トピック『「芝居」と「お笑い」の違い』 に関連して、
今回は『「役者」と「芸人」の違い』について、
私なりの考えを書いてみたいと思います。


前提として、
「役者」も「芸人」というもの自体については優劣はないこと、
また、特定の役者や芸人を指して言っていない事を了承願います。
あと、「役者」も広義の意味では「芸人」ですので、
「役者」「芸人」の二極論でもありません。


さて、では違いについて。


極論かもしれませんが、
「役者」と「芸人」の違いは
本人のモチベーションやスキルはさておいて
お客様から観てみれば舞台の上で
「ルールに従う人」「ルールを創り出す人」の違いだと思う。


どちらも舞台の上で演ずるし、
お客様の笑いも感動も生み出すけど、
「役者」はあくまで決められた「台本」や「演出」のもとで動く。
そして、お客様もそういう視点でみるため、
舞台の上で「役者」が何をしようが、
そういうルールのもとで動いているという判断を
無意識のうちにしている。


一方、「芸人」は自らの「芸」をもって
そこにお客様に驚きと笑いを提供する。
例え段取りとかが決まっていても、
あくまでそれはお客様と円滑につきあうための補助的なもので、
大切なのは「お客様」と「芸人」の間にあるものである。
お客様もその「瞬間」を期待している。


いや、もちろん役者にとっても「お客様」との間は必要だし、
芸人にとっても段取りは大事である。

でも、観客という、「見る立場」にいる人が
自ずと期待しているものが違う。


自分がこの違いに気付いたのは、大道芸をした時だった。
通行人は「演者とお客様の間のルール」を理解する時間はないし、
足を止めて3秒のうちにそのルールが理解できなければ、
また行ってしまうだろう。
ルールをその場で生み出している芸人なら、
その瞬間から「お客様と演者の間のルール」で
お客様を楽しませることができる。


どの瞬間を切り取っても大丈夫なのは「芸人」で、
逆に全体の流れをもってお客様を非現実の世界に導くのが
「役者」の仕事だと思う。


「役者」をやっている人が時々
「笑いが少なくて嫌だ」とかいう人がいるけど、
私はそういう人は役者として不安になる。
「役者」の人はその瞬間瞬間お客様を笑わせるのが仕事ではない。
もしかしたら、その舞台を観てお客様は静かに感動しているのかもしれない。


ちなみに私のやっている「ひとり即興」は
「芸人」ではなく「役者」の仕事だと思っている。

「ひとり即興」もあるルールのもとに即興で演じ、
そのルールをあらかじめお客様に説明しているので、
そうなると「芸人」ではないと思う。
ただ、このように「即興」によって
「その瞬間に舞台の上で生きる」というスキルを獲得すれば、
そのスキルをもって「芸人」にはなれると思う。


そもそも私のやっている即興劇(インプロ)は
「舞台の上の役者」をリラックスさせるためのルールから生まれたのである。
その土俵の上にいる限り、やはり「役者」である。
その「ルール」を瞬間的にお客様と創れるようになった時こそはじめて、
「芸人」と呼ばれるにふさわしいと思っている。


まぁ、あくまで私の個人的な考えですから、
私の事を「芸人」と呼んでも怒ったりはしません。
ただ知り合いの芸人の方々に比べれば、申し訳ないと思うくらいです。