灯台の街へ行くなら、何か光る物を忘れずに。 -11ページ目

身体のほとんどが穴で埋め尽くされていて、

わずかな肉片が形成すシルエットが人間に近い以外、

それを人と呼べるものが無かった。


すかすかになった海綿体で出来た人間とでも言おうか。


彼は先程から、ずっと赤銅色の天秤で色々なものを測ってる。

剃刀の刃やワインボトルのコルク、

欠けてしまった消しゴムに、色褪せた名刺…。


なぜそんな事をしているのかが気になって歩み寄ると、

穴だらけの測量士は頭の部分らしき箇所をぐいっと捻った。


…そして傍らの御面つけた。

白い下地に黒い線でT字が書かれただけの御面だ。

本当にそれだけで「人の顔」に見えるのだから

人間のデフォルメの可逆性には驚かされる。


これで彼が私の方を振り返ってくれた事がわかった。




「何を測ってるんですか?」


声を掛けてみたが、御面の中からは

『ゴボゴボゴボゴボ!ゴボゴボゴボ!!』

と水の中で息を吐くような音が聞こえるだけで

何を言っているのかがまるでわからない。


…でも返事をしてくれたということは、

少なくとも私の声は聞こえているらしい。

私の言葉は通じてはいるだろうか。




御面の中から水の音が消えると、

彼は机の上のノートを私に差し出してくれた。


ありがとうと礼を述べて手に取ってみる。


1行につき、左端に色が塗られていた。

青や黄色、水色に紫…淡さも明るさもバラバラで、

色の規則性はわからない。

色の隣には数字が書いてある。


色は測量物を示し、数字はその重さを示しているのだろうか。

とも思ったが、数字の中には負の値を持つものもある。

…少なくとも物理的な質量をそのまま書いているわけではなさそうだ。


数値が何の価値を示すのかはわからなかった。


もう一度、礼を言ってノートを測量士に返す。




測量士は天秤の仕事を再開した。


測る物は、気が付くと机の上に現れていて、

重さを測り終えると幻のように消えてしまう。


ボタンの無いコントロールパッド、

蓋が欠けた醤油注し、

自転車のペダル、

焼け爛れた人形…


次々と天秤に乗せられては数値化されてゆく。

数値の意味はわからないけれど、

ずっと眺めていると測量物の共通点に気が付く。


みんな、

嘗ては必要だったけど、

壊れたり役目を終えたりして、

捨てられた物ばかりだ。




またワインのコルクが天秤に載せられる。

測り終えたコルクは机の上から消えようとするが、

その前に私はコルクを摘み上げた。


綺麗な装飾が施されたコルクだった。

栓が抜かれなければ装飾は誰の目にも止まらない。

けれど栓が抜かれたら捨てられてしまう。


また測量されてる物を見ると、

中には文化祭のポスターに使うような、

アルファベットの「R」の字に切り取られた色紙もあった。

広告の役目を終えたら捨てられてしまうのに、

わざわざ鋏で不器用に切り取られたアルファベット。


そんな儚いところに、

時間を費やした人々がいる事が切なくなった。

私も同じ事をよくする人間だから。


いつの間にか、涙が頬を伝っていた。




ほたり


涙が落ちたのは、天秤の皿の上だった。

測量士が手を伸ばして、わざわざ受け止めてくれたのだ。

皿は天秤に戻され、その針は涙の重さの分だけ傾いた。

…消しゴムや鉛筆よりも、ずっと重く。


それも丁寧に記帳される。


色は青だった。

数字は何桁もあって覚えられなかったけれど、

2と7が多かった。小数点はあったかな…。




そこで突然夢は終わる。


枕元に置いてあった携帯が鳴り出したのだ。

目覚ましのアラームかと思ったけど、

アラームと同じ着信音だった。


…なぜ同じにした、私。


寝ぼけ半分で自分にツッコミを入れてる間に

着信音が切れてしまったので、

私の方から掛けなおすことに。


「おはよー。

昨日のメール見た?」




…What?




…昨日はミーティングも飲み会もあったから、

ずっと電源を切ってたんだ…。

寝る前に電源つけてメールを確認しようとしていた記憶はある。


…受信メールを見たら昨日の昼頃に受信時間が。

そりゃ電話もくるというものだ…。手数を掛けて申し訳ない。