「陽太くん、いつ東京に戻るの?」


春風瑞希と出会ってから7日が経っていた。


僕は結局、あれから毎日瑞希と会って遊んだ。


彼女と遊んでいる間は時間を忘れてはしゃぎ、あっという間に過ぎ去っていく時間が恨めしかった。


今日も初めて会ったあの川辺で遊んでいたが、不意に投げかけられた瑞希からの質問に僕の顔は一気に陰ってしまった。


父の仕事の都合で、明日にはこの町から発たなければならなかったからだ。


僕はあからさまに肩を落としながら「・・・明日。」と呟いた。


「・・・そっか・・・。」


寂しげに俯いた彼女だったが、しばしの沈黙の後「もう!急だなぁ!もっと早く言っておいてよね!」そう言いながら上げた顔には笑顔が戻っていた。


「ご、ごめん・・・。」


どうして僕は彼女に帰る日を伝えなかったのだろうか。


自分でもはっきりとはわからなかったが、それを伝えてしまうことで、“彼女との時間”に終わりがあるという事を自覚してしまうのが恐かったのかもしれない。


僕がしょぼんとしていると、瑞希は微笑みながら僕に右手を差し出して言った。


「じゃあ今日は最後なんだから思いっきり遊ばなきゃ!」


「・・・うんっ!」


涙がでそうになるのを必死に堪えながら、僕は伸ばされた瑞希の右手をきゅっと握った。


繋いだ右手が熱をもつ。


心臓がドキドキして止まらない。


無意識に目は彼女を追い、気付くと視線を外せなくなっている。


― あぁ。僕は瑞希の事が・・・好きなんだ ― 


僕はこの日・・・生まれて初めて、恋をした。





その日僕たちはいつもより遅くまで遊んだ。


まるで迫る時間から二人で逃げるかのように夢中で遊んだ。


『帰ろうか。』


その一言が言えなくて。言いたくなくて。


辺りが暗くなってきた頃、僕たちはどちらからともなく、とぼとぼと帰り道を辿り始めた。


「陽太くん。」


「・・・なぁに?」


「手・・・繋いでもいい?」


「うん。」


僕は瑞希の左手をそっと右手で包んだ。


じいちゃんちが近づくにつれて、僕らの歩みは遅くなっていった。


そして繋いでいた手に力が込められる。


瑞希の方を見ると、俯いて肩を震わせていた。


「・・・また絶対来るよ。
来れない時は手紙書く。
忘れないよ。僕は瑞希のこと絶対忘れない。」


「・・・う・・・ん。
私も・・・手紙書くよ。
私だって・・・陽太くんの事・・・忘れない・・・。」


沈みかけの太陽によって彩られた幻想的な空。


川のせせらぎと夏の虫たちが奏でる美しい音色。


僕と瑞希の二人だけが共有したこの瞬間を、一生忘れるものか。


流れ出した涙も気にせずに、僕は瑞希との思い出を心に刻み込んだ。





別れを受け入れ消化出来るほど大人でもなく、かと言って駄々をこねて別れに抗おうとする程子供でもなかった14歳の夏。


どうすることもできなかった淡い初恋は、遠い空へと離れていく。


だけど・・・僕たちが出会った事は決して幻なんかじゃなくって。


確かに僕の記憶に残っている。


君の手の感触が・・・君の声の旋律が・・・。