よそのお子様をお借りしたものです。
またか、とため息を吐きたい気分だ。
バチバチと耳元で鳴り続ける音を聞きつつも解けてしまった髪を結び直す。急いでなんとなくで伸ばし続けている髪の毛を切るべきか、といい加減思い始めてきた。
静電気が起きやすい季節になるといつもこうだ。異能がうまくコントロールできていないせいで普通の静電気の威力を上げてしまう。俺は電気の異能者だからなのか大した音がうるさいぐらいで大した衝撃はないが、人に当たるのはもちろん異能者であることに気がつかれると面倒だ。過激派みたいに暴れまわってるわけじゃないが異捜の奴らに見つかったらほんとに面倒この上ない。幸いに周りで気づいてるやつはいないみたいだ。何度もバチバチ鳴っているせいで少しイラついてきた。感情に左右されやすいからこのあともなるだろう。バレたくないから横道にそれる。
さっきよりは小さくなったがまだバチバチいってやがる。
手をこすり合わせてから離すと静電気起きてやがるし、冬はうまいものが多いから好きなほうだがこれだけは好きになれない。
なるべく人目につかない場所を通って行くか、と歩き始めようとしたとき近いところから悲鳴が聞こえてきた。
厄介事だろうなぁ、と思いつつも足はそちら側に向かって動いている。
「ここら辺、だよな」
近くだったとは思うのだが声だけで場所を特定出来るような特技は持ち合わせていない。
探すか、と角を曲がったところに男が倒れているのを見つけた。
「おい、大丈夫か!」
慌てて駆け寄り抱き起こして壁に背をあずけられるように座らせる。外傷がひどい上に意識もない。息をしているから病院に運び込めばいい。けど、さすがに男一人を担いで病院に連れて行くことはできない。救急車呼ぶしかないか、と電話をかける。無事に呼ぶことはできたが問題は救急車がくるまでの間にこんなことをしたやつが襲って来るかもしれないことだ。一般人だろうと襲う異能者はいる。それだった場合は厄介すぎる。
上から、風を切るような音が聞こえた気がした。
「っ!?」
咄嗟的に横に跳ぶとさっきまでいたそこに蹴りが入った。青紫色の髪をした男だということに気がついた瞬間に、近くにいるのは危ないと察知して数歩後ろに下がる。誰だか知らないが、怪我人の前で異能を使えば確実に巻き込む。それに救急車がもうすぐくる。逃げる振りをしてこっちに引き付けるしかないか、とわざと電気を体にまとわせる。バチバチと小さい規模の電気だが、俺が異能者であることを分からせるのには十分だ。
「てめぇもこいつと同じか、丁度いい潰したりねぇと思ってたところだ」
ニヤリッと笑う顔に寒気がした。
これは完全に過激派思考のやつだ。
冷や汗が背中をつたっていくことを感じつつも、息を吐き出して勢いよく走り出す。
「逃げてんじゃねぇぞ!!」
怒鳴り声が聞こえてくるがそんなこと気にしてる場合じゃない。まともに戦って勝てない相手に怪我人のことを気にしながらなんてやったら確実に負ける。元々勝てるとも思っちゃいないが時間稼ぎが必要だ。だったら逃げるが勝ちだ。
適当に走り過ぎたせいか、曲がった角にあったのは行き止まりだった。くそッと吐き出してなんとかして別の道に行くために、もう一度走り出そうとしたが、目の前を風が横切った。
突然のそれに息が詰まる。
ぎりぎりで、前髪が少し切れたぐらいで済んだが、食らっていたらひとたまりもないのはその風が突き刺さった壁を見りゃわかる。
逃げたかったが、仕方ないと諦めて後ろに下がる。
「ハッ! 逃げ切れるとでも思ったかよ」
こっちを馬鹿にしている態度はくそ腹立つ、が、挑発してしまったらこっちが負けるの確率が上がってしまう。
格上相手にそれだけは避けたい。
戦う意思を見せることでそれを回避するしかないか、と戦闘態勢をとる。いつもより持っている武器が少ないが、新作として渡されたものもあるし、鎖はいつも通り持っている。ある程度時間稼ぎをしたら逃げる、ぐらいは多分できる。さっきの風で鞄が切れてしまったから逃げるときに荷物になる。遠くに投げておいて逃げるときに拾った方がいいだろう。
「潰れろ!!」
男の言葉と共に上から無理矢理押し付けられているような重みに襲われた。
重力の異能者かよ、と心の中で舌打ちを打つ。元々スピードとかには自信はないが動きにくくされるのは結構厄介だ。
「くそっ!」
重力で動けなくなっているところに何かが飛んでくる音が聞こえた。無理して腕を振ることで鎖をそれに当て道を逸らして直撃を避けることはできたが、腕に少し掠った。
「って、まじかよ……」
鎖を見てみれば当たった部分が見事に切れている。まだ辛うじてつながっているが、異能で作った鎖がこうも簡単に切られると、ショックは大きい。
使えるだけマシか。
さっきみたいに道を逸らすことが出来るのはわかった。盾としてならまだ使える。
次はどうくるか、と身構える俺とは違い、相手の方は余裕のある顔をしてやがる。
少なくとも五分は経っているはずだから、あともう少し時間を稼げさえすればそれいい。戦い方はまだわかんねぇが、時間稼ぎだけならなんとかなる。
竜巻状態なら見えるんだが、ただの鋭い風にしてやられるとそこらへんにあるのがわかる程度で、ただでさえ厄介な重力と風の異能ってくるととことん不利だ。逃げるってのは嫌いなんだが、こう来ると仕方ない。
「大人しく潰れてろっつーんだよ!」
「いやだ、ね!」
重みでギシギシと軋む腕をなんとか動かして逸らすものの一個ならまだしもそれ以上だと重症を避ける、程度のものにしかならない。掠った場所は次々に増えていく。
腕はもちろん、足、体、顔、切り傷だらけと言っていいぐらいだ。正直痛くてたまらない。鎖もボロボロになってしまってもう盾として使うのは無理だろう。
「チッ、しぶといやつだな、いい加減潰れてろ」
「いやだって言ったはずだぜ、くそ野郎」
まだ、一度もできたことねぇんだけどやるしかない、な。
服の中に仕込んでいる小ぶりのナイフを取り出し、一斉に男に向かって投げつける。
男は慌てることなく、異能を使ってナイフを地面に落とした。重力を使ったのかナイフはねじ曲がり、地面に突き刺さっているものまである。
「いい加減終わりだぜ、鎖野郎!」
痛みを耐えるために息を吐き出し、立ち上がる。ズキズキとした痛みは無視して片腕を上に持ち上がると握り締めた拳の先で光った。
さっき投げたナイフに元々ついていたとても細い、電気をよく通す異能の力で作られたワイヤーだ。
「それはこっちのセリフだ戦闘狂!」
バチッと耳元で音がはじけ衝撃からか髪を縛っていたゴムがちぎれた音も聞こえた。体で作られた電気が腕からワイヤーそして地面に繋がり、男の体の周りで凄まじい音と共に青い光が弾けた。
「てっ、……めぇえええ!!」
男が地面に倒れた。
喉から勝手に咳が漏れた。相当無理をしたせいで体に限界が来ていたらしい。
正直、痺れさせるだけに押さえ込めるとは思っていなかった。コントロール苦手だし。痛みに顔を顰めつつも、立ち上がり鞄を拾ってさっさと逃げるために足を引きずりながらも歩き出す。
男のそばを通り過ぎようとしたところで、男からうめき声が聞こえてきた。
「逃がす、かァア゛ア゛ア゛ア゛!!」
「マジか、タフすぎるぞあんた!」
手を地面についてなんとか起き上がろうとしている上に声まであげるなんてなんて執念と根性だよ。バチバチと青い光がまだ弾けてるってことは痺れているってことだ。そのくせ動くとか、バケモンがこいつは!
今すぐ走って逃げるのがいいんだろうが残念ながらそんな体力は残っちゃいない。ホントなら立っているだけで精一杯なのを無理して歩いてるんだ。
どうする、どうする、もう鎖もワイヤーも残っちゃいない。体術でやろうにも体力はない。頭を回してみるものの答えは出てこない。
やっと、といった感じで立ち上がった男を目の前に冷や汗が止まらない。
が、次に男がした行動はもう一度倒れることだった。力が抜けて倒れてしまった、感じだろうか。まじかよ、と驚いているとグゥ~と息が抜ける音が聞こえた。
「……は?」
もう一度その音が鳴る。
「……腹、減ってんのか?」
これは明らかに腹が鳴った音だ。
逃げる絶好のチャンスなんだが……。
「はぁ……これ、やる」
今から行く家のやつに作ったこいと頼まれ、鞄の中に入れておいたいろんな味のクッキーが入った袋を男の近くに置く。気が乗って作りすぎた分も持ってきておいたんだが、ひと袋減ってラッキーだ。
「じゃあな、戦闘狂」
「くっそがぁあああ! 逃げんじゃねぇ、潰すぜってぇ潰す!!」
「断る」
あそこまでしゃべれるぐらいに回復してるとなるとそろそろ動き出せるぐらいだろう。さっさと逃げよ。