指先が腫れていたので
爪の先を絞るように押したら
腫れ物から白いハリガネムシのようなものが
飛び出してきた。
動いてはいないので
生きてるわけではないのだろう。
得体の知れない白いものを
摘んで引きずり出すと
7~8センチほどの長さにも及んだ。
根元の部分には刺々しい突起物が
いくつか付いてる。
まるで巨大な皮脂の角質だ。
指先には大きく深い穴が開き、
関節が動かせなくなった。
神経ごと抜けてしまったのだろうか。
黒いメイド服を着た使用人が
椅子に腰掛けていた。
肌は青白く、眼はくすみ、
白い前掛けは不衛生にも薄汚れている。
座ったまま前に屈み、
長いスカートの裾をゆっくりとたくし上げると
細くて綺麗な素足が表れた。
その形を酷く歪ませているものがひとつ。
膝のおおきな瘤。
私は彼女の前に跪いて
瘤を優しく強く押すと、
数箇所から白い角質が飛び出してきた。
それを先端が丸まったピンセットで
丁寧に引き抜いてゆく。
ずる・・・
・・・ずる・・・・・・
・・・・・・ずる・・・・・・・・・
彼女の膝は穴だらけになった。
しばらく放置して観察すると、
穴から赤いものがとろとろ流れてきた。
血と油が混じったような重い液体だ。
膝から下が赤く染まってゆく。
自分の、穴の開いた指先を見ると、
そこからも同様に赤い液体が流れていた。
一部は固まって白く変色してる。
そして穴の周りには
また無数の腫れ物ができていた。
彼女も、膝の瘤が周囲に転移してる。
今までマネキンの様に顔を微動だにしなかった
彼女の唇が動いた。
「いつまで、抜きますか?」
私は首を振った。
このままでは全身が穴だらけになってしまいそうで。
怖くなってピンセットを落とすと、
床に響いた金属音に反応するように、
私の指先が酷く痛んだ。
殺虫剤を掛けられたハチノコが
蜂の巣からボトボト落ちていくように、
白い角質が腫れ物から零れてゆく。
彼女の膝の周りも同じだ。
痛くは無いのだろうか。
彼女は表情を変えない。
指は、
骨の周りに穴だらけの皮が張り付いてる
気味の悪い作り物の様になっていた。
うんざりな事に、
しばらくするとまた私の指の周りが腫れてくる。
少し手の平まで侵食してる。
べちゃっ
…。
彼女が口から白い角質を吐き出し、
それが足元で潰れた音だ。
唖然と固まる私に対して、
彼女は少し首を傾げ、
小さく可愛らしい唇を広げた。
舌が穴だらけだった。
彼女の顔がやがて穴だらけになる様を想像し、
私の胃が急激に収縮して、
食道が内側からの奔流に悶えるのを感じた。
それを寸でのところで食い止める。
吐瀉物に白いものが混じっていたら…
そんなことは恐ろしくて耐えられない。
「ほうっぇおいへも、ほえへひまぅぉ」
(ほうっておいても、とれてきますよ)
遅かれ早かれ、
穴だらけ。
でも、
「それは…ない…」
首を傾げる彼女に、私は確信を持って言った。
「これは
夢だから」
…もそもそと起き上がり、
夢の中で出会った黒いメイドへ捨て台詞を吐く。
「・・・君ひとりで喰われてくれ」
とりあえず、嫌な夢だった。
昨夜作り置きしたキノコの味噌汁だけど、
どうもエノキが夢の中のあれに見えて食べたくなかった。
白い御飯も食べたくない。
朝食を抜いて出勤した。