月が綺麗な夜、また彼女がこの店にやってきた。
綺麗に染め上げたブロンドの髪をなびかせながらいつものカウンター席に座る。
「いらっしゃい、また失恋かい?」
グラスを手に取り、磨く。グラスの向こうの彼女の目は赤かった。
「さすがねマスター、なんでもお見通し」
美しい微笑みを私に見せ、いつもの、と呟いた。
彼女はこの国では有名な女優だ、彼女の美貌は、演技は、見たもの全てを魅了し、陥落させる。
女としての美しさを完璧に保持し、しかしどこか儚げな印象を持たせる彼女を我が物にしたいと言い寄る者も多い。
だが彼女には恋人ができたことは一度もない。
言い寄る者たちが叶わぬ恋をしているように、彼女もまた、叶わぬ恋をしているのだ。
そして恋がひとつ終わるたびに、この店に訪れる。
磨き終わったグラスに氷と水をいれ、カウンターに置く。
ありがとう、と呟く彼女に会釈をし、シェーカーを手に取る。
「今回はどんな人だったんだい?」
彼女はゆっくりと一口、水を飲んだ。
唇の端から一滴の雫がこぼれ落ちる様子は彼女の妖艶さを表しているようだった。
「すごくいい人よ、愛らしくて、可愛らしくて、あの子の笑顔を見るだけで愛が実感できた」
グラスを揺らし、中の氷を回す。彼女の瞳は少しずつ潤んでいく。
「私、あの子の為なら全て捨てれるわ、金も、名誉も、何もかも」
そう言って彼女は顔を伏せた。こらえようとしたものが、溢れ出したのだろう。
「もし……あの子が死ねというのなら喜んで死ぬわ、あの子しかいないもの」
すすり泣く声が店内に響く、私は出来上がったカクテルをそっと、カウンターに置いた。
彼女は恋をしている、永遠に叶うことのないであろう恋を。
たったひとつの愛を手に入れるために彼女はどれだけのものを捨てるのだろうか。
どうか彼女に報われる愛を。