iDeCoに代表される確定拠出年金。

 前報でも書いた話ですが、確定拠出年金は難しい制度で、老齢給付金を年金で受給するとほとんど得にはならないことには気づいてきました。

 ではどう受け取れば得になるのか、もっと深掘りしてどういう人に向いている制度なのか。を書いていきたいと思います。

 

 考えつくのは次の通り。

  • 公的年金控除が使いづらい、60歳から65歳に掛けて年金払い(分割)で受給する。
  • 一時金で、退職金と同時に長期勤務で優遇されている退職所得控除を使って、退職所得としてもらう。
  • 一時金で、退職金と時期をずらして、税率を抑えて退職所得としてもらう。
  • 相続となることを前提に、75歳直前まで引き延ばして、さらに20年の年金払い(分割払い)として相続税の軽減を狙う。

さあみなさんに合うのはどれでしょうか?

それぞれ何を意図しているかわかりますか?

 

いずれにせよ、

  • 確定拠出年金の残高はいくらあるか。
  • 退職金はいつもらえて、いくらか。
  • 確定拠出年金の加入期間は何年か。さらに退職金の算定基礎となる期間とどの程度重複するか。
  • お金はすぐに入り用か
  • 他に生活に困らない程度の財産はあるか。
  • 相続まで見据えて考えるか。
  • 相続税上の見なし退職金いくらか
などと考えないといけない項目はいくつかありそうです。
 

  60歳から65歳に分割で受給

 確定拠出年金の老齢給付金を受給するとき、一時金でもらう方法と、分割でもらう方法あります。またこれらを併用して一時金でもらった後に残額を分割でもらう併用の方法も採れます(各銀行等で決める建前なので、併用できない銀行もあるかもしれません。)

 さらに分割払いを進めた上で、受給開始後5年以上経過すると、残額を一時金でもらう方法もとれる場合があります。(銀行によります)

 ここで分割は5年から20年と決められており、受給開始年齢は50歳未満で確定拠出年金を始めた場合、60歳以上75歳未満となっています。

 

 一方、所得税の徴収においては、確定拠出年金の老齢給付金の受領は雑所得に分類されて、徴税されます。

 このとき、所得計算においては 給付額ー公的年金控除額 で計算されます。

公的年金控除の対象となる年金は国民年金、厚生年金などで、いつから受け取れるかは年代によって異なりますし、任意で繰り上げできるものもありますが、原則は65歳から支給となるものが多いです。

 

 そうすると64歳までの公的年金控除額はつかわずじまいです。一方確定拠出年金任意で設定できて、早くすると60歳から支給できるのです。確定拠出年金を60歳から支給とすることで、60歳から64歳までの公的年金控除額を有効活用できます。つまり年金を繰り上げる予定のない方に有効な方法だといえます。

 

 65歳未満の場合、年間60万円までは公的年金控除額で全額控除つまり無税になります。所得金額調整控除というのも別にあって、給与と年金の両方収入ある方は別に最大10万円の控除があるので、年間70万円を下回るようにするのがいいと思います。実質無税になります。なお給与もない方は基礎控除も使えるので、95万円までは無税になります。

 

 所得税法上の年齢はその年の12月31日現在で決まります。一方確定拠出年金(他の年金も同じですが)の支給開始年齢は満年齢で決まります。

 だから60歳になった年は、途中から確定拠出年金の分割払いが始まるので、年間70万を目標に分割割合を設定しても60歳になる年だけは70万円には行きません。これは仕方ないことだと思います。


 また5年たって65歳になるときも、自らの意志で繰り下げをしない限り、国民年金や厚生年金の支給が始まります。どちらも同じ公的年金となり、公的年金控除額は共通、同じ公的年金控除額を分け合うことになります。

 65歳では公的年金等控除の枠は110万(所得金額調整控除10万と合わせて120万)になります。控除額の拡大と年金の支給金額の増加で、65歳到達年は控除枠が使い切れない、もしくは枠が足らない場合があります。(普通はどちらかになると思います)。但しこれはある程度仕方の無いことだと思います。

 

  退職金と同時に一時金で受給

 退職金には退職所得として所得税と住民税という税金がかかります。ただし計算上は優遇されていて、通常のお給料より低い割合です。金額によっては無税ということもあります。

 退職所得には退職所得控除というものがあって、その退職金に関係の勤務年数によって決まります。役員等で無くて通常の場合、勤務年数20年までは1年あたり40万円、21年目からは70万円です。20年を境に退職所得控除の増加が著しくなります。(→リンク)

 ところで確定給付年金の老齢給付金も一時金で受け取ると退職所得となり、同様に退職所得控除を使うことができます。勤務年数は加入期間に置き換えられます。

 さて、退職金の計算期間と確定拠出年金の加入期間が重複する場合、両方には使えなくて調整されます。(→リンク)

 さらに同じ年に2カ所からもらった場合、勤務期間は長い方で計算してもらえます。


 ここで紹介する方法は、退職所得控除の枠が退職金で全て使えなくて(=退職金は無税)、退職金の根拠となる勤務年数が20年以上の場合にお得になる方法です。

 通常は制度創設からの年数も浅いこともあって、勤務途中から確定拠出年金に入っている、つまり退職金の算定期間よりも確定拠出年金の加入期間の方が短いケースが多いと思います。このときに、退職所得控除>退職金となるケースでは、余した退職所得控除の枠を確定拠出年金で利用できます。また退職所得控除は勤務年数が長い方が得になる制度なので、退職所得控除がおおきくなる退職金をもらう年と同一年に確定拠出年金をもらう方が、大きくなった退職所得控除の枠をフルに活用できて、得になります。

 

  退職金と別年に一時金で受給

 では先ほどのケースと違う場合、すなわち退職金>退職所得控除の枠 となる場合、もしくは勤務年数が20年を超えないような場合、退職金と別年に一時金でもらうと得になります。

 理由は2つあって、一つは退職所得控除の枠は最低額が決められていて80万円です。すなわち、確定拠出年金の加入期間が、退職金の算定基礎となった勤務年数の内数である場合、退職の翌年に確定拠出年金を一時金でもらうと、本来は退職所得控除が0となるところ80万円で計算してくれるので実質的な退職所得控除が増えるのです。

 さらに所得税は累進課税となっていて、所得が大きいと税率も上がるのですが、これは年ごとの計算なので、退職年とずらすことによって確定拠出年金の一時金をもらう年の所得額が小さくなり、税率が抑えられる可能性が高くなると思われるからです。

 自由に支給開始年齢を選択できる確定拠出年金の長所の一つだと思います。

 

  相続ねらいで引き伸ばす

 最後にやや制度上の隙間をついた話になるのですが、手元資金に十分余裕があって、余命を考えると相続するしか無い場合、支給開始年齢を目一杯後らせることで、相続財産にならない、あるいは減額される可能性があります。

 確定拠出年金の支給開始年齢は75歳になる直前までで、20年の分割払いも選択できます。ということは最長95歳まで受給を伸ばすことができます。95歳ともなると、全てを受給する前にお亡くなりになり、相続発生する可能性も結構高いと思います。

 確定拠出年金の加入者が亡くなった場合、残っている財産は遺族が受給できます。このとき支給される死亡一時金は民法上の相続財産ではありませんが、相続税の計算上は対象となります。ただし相続税の計算において、死亡退職金と同じ扱いとなって相続人1人あたり500万円の控除額が設定されています。例えば妻と子ども一人が遺されたとすると、1000万円までの金額を差し引くことになります。

 75歳以上で考えたとき、会社形態にしている自営でもない限り、もう退職金がもらえることはないと思うので、相続税上のみなし退職金控除額を使えることは少ないと思います。そういう意味で見なし退職金控除額が使えるiDeCoは貴重です。

 このため相続人の人数にはよるのですが、iDeCoは拠出可能額が決められていて残高は数百万円のことも多く、残高によっては無税あるいは小さなものとなる可能性が高いです。

 

 但し留意点としては、もともとの相続財産が少ない人(相続人の人数によりますが少なくとも3600万円までは無税です)はもともと相続税がかからないので意味がないです。さらに受取人は固定(配偶者が第1順位、生計同一の子画題2順位など)ということ、生存中の分割払いの間は税金の他、後期高齢者医療保険の保険料に跳ね返ること に留意が必要かと思います。