ドル高は海外での売り上げが目減りするため、米企業に財務諸表上の問題を引き起こすが、実体面でもダメージを受ける。顧客は減少し、競争は厳しくなり、利益は減少する。だが迅速に対応しづらく、その結果企業利益や米国の成長にとって問題となる。
海外売り上げが全体の88%に達する化粧品大手エイボン・プロダクツは、新価格表示のパンフレット印刷に時間が掛かるため、ドル高分を補てんするための値上げを迅速にできないでいる。また、米国旅行の価格が突然値上げとなり、エクスペディアのウェブサイトを通じてホテル予約をする外国人観光客が減少している。プロクター&ギャンブルなど消費財メーカーの欧州のライバルは、米国市場で価格競争を挑める強みを手にしている。
JCペニーのマイロン・ウルマン最高経営責任者(CEO)は、ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、ドル高が輸出に打撃を与えることが米国の成長にとの脅威となっていると指摘した。このことは、今後数週間に発表される米多国籍企業の昨年度決算で明らかになるだろう。医薬品・健康関連用品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は21日、ドル高が続けば、同社の利益に及ぼす影響は、昨年10月の予想の2、3倍になろうとの見通しを明らかにした。
多国籍企業はここ10年間、為替変動を回避するため生産の海外シフトを進め、輸出依存度を抑えることに努めてきた。しかし、サンフォード・C・バーンスタインのアナリストであるスティーブン・ウィノカー氏によれば、こうした努力は十分ではなく、多くの企業が売り上げ不振に陥っているところに、ドル高が起きた。ウィノカー氏は「成長率が7―9%だったならば、それほど懸念しないだろうが、大半の企業の基調的な成長率は1ケタ台前半から半ばであり、この向かい風はきつい」と語る。
エイボンのシェリー・マッコイCEOは、同社の再建に懸命に取り組んでいるが、ドル高が重荷となっており、前途多難のようだ。同社の今年度第3四半期の売上高は8%の減少に見舞われたが、為替要因がなかったならば、1%の増加だった。
顧客管理ソフト大手のセールスフォースは売り上げを急速に伸ばしており、昨年10月末に終わった四半期期の売上高は29%増に達した。同社は売り上げの4分の1超を海外で稼いでおり、顧客の減少を避けるため、海外では値上げを抑えている。しかし同社は昨秋、今後1年間の売り上げ高は1億2500万―1億5000万ドル減少する公算が大きいとの予想を示した。
オンライン旅行サイトのエクスペディアのダラ・コスロウシャヒCEOによれば、ニューヨークなどのホテルは、欧州や南米の多くの中間所得層にとって米国旅行は手が届かなくなっているため、ここ数カ月間に需要が減退しているとの懸念を示している。外国人観光客の減少は高級宝飾ブランドのティファニーにも影響を与えている。同社は先週、観光客の減少とドル高により、年末・年始の連休中の売り上げが失望すべきものとなり、今後1年間売り上げの低迷が続くだろうと警告した。
米企業は、外国勢がドル高を受けて米国市場で値下げに向かうリスクにも直面している。バーンスタイン社の消費財部門アナリストであるアリ・ディバジュ氏は、「ドルが強くならば、外国企業にとっては米国市場で米国企業と対抗するための武器が多くなる」と語る。
By THEO FRANCIS