パーフェクト・デイズ★生きている命の光 | ***Walk on the light side

***Walk on the light side

銀河に煌く星たちのように

ヴィム・ヴェンダー監督の「パーフェクト・デイズ」をようやく観ることができました。

 

 

パーフェクト・デイズ……本当にパーフェクトな「月と土星の日常」の中で「生きる太陽」の物語でした。すばらしくて、途中と最後で3回ぐらい泣きました。


主人公は役所広司さん演じる、東京都の公衆トイレ清掃員の平山。

 

彼の何の変哲もない朝から物語が始まります。起きて、布団をたたみ、植物に水をやって、髭を剃り、着替えて、小物をポケットに詰めて、家を出て、缶コーヒーを買い、車に乗る。


職場である公衆トイレをまわり、細やかにきっちりと完璧に清掃をして、終業後は自転車で銭湯へ行き、浅草駅地下の飲み屋で一杯飲んで、家に帰ると眠たくなるまで本を読んで……という完全なるルーチン。

 

休日は休日のルーチンがあり、ほぼ同じルートを定刻通りにまわっていくそれは、月と土星が織りなす日常です。

 

満ち欠けする昼と夜と、それに合わせて息づく身体のリズムという月。それがしっかりと完璧におこなわれるように、責任をもって管理する土星。

 

それは誰もが体験する日常で、大半の人はそれを「退屈な日常」「平凡な毎日」と感じるかもしれないし、あるいはそこに特に意欲や感情も持たずに、やり過ごしているかもしれません。

 

しかし、平山は違います。

 

彼はいつも、いまのこの瞬間に生きていて、小さな人との関わりのひとつひとつに、目に映るほんの小さな光景のひとつひとつに、心を揺らし、喜びを感じ、嘆き、戸惑い、悲しみます。

 

誰もが小さな子どもの頃に、そうであったように。

 

生きている命の光。

 

物心がついた子どもにとっては世界のすべてが新鮮で、好奇心をそそり、ちょっとした刺激に傷つき、喜び、戸惑います。

 

その感性が年を重ねた主人公の中に、生き生きと息づいているのでした。

 

これこそが、占星術でいうところの、太陽がもたらすギフトです。

 

 

御年78歳のヴィム・ヴェンダース監督のチャート。

 

乙女座の水星とASCに彩られた「ロマンティサイズ・トーキョー!!」と言いたくなるような美しく輝きのあふれる映像と、12ハウスの獅子座の太陽そのものともいえる、無口で繊細で感受性豊かな主人公(3ハウスの蠍座は無口になるミュートの配置)。

 

彼はひとりでいるけれど、まったく孤独ではなく、内面の豊かな喜びあふれる世界を生きています。


それを表情と動きだけで表現する役所広司さんがすごい。彼は山羊座の役者さんですが、監督の持つ金星・土星蟹座という繊細で内に秘められた感情を見事に体現されておりました。

 

私は「蟹座はフィーリング、蠍座はエモーション」だと思っているのですが、前者は些細な心の揺れや自然の揺らぎをキャッチして表現するものであり、後者は他者との関係において発生する強く激しい感情ですね。

 

こちらの映画では、監督の月に示される蠍座の強い感情は、主人公の周囲の人々が持っているもので、主人公はそれを秘めたる蟹座の感情で受け止めている形で描かれているように感じられました。

 

美しく輝く生きている命の光に、観ている側も揺さぶられるような、最高にパーフェクトな物語でした。

 

 

宝石緑   宝石緑   宝石緑   宝石緑   宝石緑

 

 

補足というか蛇足というか、穿った見方をするなら、これは「12ハウスという理想世界に自分の王国を打ち立てて、引きこもってしまった、ファザーコンプレックスの男性の物語」だと感じます。

 

監督の持つ月の蠍座が示している「強い感情と葛藤」を表現している人々が、常に主人公の外側の人物に投影されていて、本人は土星の蟹座の如く、家族とのつながりを閉じているわけです。

 

「君たちはどう生きるか」の眞人のインナーワールドの塔のてっぺんにいた、大叔父さんを髣髴とさせるものがあります。

 

本当に生を取り戻すためには、葛藤の世界に再び身を投じることが求められますが、12ハウスという半ば隠棲する道を主人公は選んでいるのでしょう。