今回ちょっと短いっす。
二日前、いきなり、海の向こうから魔族たちが攻めてきた。上級騎士達と上級魔法師お陰で被害は最小限に済み、海から少し離れている住宅地にも、もちろん国民にも被害は出ていない。騎士の中では負傷したものが大勢いたが、それでも死に関わる大きな怪我を負うものはいなかった。国内になるガーディアン、別名を守護人と呼ばれている魔法で形成されたものをすべてを起こし、前線に配置したことが最もの勝因だろう、とルシアは考えているがその場にいなかったので真相はわからない。
漁師の中には魔族を目の辺りにしたものがいたらしいが、恐怖よりも圧倒的力を見せたガーディアンへの興奮が勝ち、全く怯えていなかったらしい。なんともタフなことだとを思うだろうが、魔界と人間界との狭間である海に出て漁を行っているのだ、タフでなければできまい。
そんなことより、今国中で話題なのは、騎士達を指揮するため前線に趣いていた第四王子が背後から魔族に襲われ記憶を奪われたということ。昏睡状態になってしまった王子は目を覚ましたが、記憶を失っていた。もう一つは、神ルーファルの巫女がルーファルのお告げを伝えに来たというものだ。真実は、その神自身が来たのだが、大きな混乱を生むということで王宮に務めるものだけにしか知られていたないので、ただの噂として認識されている。この噂の中心である二人の人物に先日会ったわけだが、ルシアは大して驚きはしていなかった。
この世界を別人として生きだしてから、あのメールに絵として出てきていた三人に会うであろうことは分かっていたからだ。子供な女の子はルーファル。フードをかぶった少年はジン。普通に整った顔をしていた少年は貫流。容姿はあの絵と全く変わらない。成長した姿であるはずのものを三年前の時点で絵にしていたことについては驚いているが、それでも微量なものだ。元々あるであろうと予想していたのだから、驚きが少なくても仕方がないだろう。
息を吐いて、周りを見渡す。
王宮は、国々によって異なる。
北の国シルヴァンでは大きな木の中にあるという不思議な王宮。南の国、サーマルでは木でできた低い、しかし広い王宮というよりも寺のような王宮。西の国トラクルでは砂と岩で作ったとても頑丈な王宮。東の国、マリンでは、水で王宮を構築するなどということはできないので、あらゆるところに小さな泉や噴水、庭はとても小さな海状態だと言っても過言ではないほどに水が湧いているという王宮。
つねに湧いている水が冷たいお陰で、夏はとても涼しく住みやすいが、夏以外ではとても冷える。朝は霧が必ずかかり、視界を妨げられる。視界を妨げられ、怪我人が出る可能性があるため街には、機械の中に蓄えられた魔法源を使い霧を吹き飛ばすための魔法を発動する、という自動機械が設置されている。そのお陰でまだ少し見にくいものの、歩くのには十分だ。
あたりを見渡せば、同じようにロープなどを被り寒い寒いと呟きながら楽しそうに笑っている国民たちがあちこちに見える。生まれた時から住んでいればこれぐらいは慣れたもの、なんだろう。
ルシアは、ルーファル達に会うためその霧を発生させている王宮に向かって歩いているのだが、下級騎士兵舎は、王宮から少し離れている。上級騎士の兵舎は何かがあったらいけないということでそばにあるが、下級騎士がすることは民を守ること。そのため、住宅が集中している場所に近いところに建てられている。
霧のせいで耳がどうしても冷える。仕方ないと溜息を吐いてローブのフードを被り、歩く。
鎧の上に着ているため少し動きづらいが寒さには勝てないので文句は言ってられない。それに、もう少しで目的地である王宮につくから我慢だ。と自分に言い聞かせたルシアは黙って歩く。
昨日はいきなり、兵舎にジンが現れ、言われるがままに王宮の部屋へと行ったため少し混乱していた。
混乱しつつも、何も考えずに寝たお陰で、疑問は溢れ出てきた。
まずはルシアが15歳からのスタートに対し、貫流は空白の3年間をおいての18歳からのスタート。貫流にとってはゲームのパスワードを忘れさせられ嘆いていたが、わざわざ三年間置かせてからする必要もないし、そもそも王子にさせた意味もわからない。
次は、ルーファルがルシア達を招いたこと。ルーファルは神だ。一人でも魔族を倒すなど造作もないはずだ。それなのになぜ招いたのか。
自分がしたいと望んでいたことをこの世界でさせてくれたことには感謝しているが、完全に信用できるかというとまだそれはできない。
ルーファルに聞きたいことはたくさんにあった。そのためか、ルシアの足は早足になっていた。
下級騎士には、武器以外、同じものが支給される。安物だが、スカートもので大体の女騎士は中に短いズボンやピッタリと身に張り付くスパッツによく似たものを履いている。ルシアの場合はタイツで足を隠すだけだが、自ら縫って取り付けた腰から広がるマントのようなもので後ろを隠しているため、見えることはない。何がとは言わないが。
いつも腰に下げている武器は必要ないだろうと置いてきた。
王宮の門には殺気を感知し、動き出すガーディアンが立っている。その佇まいは寝ているようにも見えるが、殺気を出さなければ動き出さない仕組みなためにそう見えるだけで、実際にはただ動いていないだけなのだ。
先の戦いで魔族相手に一体ずつで勝ったと噂されているガーディアンに少し興味を抱きながらも、門の前でフードを下ろし、名乗る。
「1000期生、アリア・キッシュ」
これはルシアが騎士の1000期生であることを指している。
騎士と魔法師が職業となったのは丁度、ルシアが騎士見習いになった年の1000年前。ほぼ毎年騎士見習いに候補するのは1000人を越える。そのうち4年の間に600人から500人までに絞っていく。わざと厳しく当たりやめさせるということはないが、毎日体力ギリギリの訓練を繰り返すため、ついていけないと次々に辞めていくものが後を絶たないので、特に何もしなくても絞られていく。それでも半分以上、残っているのは下級騎士でも高額の給料が払われ、住むところには一生困らないためだ。
騎士見習いから下級騎士になった途端、自らのみを証明する登録をしなければならない。
王宮に入るには、自分が盗賊ではないということを証明する必要がある。そのため、兵舎に移動する前に王宮に赴き、名と顔を登録する。まず、下級騎士が王宮に入るなど滅多にないことなのだが、その滅多の機会が来るかもしれないというためみな登録を拒否しない。
必要かと疑問に思うほどに大きな門には音声反応する魔法式が組み込まれている。
魔法式が浮かび上がり、アリアの声と、顔を認識した途端、すぐに消えて門が開いた。昨日きたときには驚いたが、今度は少し緊張してしまっただけですぐに足を動かし中に入った。
中に入れば、少し気温が下がったように寒くなり、再びフードを被る。
王宮の大きなドアを片方だけあげて中に入ると、魔法で温めているのか外とは随分と気温が違っている。
ローブを脱いで腕にかけて待っているとメイドが駆け寄ってきた。
「アリアさんっ、ジャルベル様はこちらでお待ちです!」
小柄だが、随分と元気なメイドだ。にっこりと笑うと年齢がさらに下の方に見えるほどの童顔の可愛らしい外見は少女のそれと変わらない。
そのメイドのあとに続き王宮の中を歩く。
窓の外に見えるのは、キラキラと輝く庭に溢れるまるで海のように青い水。霧から除く太陽に反射してとても綺麗に輝いている。
「失礼しますー!」
こんこんと音を立ててから、ドアをあけて中に入ると、そこは本がびっしりと並んでいる、図書室のような部屋だった。中には、一つのテーブルが置いてあり、そこにこの国の第四王子であり、ルシアと同じ異世界からの訪問者である貫流が本を読みふけっていた。
メイドは軽く頭を下げると、早足で去っていった。仕事が溜まっていたのだろう。
特に気にせず、中に入るルシアだが、貫流の方は気がついていない。仕方ないので、わざと大きめに咳をすると、慌ててルシアの方を向いた。
「勉強ですか、第四王子」
冷たい視線を浴びせつつ、皮肉のつもりで尋ねると、貫流は顔を少し歪めた。
「記憶ないからね、俺。名前もわかんねーし」
それはそうだろう。と心の中で頷く。
ルシアにはアリアの記憶も自分の記憶も持っていたのでそんな風にこの世界について勉強する必要はなかった。貫流も、同じように持っていたかもしれないが魔族のせいで記憶を失っているのだ。名前すら忘れているとは思っていなかったが。
「ジャルベル・マリン。それが第四王子の名前よ」
目の前の椅子を引いて腰を下ろし、教える。
「ついでに、第一王子がトルベル・マリン。第二はラルベル、第三はアルベル。全員ベルがついてるから覚えやすいのよね。王様と王妃様は父上、母上とでも呼べばいいと思うわ」
置かれていた紅茶を余分に置いてあったカップの中に入れ、一口飲む。少し熱いが、冷えた体には丁度いい。貫流が読んでいる本を目を細めて覗き込むと、どうやらこの国のついてのことに書いてある本だった。確か、図書館にもあった気がする。来たばかりの頃、図書館にこもりひたすらこの世界についてを調べていたとき、国を自賛するばかりのとてもつまらない本を目に通したことがある。その本と内容が酷似、というよりそのものだ。その退屈な本の内容を思い出してしまい、顔を顰めていると貫流から視線をぶつけられていることに気がついた。
「……なにかしら」
「いや……ルシアって騎士なんだよな?」
「そうよ」
顔を顰めたまま短く返事を返す。
「昨日来てた騎士達と装備が随分と違くないか?」
昨日部屋にいた騎士達のことか、とルシアは顔をさらに顰める。
立場的に言えば、その場にいた騎士達は上級であり、ルシアはその下の下級。そのため廊下で会った時会釈をした。だが帰ってきたのは冷たい目つきとすっかり言われ慣れた冷たい言葉だった。慣れたことだが思い出すと眉間に皺が寄ってしまうのは仕方がないことだ。
「あっちは上級、私は下級。上級は質のいいものを手に入れることができるけれど、下級は国から支給される古い装備品しか手に入れられない。一から作ろうにも、お金はあるけど素材がないのよ、だから装備品に明らかな違いがある。わかったかしら」
胸のモヤを消すために紅茶を飲み干し、音に出さず溜息を吐く。
フムフムと言いながらノートを捲っている貫流には小さく息を吐くのなら気がつかれないのだが、ルシアは念の為に音を殺した。
「下級上級ってのはどう決まるんだ?」
「そうね……表向きでは優れた才能を持つものが上級騎士に、ってことになっているけれど、実際は才能が2割、財が8割ってところかしら」
「ごめん、どういうことかよくわかんねーんだけど」
「だから、優れた才能、で選ばれた騎士は2割。財にものを言わせて上級になったのが8割ってことよ。8割は財を持ってる貴族ってこと。貴族は子供の頃から騎士になるための訓練を積む。それに対し平民は騎士見習いとなったその日から。圧倒的な経験値の差がある。それに貴族は金にものを言わせていい装備を手に入れることもできるし、上級になりやすいの。上級騎士が10人いたらそのうち8人は大して実力もない雑魚騎士って覚えておきなさい」
「雑魚ってひどくね?」
「真実だもの。それを本人達の前で行ったら酷い目に遭うだろうけど。まぁ、すべてがそうというわけでもないし。ちゃんと実力がある貴族騎士もいるし、2割は才能ある一般騎士だし……2割しかいないけど」
ルシアが言ったことはすべて真実である。
一般市民には一切知られていないことだが騎士達の間では才能なんてない上級貴族騎士と裏口を叩かれている。中には本当に才能があって上級に上がった貴族騎士も、才能がないのに上級に上がったことで肩身が狭い思いをしている貴族騎士もいるのだから全てが、というわけではないのだが貴族騎士というだけで叩かれるなどよくあることだ。
ちなみに、才能だけで上級になった一般騎士は憧れの対象とされている。もちろんルシアにも憧れの対象である一般騎士がいる。
「魔法使いとかはいないのか?」
「いるわ。街行けばあちらこちらで魔法士様って持て囃されてるから見つけやすいと思うわよ」
「街出れないんすけど」
「お気に毒様ね」
冷たく言い放ち、チョコ味のクッキーを摘み、一口で口に入れ咀嚼していると貫流が机に倒れた。
大きな音を立てて倒れ込んだため、うるさいと睨みつける。
「俺だって外に出たいよ! 許してもらえないの!」
「それはそうでしょうね。あなた、一様魔族に襲われたってことになってるのよ? そんな人が外に出てみなさい、街はすぐにパニックよ」
うざいという雰囲気を醸し出し冷たい目付きで見下ろしてやるとうぅっと唸り声をあげて貫流が黙った。
「ところで、そのノート一体なんなの?」
「あ? これは、王子様が書いたノート。半分ぐらいは埋まってたんだろうけど、ルーファルが細工したせいで今んとこほとんど真っ白。見たり聞いたりしないと埋まんないんだって」
「めんどくさいことをするわね、あの神様も」
「まったくだ。あぁ……カムバック! パスワードの記憶!」
「こういう時なんていうんだったかしら」
んぁ?と変な返事を返してきた貫流を無視し、記憶の奥底にあるクラスメイト達が使っていた言葉を必死に彫り探し、思い出した言葉を飛びっきり――ルシアにとっての――の笑顔で放った。
「ざまぁ」
「そんな笑顔でいうような言葉じゃねーよルシアさん!!」
貫流とってすれば悪魔のような笑顔で放たれた言葉に、再び机に倒れた。