よそのお子さんである若竹さんをお借りして、巡(廻もいるよ)と交流させていただいたものでーす。
巡の詳細は支部見ていただければ早いよ。
探偵を職業としている若竹は今日も仕事で外に繰り出していた。
今日の仕事はしつこく付きまとってくる元彼から守ってしてほしいという依頼だった。何度も襲われかけて昨日脅迫電話までかけてきて怖くなって、探偵に頼ることにしたと言っていたが、本来なら真っ先に警察に行くべきようなものなんだが、すっかり怯えきり、震えながら涙を流したいたのを見てしまうと言いづらく、そのまま受けることにした。
今は、女性を仕事場まで見送り、それらしい男が周りにいないかを探しているところだ。いなければ会社に帰って別の仕事をして、家まで護衛する予定になっている。なにかあればすぐに連絡するようにと言ってあるので問題はない。何より元彼も仕事があるのでこれない確率が高い。元彼が出勤しているのは別のものが確認してくれたのでかなりの確率でまぁ、ない。
会社の近くには小さな湖がある公園がある。丁度依頼者の会社の出入口の見える位置がよく見えるところにあるので、見張るとしたらこの公園は丁度いい。
平日なのだが、そこそこ人がいる。
「きゃっ!」
探すのに夢中になっていたわけではないのだが、後ろから女にぶつかられた。
「ごめんなさい、よそ見してたわ」
軽くぶつかったからか、たいして痛くなかった。女の方もケロッとしてそれだけ言ってさっさと走って行ってしまった。パーカーを羽織ってほぼほぼ隠れていたが、制服を着ていた。途中で抜け出してでもきたのか。
「……なんだあいつ」
女の後ろに、黒い球体が一つだけ浮いていた。
■ ■
今日の仕事はほぼほぼ終わった。
家にしっかりと送り届け、今は近くで元彼らしきやつが現れないか見張っているところだ。聞いた特徴では大柄な男だということだったが、格闘術などは習っていなかったというので襲いかかられたとしても問題なく撃退出来る。
現れるならさっさと現れてほしいものだ。
暇だな、と小さくため息を吐き出すと、鋭い殺気を感じ取った。
咄嗟に体が動いて後ろに下がると、そこに黒い槍が突き刺さった。すぐに動き出せるようにと戦闘態勢を取り、突き刺さった槍を地面から抜いていた男に蹴りを繰り出した。
槍を盾にした男だったが、受け止めきれず軽く飛ぶ。
隙を与えないために、二撃目、三撃目、と連続して蹴りを食らわせる。全てを槍を盾にすることで直撃を食らうことは避ける男だったが、先ほどと同じように受け止めることできなかった。が、先ほど一撃目でそれを理解した男は、受け止めるのではなく、流すことにした。蹴りが槍に当たると同時に後ろに跳び、衝撃を少なくしているのだ。
ならば空中にいる間に攻撃してしまえばいいのだが、空中から着地するまでの時間が異様に短い。暗いせいでよく見えないが、何かが男の足を掴んで引き下ろしているようだ。確実に異能者だ。
「あー? あんた……もしかして異捜の野郎共じゃないのか?」
なにを突然思ったが、首を傾げた男が訪ねてきた。
「あぁ、違うな」
「マジか。異捜の野郎共が近くにいたもんだからてっきりあんたもかと思ったんだが、そりゃ悪かった。公園でもぶつかっちまったし」
異捜と間違われるとはな、と思ったが気になったのはそのあとだ。確かに、公園でぶつかられはしたが、それは女であり、こいつではない。では別のところか、と思ったが心当たりはまったくないのだ。
「貴様にぶつかられた覚えはないが」
「そりゃそうだ、ぶつかったのは俺じゃない」
「それはおかしいな。貴様はぶつかってしまったと言った」
「あぁ、ぶつかったぜ。俺じゃないが、ぶつかった」
「貴様、あの女の知り合いか?」
「いいや、俺はあいつ以上にあいつのことを知ってるが、あいつは俺という存在がいることすら知らない」
言葉だけならば、ストーカーそのものといっていいが、男の顔を見ているとそうとは思えない。そもそも、あのときの女と、この男は似すぎている。顔はもちろん、髪も服装も。まるであの女が男であった場合のような、妙な違和感が男にはあるのだ。
「……あの女について回っていた球体はお前の異能か?」
「半分正解、ってところだな」
あれが男のものであることは正解なのだろう。が、半分ということは一体どういうことなのか。
若竹をからかって嘘をついているという可能性もあるが、本当か嘘かを決められるほどの情報はない。
「ところで、あんたのこと探してる男がいるぜ。浮気とか、なんとかブツブツ言ってんだが修羅場か?」
「なんだと」
「こりゃ完全にイカれてるな。そりゃ女に嫌われるわけだ」
空中を見つめ、男はおかしそうにクスクスと笑う。
「その男はどこにいる」
「あー、こっちだな」
男が手に持っていた槍がしゅるしゅると布がとれるように地面に落ちていく男の影に溶け込んだ。黒い時点で影だろうとは思っていたが、一様若竹とは先ほどまで短かったとはいえ戦っていたのだ。だというのに、武器をしまったのは、いつでも作り出せるからなのか、それとも油断しているのか、言動といい、訳のわからない男だ。
先ほど男が言っていたのは確実に依頼者の元彼だろう。
どうやらこの男はその元彼の場所まで案内するつもりでいるらしい。罠である可能性もあるが、もし本当だったとした場合若竹を見つけられず、依頼者の方へと向かう可能性を0にすることができるが、まぁ、罠であったとしてもこのあたりの地図は頭の中にある。場合によっては戻ってこればいい。
男は時々止まったり、進んだと思えばいきなり踵を返したりと、確実に道が分かっていない。
「ほら、あいつ」
男が指を指した先には元彼の特徴に合う男がいる。どうやらこちらには気がついていないようだが。
元彼の後ろには黒い球体がふわふわと浮いており、男が手を降るとぐるりと回ったと思うと、真ん中から開いた。開いた中には目があり、開いたのは瞼だったようだ。球体は目を閉じるど、ふわふわと浮きながら男の元に返ってきた。
手元に来た球体を、ポン、と下に向けて軽く叩くと影に吸い込まれていった。
「じゃ、俺は退散するわ。いきなり攻撃しちまって悪かったな~」
「おい!」
呼び止めはしたが、男は振り返りもせずに去っていった。
ここまで連れてきてくれたのはありがたいが、最後の最後まで変な奴だった。
まぁ、いい。とにかく今は仕事だ。あの状態では気がつかれることはまずないだろうが、気を付けながら尾行するとしよう。