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Killing time

よくわからないようなことをちょこちょこ呟くだけ。
小説を書いては消してをしているかも


自己満足の為に書いているので、ペタは出来るときにしかできません。

それにさらに苦笑を重ねた和々音の耳に、小さな足音が聞こえた。咄嗟に顔を今で逃げるために走っていた狭くて薄暗い路地に顔を向けると、暗くてよく見えないが、そこを誰かが歩いて近づいてきていた。座ったまま呼吸をしている月島に近づき、その人が通れるようにと道を作ったが、その途端に足音が止まってしまった。どうしたんだろうかと、顔を上げるがまだその人は遠くよく見えない。けれど、その人の隣に曲がり角があるわけでもなく、ただそこに立っている。どうしたのかと、和々音が首をかしげるとその人はまた歩き出した。コツコツと足音を大きく起てて。

その足音が、和々音の不安を狩り立てる。もしかして月島を追ってきたあの二人の仲間ではないのか、と心臓が不安と緊張で音を起てる。元々走り回ったせいで乾いていた喉が、さらに乾く。

ふと、月島の荒かった呼吸音が聞こえなくなったことに気がつき、目線を男から月島に移すと、顔からは表情が消えていた。まだ無表情で、足音が聞こえてくる方を見ている。

しばらく、そのまま月島を見ていると、めんどくさそうに溜息を吐いた。フラフラとした足取りで立ち上がり、壁に体を預けながらも、挑発的に微笑んだ。


「なんや、もうこんなところまで来とったんか。早いことやな」


それに答えるように暗い中から声が返ってきた。


「お前がチンタラと走っていたお陰でな。……まさか、女子高校生と逃げているとは、さすがと言ったところか?」


「俺に彼女がおることは知っとるやろ? 自分ストーカーやしな、俺の情報ぐらいなんでも知ってそうやけど」


笑いながらも会話をする二人だが、和々音から見ればそれは不気味でしかない。


「お前のことだ、浮気をしそうだがな」


「アホか。そんなことしたら、俺の命がないわ」


この二人になにかしらの関係があることはわかる。けれど、それはどう聞いても険悪だ。言葉からわかる雰囲気でいえば、月島の方が噛み付いているように思えるが、相手側の方も少しイラつきを感じているように思える。そのせいで和々音は混乱する。一体この人はなんなんだと。

コツコツと、相手側の男は喋りながらも近づいてくる。顔はまだ影のせいで見えないが、服だけは見えてきた。黒のスーツ、灰色のYシャツ。服は全体的に暗く、普通に見れば一般的に焼けている肌の色が、白く見える。その服装に、和々音は少し覚えがあった。なんだろうかと、必死に記憶を思い出す。


「そうだろうな、お前のような雑魚、絢正のやつでもすぐに殺せるだろうからな」


殺せる、確かにその男はそういった。優しい声で言ったが、明らかにその言葉には殺意が混ざっていた。

ざわりと、心が揺れる。それはまるで、男に恐怖を感じているような――。


「アカン!!」


月島の叫び声が聞こえて、和々音の意識が月島に移る。そのお陰で完全に恐怖を感じているということに気がつかずに済んだ。そのことに気がついたのか、男の方から、舌打ちが聞こえてきた。恐怖を感じさせようとわざとやっていたというのに邪魔された。そんなイラつきを纏わせて。

コツコツとずっとなっていた歩く音が消え、男の顔がやっと見えてきた。

少し長く肩に少しだがかかっている灰色の髪、服と同じ黒の瞳。その瞳と同じ色の眼鏡をかけている30は超えているであろう顔つきをしていた。薄く微笑んでいる顔は30代前半ぐらいに思える。一見優しそうな人に見えるけれど、先ほどの会話を聞いている限り、和々音にはそう思えなかった。

月島が何かを言おうと、和々音の目を見て口を開こうとしたが、その月島の後ろから赤い何かが飛んできた。月島の和々音から見て左側の頬を軽く掠め、カランと落ちたそれは、よく見ればナイフのような形をしていた。

印象的に、青い顔をして震え出しそうな月島だが、そんなふざけたことはせず、すぐに振り返って男を睨みつけた。


「あれ? 顔を狙ったんだけど、ミスちゃったか~」


男の後ろから、子供の声が聞こえた。出てきたのは、先ほどアズミと和々音を追い詰めた灰色の髪と深緑色の瞳をしている少年と、同じく灰色の髪と赤い瞳をしているしかめっ面をしている大人びた少女だった。

月島の顔が歪む。

にっこりと少年が微笑むと、横にいた少女が一歩後ろに下がり、服から黒い絵の具を取り出した。追い詰められた際にみた、赤い獣を思い出し、和々音がビクリと震える。壁に筆を使って絵の具を塗りたくり何かを描き始める。こちらに興味がないかのように、壁だけをしかめたままの顔で見ている少女に、少年が溜息を吐いた。


「ねぇ、お姉さん。大好きなアズミお兄さんに挨拶しなくていいの?」


少年が腰に手を当てて呆れるようにいうと、少女はキョトンとした。


「私などが、挨拶してよろしいのですか?」


明らかに、少女は少年より年上だろう。詳しい関係を知っているわけではないが、見れば姉弟に見えるというのに、少女は少年に敬語を使って本当に心からそう思っているかのように、言った。和々音は、それに口を開けて唖然としてしまった。何かに怒っていてずっと顔をしかめていると思っていたので、少女からそんな喋り方が出てくるとは思っていなかった。もっと乱暴に、口が悪いと勝手にイメージを抱いていた。

少年は顔を歪め、すれば?と言ったあとに、怒ったようにそっぽを向いてしまった。どうしたのかと、和々音は首を傾げる。

少女は、少し嬉しそうに微笑む。すぐにしかめっ面に戻るかと思ったが、少女はそのまま嬉しそうに頭を下げた。


「先ほどは挨拶もなく失礼しました。アズミさん、おはようございます、こんにちわ」


朝から昼に変わりかけていることもあり、少女は代表的な挨拶二つ使って、挨拶をした。


「おはようさん」


にっこりと笑って今度は月島が挨拶をすると、少女はぱっと嬉しそうだけど少し照れたような笑顔を浮かべて、すぐに恥ずかしそうに顔を隠し、しばらくするとしかめっ面に戻ってしまった。不満そうな少年の顔を見る限り、それは月島にしか見せない顔のようだ。

その少年の顔に、和々音はさらに首を傾げる。


 なんだかあの子……うーん?


少年を見ていると、和々音が思ったようなことを思う少年には見えない。けど、女の勘が何かを告げていると、恐怖を吹っ飛ばし、もしやと思いながら考える。


「お姉さんってさ、いつも自分のこと道具とか言いながら褒められると喜ぶよね? それって道具としかおかしくない? 道具って喋るっけ? 感情とかあるの?」


矛盾を指摘しているんであろう少年の言葉は、和々音にはどうしても拗ねているようにしか見えない。自分には見せない顔を別の人に見せていることがムカつく。そんな感じだろうかと、観察を続ける。


「なんや、拗ねとんのか?」


「はぁ!? そんなわけないでしょ! 気色悪いこと言わないでよ、誰かこんな居候で拗ねんのさ! ありえないから!」


今にもキーッと声をあげて叫びそうなほど大きな声でいう少年に和々音はまた首を傾げる。言っていることは本心からそう言っているように聞こえるが、先ほどの表情を見ているとどうしても嫉妬しているようにしか見えず、少年が少女に何を思っているかまったくわからない。恋心を抱いているのでは?と思っていたが、どうやら和々音のそれは的外れのようだ。


「っていうかさ、お姉さんさっきからなに首傾げてる訳? つまんないこと考えてたら……殺すよ?」


口元は笑っているが、少年の目はまったく笑っていない。一瞬にして怒りが消え去り、代わりに殺気が宿る。始めて味合う殺気にガクガクと体を震わせた和々音は動けず、少年の目から目を離すこともできない。それをみた月島は小さく舌打ちをして和々音の前に立ち、自分を壁にして和々音の恐怖を少しでも和らげようとしたがまったく収まっていないようで後ろで荒い息で震えている。月島には見えていないが、雰囲気でなんとなく伝わり、心の中で溜息を吐いた。


 ほんまこの親子ムカつくわー。


今すぐにでも殴りつけてやりたいところだが、殴ったとしても逆に月島のほうが怪我をするのはわかっているのでぐっとこらえる。チリッと少年よりも上を行く殺気を感じ取り、慌てて前を見ると、少女の目がギラギラと獲物を見つけた獣のような静かな殺気を醸し出していた。視線はずっと下に落ちているが、何かを狩る準備をしているように見える。それに慌てる必要はないと、肩から力を抜いた月島だがその瞬間に少女がかなり素早い動きで走ってきた。その手にはいつの間に持ったのか黒い日本刀のような刃物が握られており、ぶわりと今すぐに斬り殺す、そんな殺気を全身から発していた。少女は月島の方に向かって走っているが月島は慌てるようなことも、驚くようなこともなくその場に静かに立つ。

月島には、少女に絶対斬られないという自信があった。そんなものに確信はない。殺す対象として先ほどのような笑顔を見せていたのかもしれない。そう思うと冷や汗が出そうになるが、月島はそんなことすら思ってもいなかった。絶対に斬られない。心から少女を、信じていた。その少女が、憎むべき相手である自分と同じ灰色の髪をしている親子の”もの“だとしても。

月島にもう振り下ろせば殺せるという場所まで近づいた少女だったが、その体がぐんっと横に向き、月島と和々音から見て左側の壁に刃物を突き立てた。すると、そこにあった影がグラグラと風に揺らされる木々のように揺れ出し、そこから首が出てきた。

短く小さく悲鳴をあげたのは和々音だけで、月島は驚いたが面白いというような笑顔を浮かべ、少年は楽しそうに笑い、男は相変わらずニヤニヤと気味悪く笑っている。少女はギラギラとその首を睨みつけていたと思ったら、すぐに元のしかめっ面に戻ってしまい、その場から一歩二歩と離れる。

影の中から徐々に首以外の体も出てきた。

その人物の肩には黒い刃物が深々と突き刺さり、かなりの力で突き刺したことがわかる。刺さっているお陰で血は少ししか出ていないがそれでも痛々しい。初めて刺されて出る血を見た和々音は顔を青くし、先ほどよりもっと震えた。口元を押さえ、ただ震えている和々音の目に写ってくるその体の人物は、郡青色の肩にかかるほどの横髪をたらし、狭い路地のせいで暗く、フードをかぶっているせいで、月島達にはまったく見えていないが、後ろ髪は短く切り揃えられ、前髪は鬱陶しいだろうに目にかかり少しだが隠している。黒のレザージャケットの中に紫色のパーカー、下はデニムと少し大人びた若者のような服を着ている。

歳はまだ青年と呼べるほどだろう。

ゆっくりと青年が顔をあげる。それでもフードと前髪のせいで目はあまりよく見えないが、顔が痛みで歪んでいるのはわかる。


「あいつ……影の異能者やな」


月島が呟いた言葉に、和々音はコクコクと頷く。確かに、今見たのは昨日刀麻から聞いた影の異能者がやるらしい使い方だ。


「いってぇな……」


低い声でつぶやくと、青年は、自分が元々入っていた壁に手を叩きつける。そこからなにやら黒いものが飛び出す。飛び出したそれはバラバラな形をしていたが、段々長方形に形を整えはじめ、黒い包帯のような布に変わった。それを刃物が刺さっている方の手で持つと、青年の雰囲気が変わった。

雰囲気が先ほどより、穏やかになったかと思うと、肩の刃物を握り締めた。日本刀のようになっているせいで、刃の部分を直接握って血がでているというのに、青年はまったく痛そうに見えない。ぐっと手に力を込めたのか手からの血の量が増え、すっと息を吸うと、一気に刃物を抜いた。血を止めていた刃物が抜けたことで、血が勢いよく飛び出すが、それでも青年は痛みを感じさせない。素早く、肩に血で汚れた黒の包帯のようなものを服の上から、きつく巻きつけ止血すると、ゆっくりと顔を動かし、和々音と目が合うと、そのまま止まった。

止血しないといけないからといって、抜いたら激痛が襲うことぐらい誰でもわかる。なのに、青年は痛みに躊躇することなく、刃物を抜き、痛みで顔を歪めることもなく素早く手当を行った。尋常な精神じゃない。

青年にも、和々音は恐怖を抱いてしまった。月島の白衣を強く握り締め、顔を一段と青くして、震えていた。

それを見て、思い出したかのように青年は刃物を地面に落とし、血が止まらない手のひらにも黒の包帯をきつく巻きつけた。


「痛みは、俺が引き受けるからいいと言ったのに。俺に……何ができるというんですか」


ポツリと小さく呟いた言葉は、誰に言っているのかわからない。

その場にかがむと、青年は自分の影をさっと撫でると影をつまんだ。そのまま引っ張るとぷつりとちぎることができた。それをぷにぷにと触って、青年はそれを投げる。

投げられた影は、少年と少女の影にストンと入っていった。すぐに少年が影が潜んだ所を踏んだが、そこはただの地面で、先ほど入っていった影はすでに見当たらない。


「なに、今の?」


「盗聴器兼発信機です」


「なんやて!? そんな使い方もできるんか! なぁなぁ、解剖してもええかな!」


ムハムハと興奮して声をあげた月島を一度見たが、無視してすぐに青年は前を向いてしまう。無視せんといてー!と声を上げたが、それも無視されたので、月島は口を渋々閉じた。

青年は月島がまだ騒いでいた間、スマホをずっと見ていた。何かを探しているのか、せわしなく手は動いていた。


「傘松さんと昴さん……こちらに近づいてきていますね。ここを出て、左に走ってください。そうすればきっと出会えます」


にっこりと青年は微笑んだが、その笑顔はどこかよそよそしくて、青年の笑顔ではないように見える。けれど、和々音がそれに気がつく前に、月島が手を握り走り出してしまったため、気がつくことは叶わなかった。一刻も早く、その場から逃げたかったので、そのまま足を動かしたが、一度青年が心配になり、振り返る。

青年はすでに、二人に背を向け、影から何かを取り出しているところだった。目線は、少女に向けられており殺気も出ている。


「あ、ありがとうございました!」


喉はカラカラで、出てきた声は酷く掠れていたがそれでも青年には聞こえたようだ。チラリと後ろを見た青年の顔は本物の笑顔だった。




■ ■


鞄にしまっていた飴の入っている缶を取り出し、蓋を開けて数回振ると手の上にオレンジの飴が落ちてきた。それを左隣を歩いているメイの口に入れてから、右隣を歩いているセンケイくんの手のひらの上にも飴を落とす。あからさまにセンケイくんの顔が悲しそうな顔になった。

白い飴は、苦く残す人が多いらしい。センケイくんは多い分類に入るようだ。もう一度缶を降ると、今度は赤の飴が出てきた。


「センケイくん、僕のいちご味と交換しないかい?」


「え、いいの……?」


「もちろん! それ、嫌いなんだろう? 僕割と好きなんだよね、ハッカ」


自分の手のひらにあった赤の飴とセンケイくんの手のひらにある白い飴を交換して、自分の口の中に白い飴を入れる。


「ありがとう」


「いえいえ」


嬉しそうに笑ってくれたセンケイくんに笑顔を返して、飴を口の中で転がす。ギリッと緊張でメイが飴を噛んでしまったのを悔やんでいるのが伝わり、メイの顔を下から除く。髪の毛のせいで家以外では目は見えないけれど、なにかを感じ取って気にしているような素振りだ。

どうしたのか、と声をかける前にメイが慌てて動き出し、ぐいぐいと僕とセンケイくんを押してくる。常に手を繋いでいるというのに、この時ばかりは手を離して、押してくる。

もしかしたら、何か危険があるのを感知して、僕達をその危険にさらさないようにこうしているのかも。

一歩、後ろに下がり、センケイくんにも下がるようにお願いしようと振り返ると、後ろからコンクリートが破壊されたような音が聞こえた。

咄嗟に、センケイくんに抱きついてしまったけれど、万が一の為にそのまま抱きついてじっと音が聞こえてきた路地の方を見つめる。周りには私達と同じように帰宅についていた人たちや遊びにいこうとしていた人達がなんだなんだと騒いでいる。


『異能者が、3人、こっちに来てるっ……』


恐怖と焦りの感情が伝わってきた。恐怖が圧倒的に強いけれど、センケイくんと僕に傷ついてしまったらという焦り。僕にそれが伝わっているということに気がつけないほどに、メイは焦っていた。

メイがこんなに、感情をあらわにしたのは子供の時ぶりだ。

ざわりと、メイの恐怖の感情がさらに強まると、こちらに何かが走ってきている音が聞こえた。それはカツカツという音で、馬が走っているような音。だけど、こんな都会に馬で走れるはずもない。なら、一体なんなのか。

音が近づいてくるたびに、心臓の音が早くなっていく。途中から、その足音は早さをあげ、どんどんとこちらに近づいてくる。

馬の、鳴き声がいきなり聞こえたと思うと、路地から白い馬が飛び出てきた。ヒヒーンって鳴きながら前足をあげる姿はテレビで見たことはあった。けれど、実際にみる馬はとても大きくて、綺麗だ。思わず見とれていると、その馬は人を避けながら少しスピードを多分、落として走り出した。馬の背には、男性と、少女と少年が3人で乗っていた。少女が真ん中に座り、その腕の中には少年が横向きで座っている。背には男性がいて、後ろを見ながら、二人が落ないようにとしているのか、後ろから抱きしめていた。とても大きな馬だから乗れているようだが、それでも少し狭そう。

手綱は、男性が持っているように見えたけれど、よくよく見れば少女が握り、馬を操っている。それに驚いていると、また路地から馬が走ってくるような音が聞こえた。


 まだいるの?


ガリガリガリッとコンクリートを削っている音が聞こえ、それと馬の足音が近づいてくる。路地から出てきたのは、黒い馬だった。けれど、少女達が乗っている馬のように綺麗ではなく、作り物。そんな印象を与える馬は、鳴き声も上げず、白い馬を追う。背に乗っている人は、多分男の人だけど黒いメットで顔を隠しているせいでどんな顔をしているかはわからない。

少女は手綱を握って馬を操っていたが、その男の人は手綱は握っていない。手綱の代わりに、黒い鎌を持っていた。悲鳴が、その場から上がる。

センケイくんを抱きしめている腕に力が入ってしまい、慌てて力を抜くと、いつの間にか黒い鎌が先端部分だけが尖っている槍に変わっていた。


「待ちやがれっ!」


上がった声は、怒りで尖っていた。メイを通じてビリビリとした怒りが伝わってくる。槍を男性の背中目掛けて投げ飛ばすが、うまい具合に馬が動き、掠りもしなかった。


『こっち』


いきなりメイが手を引っ張ってきた。けれど、そのまま手を離して目が見えないというのに必死に走っている。あの人達が向かう先と別方向に向かおうとしているのだろうけど、危険すぎる。だって、メイは安心できる人と触れ合っていないと記憶を失ってしまう。


「っ……!」


慌ててメイの手を掴もうと、前を向くと、メイの前に腰ぐらいまである看板が立っていた。木ならまだしも、その看板は鉄でできているようで。


「メイッ!」


叫んだ瞬間には、看板にぶつかり、酷い音があたりに響いた。

口元を抑えて、足から力が抜けて、その場に座り込んでしまった。どうすればいい、こんなとき僕はどうすればいい。僕は、僕は……――やっぱりなにもできないのか。

じわりと浮かんできた涙をゴシゴシと拭き取って、震える足で立ち上がろうとしたら、センケイくんがそばにいないことに気がついた。けど、先にメイを、メイの無事を。

看板が元々立っていたところをみると、


「セン……ケイ、くん?」


メイをかばうように、センケイくんが看板の上に倒れていた。痛そうに顔を歪めて、でもメイを見ると嬉しそうに笑った。


「まもれた。……ぼく、できた」


気がつけば、勝手に走って二人の元に駆け寄っていた。幸い、センケイくんは体を打っただけで、どこかから血が出たりはしてないようだ。服で見えないところを内出血しているかもしれないけれど、命に別状はない。センケイくんとメイが起き上がるのを手伝いながら、泣いてしまった。ボロボロと涙がこぼれだして、まったく情けない。そう思うのに、涙は一行に止まらない。

服で涙を拭うけれど、それでも止まらず、センケイくんの顔を歪めさせてしまう。


「ぼく、ちゃんと、まもれなかった?」


「違う……違うんだよセンケイくん。嬉しいんだ。メイを守ってくれてありがとう、ありが、……とうっ!怪我がなくて、よかった……!」


涙のせいで鼻声で、ちゃんと言葉を言えてるのかさえわからないけれどセンケイくんはいつもどおりの笑顔を見せてくれた。

たまらずに、センケイくんに抱きついてしまう。そのままの勢いに任せていつもは出さない大きな声で、今思っていることを口にした。


「ありがとう、センケイくん。キミは、自慢の僕の友達だ!」


通行人はまだいっぱいいるのに、その前で泣いてしまっていることに関しては少し恥ずかしいけれど、そんなことより、二人が無事でよかった。センケイくんに大した怪我ななくてよかった。センケイくんと友達になれて、とってもよかった。

こんなにボロボロと泣いたことなんて初めてだ。それほどまでに、センケイくんが無事でいてくれたことが嬉しかった、安心した。


『ごめんなさい、センケイくん、ありがとう』


メイの目からもボロボロと涙が流れていて、思考がつながれていないことに気がついた。手を離したままだった。メイの手はセンケイくんの服を握りしめていて、ふるふると震えている。

センケイくんは、にっこりと笑って、


「どういたしまして」


僕とメイと抱きしめてくれた。笑っているセンケイくんに釣られて、涙はどこにいったのか僕達は笑って抱きしめ返した。