平成23年度北海道舞台塾シアターラボ『Man-Hall』。 | 言の葉

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日々のささやかな出来事。

平成23年度北海道舞台塾シアターラボ『Man-Hall』
リリカル・バレット
2012.03.10公演
コンカリーニョ

作・演出 谷口健太郎
ドラマドクター 御笠ノ忠次(案山子堂)


子供の頃、蒼介(谷口健太郎)は兄・朝陽(明逸人)と友人・秀くん(城谷歩)と遊びに行った時、蓋の開いたマンホールを見つけた。
中に入ろうと言ったのは蒼介で、危ないけど興味があると言ったのは秀くんで、やめようと止めたのは朝陽。
だが、マンホールに落ちて死んだのは、朝陽だった。
そして蒼介は事故の記憶も、朝陽の顔も忘れてしまった。

5年前から病院で眠り続ける彼氏・蒼介を日々見舞う彼女(原田充子)。
時々見舞いに現れる蒼介の母親・智恵(庄本緑子)は、憔悴が隠しきれない。蒼介の父(棚田満)は、生活費と蒼介の医療費を稼ぐ為、中々見舞いには来れないのだ。
蒼介が子供の頃に起きた事故や、それ以前から蒼介と母親との仲が上手くいっていなかった事を、彼女は人伝に知らされていく。
蒼介を担当するナース(城谷歩・明逸人)や、医師(菅原啓太)は、彼らを励まし見守っていた。

その頃、蒼介はマンホールの底で兄・朝陽を探していた。
暗闇の中で倒れている男(もしくは少年)(城谷歩)を見付け、蒼介は彼を朝陽だと思うのだが、会話がすれ違う。
出口を探し、誰か居ないのかと人を探す蒼介に、男は『そこに居るじゃない』と暗闇を指すが、蒼介には誰も見えない。
『兄ちゃん』と呼び掛ける蒼介に彼は言う『僕は帽子を被って無いよ』と。

病院では5年間なんの変化もない蒼介の治療を諦め様とする智恵と反対する夫の口論をナースが仲裁している最中、蒼介の呼吸が停止する。
直ぐに処置が施され、安定するものの、智恵は思い詰めた顔のまま帰って行く。

男が消えてしまった為、再び朝陽を探し始めた蒼介の目の前に、帽子を被った少年(明逸人)が現れる。
彼こそが、蒼介が顔を忘れかけていた兄・朝陽だった。
先程、朝陽と間違えた男は秀くんだったのだ。
『ここがどこだか解ってる?』『早く帰れ』と言う秀くんと朝陽に、『兄ちゃん、俺帰りたくない』と弱音を吐く蒼介。
封印していた蒼介の記憶が少しずつ甦る。

深夜の病院に鳴り響くアラーム音と病室から出てくる智恵。
そこにナースが駆け付け病室に入り、アラーム音が止まる。
智恵に声を掛けるナース。『呼吸器を止めたら死んでしまうんですよ』と。
『これ以上は辛いだけでしょう』と言う智恵に『お母さんがですか?』と切り返すナース。
智恵は朝陽ばかりを可愛がり、子供の頃の自分に似た蒼介に冷たく接していた。その関係が改善されないまま、ずっと来ていたのだ。
アラーム音を聞き付けてやって来たらしい、医師に診察と伝言を頼み、智恵を説得する。
『蒼介くん頑張ってますから。今まで生きてくれているじゃ無いですか。これからやり直せば良いんですよ』
医師に呼ばれた蒼介の父と彼女が病院にやってくる。父親の手には、家の押し入れから見付け出してきた帽子があった。
子供の頃、智恵がご褒美として朝陽にあげ、蒼介も欲しがっていた帽子。本当は、蒼介の分も買ってあったのだ。
『意地を張ってないで渡して来たらどうだ』
夫の言葉に背中を押され、智恵は帽子を手に病室に向かう。これからやり直す為に。

マンホールの中では、中々帰ろうとしない蒼介に、帰りたく無い理由がある筈だと言う朝陽と秀くん。
何が嫌なんだ?と聞けば、帰っても居場所が無いからだと言う。
朝陽が死んでから、智恵との関係が決定的に拗れた蒼介。自分が死んだ方が良かったのではないかと思い詰めるが、秀くんに『それは言ってはいけない』と止められてしまう。
朝陽の死後、秀くんは間もなく転校し、蒼介は1人残されてしまった。
秀くんは、誰かを救うためなら何でもしようと決意し成長するが、蒼介は朝陽の事故への後悔に捕らわれたままだった。
たまたま起きた事故だったんだから、と言う朝陽に納得出来ない蒼介。

朝陽はマンホールの上に向かって叫び出す。智恵への感謝と、智恵が蒼介へ冷たく当たる事への不満を。
叫び終わった後、蒼介にマンホールの下へ来るようにぴしっと示す朝陽。
わくわくと見ていようとする朝陽に背中を向けさせ、蒼介はマンホールの上に声を上げる。
智恵と話がしたい事、子供の頃に朝陽と同じ帽子が欲しかった事、朝陽と同じじゃないけど、自分でも良いのかと言う事。
叫び終わり座り込んだ蒼介に、朝陽が脱いだ帽子をぐいぐいと被せる。
『俺の分も孝行してくれよ』
立ち上がった蒼介が帽子を被り直し、朝陽を見詰める。
マンホールの上から光が落ちてくる。それを見上げる蒼介。光が柔らかく蒼介を包む。



ざっくりとした粗筋はこんな感じです。
書ききれない感情のやり取りが素晴らしくて、皆観て欲しいと思う作品でした。
照明もリリカル・バレットブルーはやはり綺麗だ。あの色好きだなあ。
曲もまたガツンとしたの持って来たなあと。1曲目から『炉心融解』だもんな。
今回は無音の中での芝居部分も多かったんだけど、選曲とタイミングのセンスはやはり素晴らしい。

芝居は庄本さんが凄くてね。智恵お母さんが!もうね、智恵VSナース秀くんの場面は凄かった。観客の集中が特に。全体的に集中して食い入る様に観ていた芝居だった。
そしてその2人の緊張を破る医師は勇者だと思ったね……。

ナースはダブルキャストなのです。前半は殆ど朝陽が出て来ないので逸人さん、後半は少年秀くんが殆ど出ないので城谷さん。でもこのダブルキャストが絶妙だったと思うなあ(姿が同じなので同一人物で間違いない筈)。
ナースさん、頭に花飾り着けてて、この人が秀くんだと後半解るんだけど、女性物のナーススーツ着てる。
『(この姿でいるのは)色々あるのよ』
と言う台詞の意味には、目を醒ました蒼介に秀くんを見て(何しろ担当ナース)笑って貰うため、ってのも含まれている。
『誰かを救う為ならどんなことでもやる』秀くんなんだよね。病院公認で……。

朝陽と蒼介。マンホールで会う朝陽は多分死んだ時のままの、少年の朝陽なのかなと思うんだけど。
少年朝陽に20歳を超えた蒼介が、『兄ちゃん、俺帰りたくない』発言する画!
蒼介ー!!お前どんだけ凹んでんだ!!そりゃ兄ちゃん心配で出て来ちゃうわー。

今回の芝居は谷口さんの脚本では珍しく、観客の想像に委ねる部分があったね。
蒼介が何故今この状況(病院にいる理由)にあるのかは語られないし、マンホール世界の定義についても語られない。
だけど、5年寝たままなら事故か急病なんだろうなあとか、マンホールは蒼介の夢の中か、彼岸と此岸の間なのかなと想像出来るし(でも間説だと秀くん生霊になってしまうな)。
ストーリーには全く影響ない部分なんだけどね。
語られない部分がちゃんと浮かび上がって想像出来て良かった。

ゲネではラストに朝陽と蒼介は立ったまま帽子を手渡していたんだけど、本番では座り込んだ蒼介に朝陽が帽子を被せる、と変更していた。
ここ、ほぼ唯一朝陽の方が視線が高くなる場面なんだよね。凄く好きな場面になりました。

家族の話で友達の話で、すれ違いの話で。とても優しい話でした。

台本販売されるかなあ。じっくり読んでみたいな。


【出演】
城谷歩(劇団深想逢嘘)
明逸人
原田充子(Real I's Production)
菅原啓太
庄本緑子
棚田満(劇団怪獣無法地帯)
谷口健太郎