「突然の事で申し訳ありませんでした。

でも受け入れて頂けて本当に助かりました。

ありがとうございます。」



施設に到着し、手続きをしたり結ちゃんの荷物を運び入れたりした後、僕は園長室へと通されお茶を頂いた。



「いえ、お気になさらないで下さい。

結さんの心は・・・酷く傷ついていてボロボロの状態だと思うのです。

手遅れになる前にケアしてあげなければ・・・。」



恐らくこの人は一目見ただけで結ちゃんの危うさを見抜いたのだろう。



僕の事を不思議な人だと言ったが、この人もとても不思議な人だと僕は思う。



結ちゃんは今、施設内を日向さんに案内してもらっている。



不思議と言えば日向さんも随分不思議な人だ。



目が見えないと言う事だったが、まるでそれを感じさせない動きをする。



しかし僕が言葉を発する度に過剰に反応している気がするのだがあれは何なのだろうか。



いつだったか前に同じような感覚を味わったような気がするのだが、思い出せない。



過去に会った事がある・・・?



机に置かれたお茶を一杯口へ運び頂いた後、僕は園長先生に聞いてみた。



「日向さんは・・・目が見えないんですよね?」



「ええ。見えませんよ?

あぁ・・・まるでそうは感じないですよね。」



「あ、すいません。

別に彼女に疑いをもってるとかではないのですが。

ただ単純にすごいなぁと思って。

まるで見えてるように行動しているので・・・。」



「私もね、最初は驚きましたよ。

目が見えなくなってしまった理由は敢えて聞いておりませんので知りませんし、なぜ健常者のように行動できるのかもわかりません。

ただあのこは目が見えなくても、人の心が見えてるのかも知れません。」



そう言ってふふっと可笑しそうに笑う園長先生。



「心・・・ですか?」



僕はきょとんとしてそう聞き返す。



「そう。心です。

彼女がこの施設に入ってから、彼女と触れあった子供たちは皆不思議と心を開くようになったのです。

まるで子供たちの心を完全に理解し、最善の方法で彼らの心の氷を溶かしているかのように。

だから結ちゃんの事も・・・彼女に期待してしまうのです。」



「心を・・・理解するか・・・。」



きっと凄く、凄く優しい人なんだろうなと思った。



傷ついた子供たちを救っている日向さんと話しがしてみたいと思った。



それから少し施設の事について話しを聞いていると、施設の案内を終えた日向さんと結ちゃんが園長室へと戻ってきた。



そして二人の後ろには遠野要君がついてきていた。



「園長先生。一通り施設内の案内は終わりました。」



「どうもありがとう。葵ちゃん。」



園長先生がにっこり笑ってお礼を言った。



「日向さん、ありがとうございました。

結ちゃんどうだった?」



僕も日向さんにお礼を言ったが、やはり日向さんはピクンッと体を一瞬震わせ、「いえ・・・。」と一言だけ相槌を打った。



「どうだったって言われても・・・まぁ敢えて言うなら途中からストーカーのようについてきた男が気持ち悪かったかな。

あぁ、まだいたのアンタ。」



わざとらしくチラッと後ろにいる遠野君に視線をやり、憎まれ口を叩いた結ちゃん。



「ストーカー・・・!

おまえホント無茶苦茶言うな・・・!

聞いたぞ。おまえまだ高1なんだろ。

俺は高3で先輩なんだからな!ちゃんと敬え!」



顔を真っ赤にしながらそう吼えた遠野君。



素直で真っ直ぐそうな子だ。きっとこのこは日向さんに救われた子の中の一人ではないだろうか。



なんとなくそう思えた。



「先輩だから敬え・・・?

フンッ。ちっさい男ね。

アンタよか歳は下でも人生経験は上だと思うけど。

まぁいいわ。一応これから同じ屋根の下で暮らすわけだしね。

ヨロシク、センパイ。」



完全に上から目線で舐めきった口調でそう言った結ちゃんにさすがに一言注意をする。



「結ちゃん。

聞いたところ今この施設にいる中で遠野君は一番結ちゃんと歳が近いそうじゃないか。

そんな喧嘩腰にならないで仲良くすればいいじゃないか。」



「・・・ふん。

別に慣れ合う気なんてさらさら無いわ。

人間なんて・・・誰も信用しない。

ねぇ、案内終わったんだからもう自分の部屋に行っていい?

宗助もう帰っちゃうんでしょ?

だったら少し一人になりたいわ。」



「ケッ。かわいくねーやつ。

こっちだってお前なんかと慣れ合う気なんて無いんだよ。

そのおっさん帰ったら寂しくてホームシックになっちゃうんじゃねーの?

夜とか泣きださないでくれよ?

ここ壁薄いからよく聞こえんだよ。

うるさくて寝れなかったら迷惑だからよ。」



してやったりとばかりにケケケっと笑う遠野君に、突然立ち上がった結ちゃんが素早く詰め寄った。



次の瞬間、パァンッ!と乾いた音が響き渡った。



思い切り頬を張られた遠野君は呆然としたまま動く事ができず、僕が「結ちゃ・・・」と声をかけた時には彼女は園長室から飛び出していた。



走り去る彼女の目からは光るものが流れ落ちていた。



「要くん。」



直ぐに結ちゃんを追うべきだったというのに、凛として有無を言わさぬその声に僕は一瞬体が硬直してしまった。



遠野君も直立不動で青ざめながら「ご、ごめんなさい・・・。」と言って俯いてしまった。



「葵ちゃん。要くんには私が言っておきます。

あなたは結ちゃんを追ってあげて。」



「・・・はい。」



そう言って結ちゃんの後を追おうとした日向さんに僕は「僕も行きます。」そう言って同行を願い出た。



「あ・・・はい。お願いします。」



一瞬躊躇ったように思えたが、事が事だけに僕は気にせずに結ちゃんの後を追い始めた。








#9へ続く