灯台の街へ行くなら、何か光る物を忘れずに。 -7ページ目

直径5メートル程の円柱状に造られた温室。

長方形の鏡で敷き詰められた壁。

発光する暖かな天井。


部屋の中央には木の椅子がある。

腰掛けている猫が私だ。


見渡せば、壁際には大きく長い植物が、

手前に寄るほど小さく可愛らしい植物が

鉢の中で育てられている。


そのどれもが食用の実を結ぶ。


植物自体には興味ないけれど、

少しずつ伸びてゆく幹や

いつの間にか増えてゆく葉の数に喜ぶ

人間みたいな機械を見るのが

唯一の退屈凌ぎった。


最近、故障してきたらしい。

皮膚のような柔らかい装甲は

ところどころ罅割れて、

欠けた内側に金属の歯車が見え隠れする。


…彼が止まってしまったら、

まぁ、彼女と呼んでもいいのだけど、

本当に詰まらなくなりそうだ…。


つまらない事を考えると欠伸が出る。


それを見た機械が

穏やかな声で言った。

「待っててくださいねー。

もうすぐ次の実が成りますからー」


…確かに、

木をここまで育てるのに費やした時間にくらべれば、

数百時間の待ち時間など「もうすぐ」なのかもしれない。


私はそれを寝て待つことにした。


「ぁ、お休みになられますかー?

それでは明かりを消しますねー」


人型の機械の指は腕より長い。

するりと伸びた指先で、

壁に設置されたスイッチを押した。


天井の白い明かりが消える。

変わりに、月明かり程度の

ぼんやりと薄暗いブルーライトが照らされた。


「おやすみなさいー」


…返事をしようと思ったけれど、やめた。

ニャーとかゴロゴロとしか言えない、

この身体はあまり気に入っていない。




…。



…次に起きたとき、

椅子の下で倒れている機械を見つけた。

まるで糸が切れたマネキンのように。


植物は全て枯れていた。

無菌の温室だから、ただ水分だけを失って

朽ち果てている。


機械の手の平に、

干し柿みたいな物が乗っていた。




私はこの世界で初めて椅子から降り、

砂みたいに萎れた木の実をひと舐めした。


味はない。

そもそも、味覚がない。


「おはようございますー。

ほらほら、木の実が出来たんですよー。

めしあがれー」


そんな、今までに何度か聞いた定型文を思い出した。

彼にとっては決め台詞といったところだろうか。

ろくに鳴きもしない猫の為に

木の実を持ったまま起きるのを待ち続け、

二度と動けなくなってしまった私の…ただひとりの…


…。


私は彼に頬擦りしながら、

暗闇の中で瞼を閉じた。




…そこで目を覚ましたのだけど、

目を開ける気になれなかった。


死ぬまで傍にいてくれる人が

もし私に居てくれたなら、幸せなことなのだけど。




壊れてしまった機械の顔が思い出せなくなるまで、

私は寝た振りをしながら携帯の目覚ましアラームを聞いた。