人間が狩猟採集生活をしていた頃、すなわち地上に農耕が出現する以前の世界においては、人の労働時間は1日2~3時間だったという説があります。
その日に食べるものをとってきて、調理して、おしまい。もちろん、家を建てるとか、服を作るとか、物を作るとか、そんなことに果てしない時間がかかったとは思いますが、それでも農耕以降ほどではないのかなと想像します。
サトゥルヌスというローマの神さまは英語でサターンという土星の名を冠する神さまですが、彼が象徴するのは農作業で発生する一連の生成の流れだといわれています。
種をまいて、芽が出て、水をやって育てて、成長したものが実り、刈り取り、土地を休ませてまた次の種まきに備える……という一連の流れですね。
この土星神サトゥルヌスと農耕の出現によって、人間は土地と時間に縛られるようになりました。その日に食べるものがその日には得られず、時間をかけて育てる必要があり、日々の営みを忍耐強くくり返していく継続力。
せっかく育てたものが災害や天候次第では、うまく実らないかもしれませんが、それでも諦めずにまた種をまき続ける不屈の精神。
占星術の土星から連想されるガマンや忍耐や苦悩というのは、農耕をおこなうときに必要な能力とリスクでもありますね。
これは私たちを義務に縛り付けて「すべき」という言葉に結びつけるものでもあります。種をまいたら、ジッと待つべし。実るまで、忍耐強く、待つべし。
土星は人々に秩序と忍耐力を抱かせるでしょう。土地に縛りつけて、時間の流れのなかで、ぴったりの時機にするべきことをこなしていく義務と効率も与えます。
私たちの社会は、まさにそのようにして成り立っているものであり、それはある意味、変化も面白みもない、しかし安定した日々を作り出すでしょう。
これを打ち破るのは、少年・少女の出現です。すなわち、あるとき川から大きな桃が流れてきたり、竹藪から金色の光る竹が現れたり。
もし、それがなければ、おじいさんとおばあさんは死ぬまで同じ毎日を繰り返していたかもしれません。
しかし特異な少年あるいは少女の出現によって、物語が急に色づいて、日常が展開していきます。彼らはこれまでの平凡で変わり映えのしない土星の日常をぶち壊すような特殊な状況を創り出して、安定した生活を一変させるでしょう。
この少年や少女は水星……神話界のトリックスターですね。私たちの暮らしをイキイキと息づかせて、新しい展開を招き入れるのは、水星にヒントがあるのだな~と感じます。