか。

今朝は曇天で気温も低ければ当然室温も低い。

私がまず最初に行った行動は、
寝床をタオルケットではなく
布団に昇格させた事だった。


と、凍死する…。