新版の変更点・追加部分です。緩い意訳です。前回は、謝憐が傘を持って、廟の外に向かうところまで紹介しました。

謝憐がゆっくり傘を開くと、雨粒が傘に当たってバタバタと音が鳴ります。

 

地面にいる少年はその音を聞いて、誰かが近づいたと思って、わずかに動きました。しかし、誰かが来たとしても自分には関係がないと思い、また横になります。謝憐は開けたままの傘を入口に置きます。

 

少年はずっと音が消えないのを、ついに奇妙に思い、体を起こして見に行きます。すると、紅い傘が雨の降る地面に斜めに置かれているのを見つけ、それはまるで孤独に咲き誇った紅い花のようで、その場で呆然としました。

 

少年は駆け寄って、傘を抱き上げました。

 

慕情「殿下、ほどほどにしておきましょう。あまり分かりやすくしてしまうと、面倒ごとが増えます」

 

謝憐がまだ何も言わないうちに、少年はまた駆け寄ってきて後の入口のところで大声で叫びました。

 

「太子殿下!」

 

三人は驚き、一斉に振り向きます。

 

少年が傘を抱いていて、目を赤くして泥の神像に向かって叫びます。

 

「太子殿下!あなたですか?」

 

風信は謝憐が事前に子供を追い払っていたり、果物を投げたのを知らず、不思議に思います。

 

「この子、気がつくなんて鋭いな」

 

慕情は事前のことを察したらしくて、謝憐を一目見ます。

 

「もしここにいるのなら、一つ答えてください!」

 

高々とした神台に座っている時、謝憐は毎日何度も「どうか姿を現してください」との声を聞き、だんだん麻痺してくるものなのですが、謝憐はそれでも毎回聞くたびに注意を引かれてしますのです。

 

少年はきつく傘を抱きしめて言います。

「俺はすごく苦しんです!毎日死んだ方がましだと思っていて、毎日世界中の人を殺して、自分も殺してしまいたいと思っています!本当にすごく苦しいんです!」

 

十二、三歳の子供が、大声でそんな話を叫んでいて、滑稽にも見えるし、哀れでもありました。しかし、その小さな身体の中には、何か爆発しそうなものがあり、それが彼の憤怒や咆哮を支えていました。

 

風信は怪訝に尋ねます。

「今の子供は皆こうなのか?世界中の人を殺して自殺したいって、子供が言うことなのか?」

 

慕情「小さ過ぎるだけですよ。もう少し大きくなれば、今経験していることは大したことないってわかります。この世界には、苦痛な人が多すぎます。永安の干ばつを例にとったって、皆彼より苦しんでいますよ」

 

謝憐「そうかもしれないな」

 

誰かの苦痛は、他の誰かからすると、たいてい''取るに足りない何か''なのかもしれません。

 

少年は彼を見上げながら、片方しかない目は真っ赤になっていて、しかし涙を流すことなく、片手で傘を持ち、片手を伸ばして泥像の衣の端を掴みます。

 

「どうして生きないといけないんですか?人が生きることにはどんな意味があるんですか?」

 

沈黙が少し流れ、誰も答えません。少年も、それを予想していたようで、ゆっくり頭を下げました。

 

しかし、突然上方からやってきた声が沈黙を破りました。

 

「もしどう生きたら良いのか分からないのなら、私のために生きなさい」

 

謝憐のそばの風信と慕情は、彼が本当に答えるとは思っていなくて、しかもこんな答えで、皆目を見開きます。「殿下!」

 

少年はすぐさま頭を上げますが、誰も見えません。ただ、軽い声が聞こえてきます。

 

「君のこの問いには、私もどう答えたらいいかわからない。でも、もし生きる意味が分からないのなら、とりあえず私をその意味だと思って生きなさい」

 

風信と慕情は顔が割れそうになり、二人とも慌てて手を伸ばして謝憐の口を覆います。

「もう喋ってはいけません、殿下!禁を破ってます!

 

彼らに口を塞がれる直前、謝憐はなんとかもう一言発していました。「花をありがとう!とても綺麗で、すごく気に入った!」

 

少年は完全に呆然としていました。

 

 

風信と慕情は二人ともやっとのことで謝憐を引き摺り下ろしますが、謝憐は二人を振り払います。

 

「わかった!もう言わない!禁を破ったのは知ってる、聞かなかったふりをすれば良いじゃないか!君たちが言わなければ、誰も知らないんだし。この一回だ。誰にも言うな、わかったか?」

 

慕情はまるで靴下を食べるように迫られたかのような顔をして首を振ります。

 

「どうしてあなたのような....堂々と''自分のために生きなさい''って言葉を...本当に....」

 

謝憐は元々何とも思っていませんでしたが、そう言われると、顔を赤らめました。

 

風信はすぐに顔を正して言います。「もういい、殿下はもう言わないって言ってるし、もうその話はよせ」そう言いながらも、口元は痙攣しています。

 

謝憐はもう見ていられず、「なんだよなんだよ、私の言葉は役に立ってる、見てみろ」

 

少年はしばらく呆然と座った後、もう謝憐の声が聞こえなくなると、何回か力強く頬を揉み、供えられているお皿を抱えて、中の干からびた果物と点心を食べ始めました。力強く咀嚼する様子は、小動物のようにいじらしく、獰猛さが出ていました。

 

謝憐は腰をかがめて彼を見て、笑顔になり、二人に言います。

「ほら、効果があっただろ。さっきは食べなかったのに、今は食べてる」

「.....」

 

慕情「そういえば、殿下、俺たちを呼んだのは、何か決断したんですか?」

「そうだ、確かに決断した」

 

先ほど少し緩んだ空気がまた重くなります。

 

慕情「まだ関わるつもりですか」

謝憐「もちろんだ」

 

「どうするんです?」

「簡単だ、仙楽国内の水が足りてないのなら、仙楽の外の国に行ったらいい」

 

「他の国?そうなれば南方の雨師国しかありませんね。そこでさえ、遠すぎて、いくら法力を使うか分かりませんよ。法力がいくら多いとは言え、尽きる時がやってきます。疲れ死にますよ」

「試してみよう、何もしないよりかはマシだ」

 

決心してから、謝憐は自分の力で、頻繁に南北の間を行き来して雨を降らせました。

毎回雨を降らすためには、千里を行き来しなければならず、大量の法力を消耗しました。もし謝憐でなかったら、そんなことをできる人はいなかったのです。君吾を除きますが。

 

君吾は元々、謝憐がこの件に関わることには反対で、謝憐の行動に対しては色々目を瞑ってくれていたこともあり、そんな中で君吾に頼むことはできませんでした。

 

それに、君吾が治めている土地はもっとはるかに広大なので、仙楽に比べてはるかに多くの信徒や領土の世話をする必要があり、そんな君吾には言い出せません。

 

しかし、どれだけ疲れ果てても、死にかけている人達が歓喜しながら部屋の外に向かって行って、家にある大小のお盆を全て取り出して雨を受け止める姿を見ると、謝憐はもう少し頑張ろうと思えるのでした。

 

 

 

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この場面での大きな改変は、謝憐が雨師のところに、水を移動させて雨を降らせる法器を借りに行く場面が削られています。(結構なページ数削られていると思います)

 

でも、後の場面で雨師にこの時法器を貸してくれたことのお礼を述べているので、借りに行ったことは事実だと思います。

 

旧版ではこの場面で謝憐が下天庭の文官である南宮(後の霊文)と会話するシーンがあったり、謝憐が飛昇してから神官達に贈り物をしなかった話などがありました。

 

そして、法器を借りに行った時に、雨師のところの牛に「助けるとしたら人情からで、助けないのは本分じゃないから。貸すとしたら気分が良いからで、貸さなくても恨み言を言われる筋合いはない」と言われる場面もあります。

 

この会話は意外と好きでした。初めて読んだ時、人は困っている赤の他人に対してはこんな気持ちなのかもしれない、と納得してしまったのを覚えています。

 

新版ではこの辺りがまるまる削られたので、流れとしてはスッキリしたものの、旧版で補いながら読みたくなります。

 

子供の言葉に対して、慕情の「小さ過ぎるだけですよ。もう少し大きくなれば、今経験していることは大したことないってわかります」の言葉は、読むたびに心が痛くなります。

 

文章の中では、「誰かの苦痛は、他の誰かからすると、たいてい''取るに足りない何か''なのかもしれません」と評されていますが、記事81『慕情について』で紹介した慕情の生い立ちを考えれば、この時の慕情はまだ二十歳なので、彼がどれだけの苦境の中、もがいて生きてきたのかをよく表していると思います。

 

子供の花城が、殿下の愛ある言葉や行動で心が救われたように、最近は自分も、日頃から愛ある言葉を使おうと意識し始めました。

 

 

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全然物語に関係のない余談です。

 

最近虫歯で悩んでまして...。

 

子供の頃や若い頃に接した情報や考え方って、とても根深いなと感じます。下手したら一生モノです。

 

大人になる前に読んだ本で、歯を一つ抜くと次第に支えを失った周りの歯もグラグラしだすとか、歯を削ると象牙質が露出してかえって虫歯になりやすくなって悪循環だとか、でも歯医者さんは治療しないとお金にならないから、何かと必要のない処置までしたがる、みたいな話を読みまして。

 

今考えると、全ての歯医者さんがそういうわけじゃないのに、なんて偏った意見なんだろう、と思います。(確かちゃんとした歯医者さんが書いた本なので、全てが嘘だとは思いませんが、偏った考え方ではあると思います)

 

でも、情報の判断もまだ上手くできないぐらいの若い時って、それとなく理由や根拠らしいものが書かれていたら、そのまま納得してしまって。

 

それを読んでからというものの、歯医者で「これは虫歯になりかけてるから抜いたほうがいいよ〜」と言われても、なぜ痛みがないのにすぐ抜こうとするんだろう!!と複雑な思いを抱えて、初めのうちはそれに軽い怒りさえ覚えていました。(若い)

 

でもそれから年を取っていくうちに、歯のクリーニングや、引っ越しなどで歯医者をいくつか変えても同じように言われるので、きっとその見解が正しいんだろうなと、次第に頭では分かってきました。

 

最近その歯が食事の時に時々痛み出してきて、地味に困ってます。(自業自得)

 

(常に痛みがあったり、眠れないほど痛いわけではなく、時々何かの食べ物の刺激で短時間少し痛むぐらいです)

 

今のうちに治療しないとじきに酷くなるのは分かっているのですが...

 

困ったことに、今だに踏ん切りがつきません。(頭では分かっていても気持ちが追いつかない...)

 

痛いのも苦手ですが、どちらかというと、生まれ持った自然のものになるべく手を加えたくなくて、本来削らなくても良いところを削られてしまうのも怖いし、頑張ればなんとか残せる歯を抜かれてしまうのも怖いのです。

 

なので、歯医者選びに失敗したくない気持ちが強過ぎるのかもしれません。(そして、まだ自分で気が付いていない虫歯がある現実を突きつけられるのも怖い)

 

このあたりは歯医者さんの評判を調べて、詳しく説明してくれる歯医者さんを選んで、先生にその旨を相談しながら進めるしかないのかなぁ...。

 

皆様の虫歯治療エピソードや、歯医者選びの体験談、歯に良い情報など、何かあればぜひお聞かせください!

 

 

最近は日中少し忙しくなったのもあり、夜は早い時間に力尽きて寝てしまうことが増えました。(そんな時は、もちろんやるべきことは全然終わっていません笑い泣き次の朝、結構焦ります...)

 

元々若い頃からロングスリーパー気味で、10時間ぐらい寝ないと次の日スッキリしないので、いっぱい寝ると次の日はすこぶる調子が良いです。

 

調子は良いのですが、いっぱい寝ると必然的に自分の趣味の時間がなくなってしまうので、トータルのバランスを考えると時間が惜しくてたまりません。

 

心が荒れてきた時は、夜中に音楽を聴きながらゆっくり過ごす時間が好きなのですが、それでも追いつかないときは、(不本意ながら)いっそのこと寝てしまうことが、多分ストレス解消になっています。

 

忙しくなったり、余裕が無くなって心がパサパサしてきた時の、おすすめの切り替え方法や、リフレッシュ方法も何かあれば教えて欲しいです照れ(ちなみに運動は苦手です)