施設の園長に「不思議な人ですね。」と言われた。
確かに自分は少し変わっているのかもしれない、という自覚はある。
施設からの帰り道、何気なく隣を歩く結ちゃんに聞いてみた。
「僕ってちょっと変なのかな?」
「へ?何を今更・・・。」
呆れ顔で僕の顔を覗き込むようにしてまじまじと見る結ちゃん。
「やっぱおかしいのか・・・。」
「そりゃそうでしょ!
素情も知れない若くてかわいい娘を助けて、居候させてんのよ?
手もださずに。
はっきり言って異常だよ。」
「えぇー・・・。
それっておかしいことなのかなぁ・・・。
道徳的には当たり前の事じゃない?」
「・・・全ての人間がみんな宗助みたいだったらね。
私だって幸せになれたかもしれないのに・・・。」
結ちゃんの顔から一瞬、表情が消えたのを見逃さなかった。
ぞっとした。
氷のように冷たい顔。恐ろしく暗い目。
僕は気付かないふりをして言った。
「何それ。
まるでもう終わりみたいな言い方。
これから先いくらでも幸せになれるじゃないか。」
「・・・本当にそう思う?」
彼女の表情は既に戻っていて、おどけた様な笑顔を浮かべていたが、目の奥は暗く澱んでいた。
「思うよ。
・・・僕の世界も一度壊れたことがある。
その時僕は命を放棄する気力も無くて、もちろん前に進む気力だって無くて、ただ息をするだけの毎日だった。
だけど今は幸せになりたいと思えるし、なってみせるって思う。
その気持ちがあれば僕はこれから先いくらでも幸せになれるって思うんだ。
だから結ちゃんも幸せを諦めないで。」
「・・・そっか。」
ふっと微笑んだ結ちゃんだったが、ダメだ。
僕の言葉は彼女の心に全く届いていないだろうと感じた。
「宗助は何があったの?
それって私より辛いことなのかなぁ?」
「・・・不幸自慢する気はないよ。
比べたって仕方のない事でしょう。そういうのって。」
「・・・ちぇっ。
まぁいいや。いつか教えてよね。」
それから彼女は家に着くまで口を噤んでしまったのだった。
翌日。
準備が整い、施設へと出向くために家を出ようとした時、結ちゃんがごねだした。
「ねぇ、やっぱり行きたくない。止めようよ。
ここに置いてよ。私何でもやるからさ。」
「何言ってんの・・・。
ダメに決まってるでしょ。」
「お願い!
私宗助と居たいよ。
そうだ!宗助と一緒に居れば私幸せになれるような気がするんだ!」
「だーめ。
道徳的にそれはいけないことなのです。」
僕は取りつく島も無く、「さ、行くよ。」と彼女を促した。
「・・・。」
彼女は無言で俯き、ゆっくりと立ち上がった。
そして体を引きずる様にして僕の後を追ってきた。
施設への道を辿りながら、一言もしゃべらない彼女に不安を覚えたが、きっと今は何を言っても届かない。
あの施設ならきっと、彼女を救ってくれる。根拠なんてなかったが、何故かそう強く思えた。
もう少しで施設に到着する所で彼女が口を開いた。
「・・・宗助も・・・結局私のこと裏切るんでしょ。捨てるんでしょ。」
とても、とても小さな声。
危うく聞き逃すところだった。
独り言のように呟いた彼女自信、声に出ているとは思っていなかったかもしれない。
僕は歩を止めて、後ろからついてきていた彼女の方へ振り返り、正面から見据えた。
「裏切らないし、捨てない。
別に君と一緒に居るのが嫌だから施設にいれるわけでもない。
可能な限り毎日顔を見にくるよ。
君が幸せを見つけられるまで僕は決して君を独りにしない。決して君を諦めない。
これから行く場所はきっと君に必要な場所な気がするんだ。
そう思えて仕方ないんだ。
お願い。僕を信じて欲しい。」
彼女の暗く深い目を見つめて僕は語りかけた。
「・・・本当に毎日来てよね。
約束だから。」
ぼそっと呟くと彼女は僕の横を通り過ぎ先に歩いて行ってしまった。
彼女の瞳に少しだけ・・・光が揺らいだ気がした。