この世界には空と海と橋しかない。
雲すらない青い空と、その色を映した海の境界に在る
水平線へ吸い込まれるように
巨大な橋が真っ直ぐに続いている。
橋の中央は15mほどもある車道だけれど、
通る車は1台も見かけない。
車道を挟むようにして歩行者用の通路が3mほど
フェンスに隔てられれて隣接していた。
何処まで行っても横断歩道すら無いから、
反対側の歩道へ行くことはできない。
そんな橋を、
私はひとりの女性と一緒に渡っていた。
お互い、身に着けているものは何も無く。
進む理由や橋の先に何があるのかは意識せず、
私はひたすら歩き続けている。
とうに脚は歩き疲れていて、特に足の小指がひどく痛かった。
時折、歩くの休んでフェンスに寄りかかる。
空を見上げて「夢の中なら飛べるのにな…」などと独り言を言えば、
傍らの女性が何かを言って反応してくれた。中国語で。
何を言っているのかは分からないけれど、優しい顔だった。
私の言ってる事は理解できてるらしい。
…それなら、君も日本語で会話してくれれば、もう少し楽しめるのに。
また歩き出そうとフェンスから離れたところで、
…現実世界の携帯が鳴った。
実家から荷物が、これから私の家に来るらしい。