白石一文氏の若き頃の著作なのだそうだ。
先般、公園読書で読み終えた。

幼き頃不遇で育ち編集者となった主人公のあからさまな女性遍歴を描写しながら、時折時間とか死についての思いをぶち込んでくる不思議な小説である。なぜ自分は生まれてきたのか、実はそうではなく、私以外の力で私以外の考えで生まれさせられて来たのだ、というお幼き頃お寺で学んだエピソードが鏤められて今生きることの意味を問いかけようとしている。強引で我儘な主人公の男の生き様にイラッと来るものの何だか引き込まれてしまう。何をするにも何を語るにも理詰めで説き伏せる辺り、これでよくぞ女が我慢するものだと感心。若き頃の親の愛情を知らずに育ったという設定だが、著者の作品にはこのパターンが結構多い。実際には、著者の父も著名な小説家のはずだが、あまりそのことに触れたくないのか、その辺りをカモフラージュするためなのか、天涯孤独だったり、父が早逝する主人公がよく登場する。さらにこの本、性描写がかなり激しい。若さゆえこういうことが書けたのだろう。今の作品にここまで書き込んだものはない。人がすっかり少なくなった公園で春風に吹かれ読み進めていく心地良さ。