目を開くと見慣れない天井が眼前に広がっていた。
どこ・・・だっけ?
なんだか記憶が曖昧で、頭がぼーっとしている。
ゆっくりと体をおこしながら目が腫れあがっていることに気付く。
あぁ、そうか。
昨日私は見知らぬ男に助けられたんだ。
繋がりだす記憶。
思い出すと急激に恥ずかしくなり顔が火照った。
あの人は・・・私を助けてくれた男、確か高瀬宗助と名乗っていた。
どこにいるのだろうか。
きょろきょろと辺りを見回してみたが彼の姿は見えない。
そうだ、彼が「僕のうちへきなよ。」と言った時に「僕は外で寝るから」とも言っていた。
まさか・・・本当に外で寝たのだろうか。
私はベットから降り立つと玄関へと向かいそっと用心深く扉を開けた。
扉のすぐ横にはタオルケットにくるまって座って寝ている彼の姿が。
信じられない・・・この人どこまでお人好しなのだろうか。
私は彼の肩を軽くゆすって「ねえ。起きてよ。」と声をかけた。
「うーん・・・。」
彼は眠たそうに目こすった後、大きく一回伸びをした。
「あ・・・おはよう。結ちゃん・・・だったよね?」
何も考えてなさそうな、何も警戒していないような、そんな能天気なその表情を見て私は思わず吹き出してしまった。
「そうよ。あんたは・・・宗助だっけ?
ごめんね、ベット占領しちゃって。まさか本当に外で寝るとはね。
とにかく中に入ろうよ。」
「あぁ、そうだね。
お邪魔します・・・って僕の家か。」
私は再びアハハと声をあげて笑った。
「泊めてくれたお礼に朝ごはんつくるわ。」
「え?本当に?料理できるんだ?」
「自慢じゃないけど料理は得意なのよ。」
私は彼に少し待っていてと伝えると、冷蔵庫の中を確認しにキッチンへと向かった。
男の一人暮らしにふさわしく、冷蔵庫の中には食材なんてほとんど入っていなかった。
卵とパンくらいしかなかったので、仕方なく目玉焼きとトーストという、誰でもできるようなつまらない朝食になってしまった。
「これじゃ腕の振るいようがないわ。本当に上手いんだからね料理は。嘘じゃないから。」
テーブルへと運びながらそうぼやくと、宗助は「いや、この目玉焼きのできを見れば料理が上手いんだろうなって事はわかるよ。綺麗だもの、この目玉焼き。」と誰にでもできそうな目玉焼きを見つめながら感心したように言った。
「・・・ありがとう。」
なんだかこの人と話してると調子が狂う。
「昨日・・・話したでしょ?父親は死んで、母親は私を捨てたって。
一人で生きてきたようなものだから、自然と料理は覚えたわ。」
「そっか・・・。うん、おいしい!すごくおいしいよ。
ありがとう作ってくれて。」
にっこりと笑ってお礼を言う彼に私は聞かずにはいられなかった。
「ねぇ、信じてるの?私の言ったこと。」
「言った事?信じる?どういうこと?」
「だから・・・父が死んで母に捨てられてって話し。
嘘みたいな話しでしょ?あんた私に騙されてるかもしれないのよ?」
「え?嘘なの?
全然気付かなかったよ。」
心底驚いたような顔できょとんとする宗助。
はぁ・・・私は思わず大きな溜息をついた。
「いや、嘘じゃないんだけどさ。本当なんだけど。
あんたは少しも疑わずに、昨日『うちにおいでよ』なんて即答したから。
それってかなり不用心じゃない?
あんたに下心があったんなら別に不思議じゃないけど、本当に外で寝てるんだもん。
私にはあんたが理解できないわ。」
「別に僕だって全ての人を信じてるわけじゃない。
なんとなくわかるんだ。本当に助けを求めてるんだろうなって人。
そういう人の話し、僕は大抵の事信じれるんだ。」
そう言って遠くを見るような目をする彼。
その瞳が湛える不思議な色になんだか少し興味を覚えた。
「あんたも・・・宗助も何か抱えてるものがあるの?」
「・・・いや。僕はもう大丈夫。
だから君の、結ちゃんの問題をなんとかしなきゃね。
今日は土曜日で仕事が休みだから、この先結ちゃんがどうするか考えよう。」
なんだか上手くはぐらかされてしまったが、自分の先の事を思うと他の事に考えを巡らす余裕なんてないことを思い知らされる。
「・・・。」
一気にテンションが下がり俯いてしまった私に宗助は優しい声で言った。
「大丈夫。僕は結ちゃんと昨日会ったばかりで、君の事ほとんど何も知らないけど・・・。
僕は決してもう君を一人にしない。
約束するよ。」
なんなんだろう、この人は。
彼は絶対に約束を違わない。絶対に嘘を言わない。
私だって宗助のことをほとんど知らないのに、私をじっと見つめる彼の瞳は何故か私にそう確信を持たせた。
「・・・ありがとう。」
一筋の涙が頬を伝っていった。