新版(2023年5月発売)の変更点・追加部分㉑です。前回は謝憐が郎千秋のいる場所にお札でワープする場面まで紹介しました。

謝憐が目を開けると、郎千秋が正面から真っ直ぐこちらを見ていました。謝憐はすぐに目が覚めて座ります。「千秋!」郎千秋は顔が暗くなり、謝憐に一撃与えて失神させるかどうか、悩んでいるようでした。少ししてから冷たく尋ねます。「どうしてここへやってきたんだ?」

 

謝憐は顔を拭います。血が止まったようでした。「君を探しにきたんだ。大丈夫か?」「どうして俺を探しに?以前はあなたを探していたのに、探させてくれなくて、今俺はあなたを探そうとしていないのに、どうして今俺を探しにきたんだ?」

 

謝憐は額に手を当てます。「ややこしすぎて分からなくなった」

 

郎千秋の顔色は良さそうで、それだけで半分安心しました。謝憐は以前から、この場に足を踏み入れるとどういう訳か、毎回しばらくの間気絶することを思い出しました。改めて見ると、二人とも手足が重い鉄の鎖に繋がれています。

 

四方八方は冷たい石の壁でした。彼は片端に繋がれ、郎千秋はもう片端に繋がれていました。ちょうど二人とも相手が届かない距離にいたのです。少し離れたところには大きい石の棺が並べられていて、地下の古いお墓のようでした。

 

謝憐「ここはどこだ?鎖はどういうことだ?」郎千秋は機嫌が悪そうに答えます。「俺も起きたばかりなんだ。俺に聞かれても。俺も誰かに聞きたいぐらいだよ」

 

謝憐がまた尋ねようとすると、郎千秋はもう耳を塞ぎたい様子で、「俺に話しかけるな!」と言います。

 

もしさっき謝憐がまだ目覚めていなくて、二人とも鎖に繋がれていなかったら、もうとっくに殴りにきてるはずなのです。謝憐は試しに鎖を引っ張ってみます。いつもならこんな細い鎖はすぐに切ることができるのですが、今回は変形しても切れません。何かの法宝のようです。

 

謝憐は軽くため息をつき、少し不安になり、周りを見渡すと、顔色がだんだん変わります。「どうしてここなんだ?」郎千秋はすぐに反応します。「ここを知ってるのか?」謝憐は頭を横に振ります。否定ではなく、まだ信じられないのです。

 

「もちろん知ってるさ。ここは仙楽皇陵なんだ」郎千秋の顔色が変わります。「皇陵?あなたの家の墓?」「棺の紋様から見ると間違いない。でもどうしてここに?」

 

郎千秋は石壁をひと蹴りします。彼の法力なら、壁全体が崩れてもおかしくありませんが、全然びくともしません。彼が両手で鎖を握ったのを見て、謝憐が言います。「余力を残しておいた方がいいと思うよ。もうきっと何度も試して、ダメだっただろ?」

 

郎千秋は謝憐を睨みます。その様子だと図星です。「それは当然だよ。君の主場(法力が強まる場)じゃないし、敵場だから君の法力も制限されるんだ。それは君が敵国の子孫だから、ここは....君を歓迎していない」

 

郎千秋は怒りながら言います。「俺は自分が来たくて来たわけじゃない!」

 

「仙楽国皇族は歴代、太蒼山の下に深く埋葬されていて、皇家が代々が秘密を守って守衛しているんだ。だから、誤って入ることはない。今もう皇家は既にないけれど、とても隠された場所にあって、普通の人なら入口さえ見つけられない。一体君はどうやって入ったんだ?」

 

郎千秋は答えません。「あなたの家の皇陵なら、きっとあなたの言うことを聞くんでしょ?早く墓を開けて俺を外に出してくれ」

 

謝憐は首を振ります。「私には皇陵を起動することができないんだ。だからどうやったら離れられるのかも分からない」

 

「あなたは仙楽国の太子でしょ?どうして皇陵を起動することができないんだ?」

 

しばらく沈黙が流れ、謝憐が答えます。「私は国を滅ぼした太子なんだ。だからここは私を歓迎していない」

 

以前、両親を弔いたいと思い、何度か入ろうと試みたのです。しかし、この皇陵の敷地に足を踏み入れると、いや、近づくだけでも、彼は顔のいろんなところから血が流れて失神するか、もしくは数里先の別の山の上まで投げ飛ばされて、地面に嵌ってしまって何日も抜け出せなくなるのです。

 

どうりで先程やってきた時、顔から血が止まらなくなったのです。お札で皇陵の排斥を強引に突破したので、結果が良いわけがありません。一人は反逆した者の子孫で、もう一人は国を滅ぼした太子なのです。二人ともここでは歓迎される客ではありません。

 

謝憐は頭を少し掻いて言います。「本当のことを言うと、あまり状況は良くない。二人ともここでは廃人と同じようなものなんだ。どうやってここに来たのか、教えてくれないか。この墓は誰でも入れるわけではないんだ」

 

郎千秋は嫌な顔をしながら、しばらく葛藤して、ついに口を開きました。「血雨探花だ。彼が俺を放した時に、絶剣芳心を渡して太蒼山に来るように言ったんだ」

 

謝憐は驚きます。「花城主は.....とっくに君を解放していたのか?」郎千秋は歯軋りしながら言います。「彼は、あなたに免じて、渋々放すと言った。つまり、俺はあなたに借りができた」

 

謝憐は大体どういうことなのか、分かってきました。郎千秋の性格からすると、死んでも自分に借りを作りたくないのです。郎千秋が続けます。「彼は、太蒼山では妖魔が悪さをしているから、ここでそれを解決したら、借りも返したことになると言ったんだ。だからここへ来た」

 

歯軋りしながらですが、みっともないことでも、素直に話してくれたのです。謝憐は笑いたいような、どうしようもない気持ちで言います。「君って子は、そんな真面目じゃなくても良いじゃないか。別に来なくたって、どうってことないのに」

 

「あなたとは違うんだ」

彼は当然やってきます。でないと今後、謝憐のおかげで窮地を脱したなんて噂が広まれば、彼自身が耐えられないのです。

 

「分かった。来るなら来るで、誰かに一言言ったら良いのに。今上天庭でどれだけ騒ぎになってるのか分かってるのか?」

郎千秋は警告するように言います。「俺に説教するな」

 

「分かった。じゃあ今はどういう状況なんだ?太蒼山にいるのはどんな妖魔だったんだ?どうして皇陵に入って、鎖で繋がれたんだ?」

 

「青灯夜遊」

「青灯夜遊?」

 

「そうだ、あいつだ。太蒼山に来てから、ふもとから頂上まで戦って、小さい鬼は全部やっつけたけど、最後青灯夜遊が出てきて、決闘を約束したんだ。この太子峰の頂上のどこかで。そこに着いたら目の前が黒くなって、目覚めたらここにいた」

 

謝憐は理解しました。青灯夜遊は、おそらく故意に戦う地点を皇陵の中に定めたのです。郎千秋はきっとその敷地に入ると気を失って、起きた時にはすでに敵場の中にいて、もう相手にされるがままになったのです。

 

謝憐はまだ信じられません。「太蒼山は青灯夜遊の場所なのか?彼は自由に皇陵を起動できるのか?どうしてだ?!」

 

謝憐という、れっきとした太子でもできないのに、一体どうして?

それに、花城はどうして郎千秋にここに来させたんだ?

 

「先に掌に火を点けよう。それぐらいの法力は持ってるだろ」郎千秋は元々点けようとしていましたが、謝憐に言われて点けるのは癪なので、かえって点けなくなります。

 

でも謝憐がすぐに言います。「いや、やっぱりやめよう。万が一近くに敵がいたら、場所を知らせることになって逆に良くない」

そしたら郎千秋がすかさず「いや、点ける」と言い、点けます。

 

点けた瞬間、二人は遠くに影を見つけて鳥肌が立ちます。「誰だ!」郎千秋が叫びました。

 

華やかな服を着て、石棺に向かって跪いている背中が見えました。この墓室に、彼ら以外にもう一人いたことに、彼らは気が付かなかったのです。

 

謝憐も初めは驚きましたが、よく見てみると安心します。「大丈夫だ、あれは人じゃない」

郎千秋は疑問に思いながら尋ねます。「どうして分かるんだ?」二人とも鉄の鎖で繋がれているので、二人ともよく見えるわけはないのですが、謝憐は言います。「あの背中、見覚えないか?」

 

郎千秋は半信半疑でよく見てみると、だんだん鳥肌が立ってきました。確かに見覚えがあるのです。見れば見るほど、見覚えがあるのです。

 

それもそのはずです。それは、正面にいる謝憐と全く同じなのです。

 

謝憐は壁の隙間から一つ、石のかけらをほじくり出し、少し身体を傾けて指でそれを弾きました。石は石棺に当たって跳ね返り、その’’人''の額に当たりました。ドンと鈍い音がして、郎千秋も一つ石を投げ、今度は力が大きかったので、その''人''は仰向けに倒れるのに、依然として跪いている姿勢を維持しています。

 

それは、実物大の銅像でした。跪いている姿に彫られていて、泣いている顔で、見る人を嫌な気持ちにさせます。一番嫌な気持ちになるのは、その顔でした。その顔は、謝憐と全く同じだったのです!ただ、謝憐はこんな顔をしたことはありませんが...。

 

郎千秋は青い顔をしながら言います。「なんだこれは?」

 

彫像を見ると、すぐにこれが人を侮辱する物だとわかります。それは彼の想像と許容範囲を超えるものでした。謝憐はあまり気にせず、小石を二つ、またほじくり出します。「兵器がないから、これで身を守るんだ。大事に使え」と言って一つを郎千秋に投げます。

 

郎千秋は一瞬受け取ろうとしましたが、謝憐を一目見て手を引っ込め、「何かがおかしい」と言います。

 

石は地面に落ち、コロコロ転がり、また謝憐のそばまで転がってきました。謝憐は苦労してそれを拾おうとしますが、なかなか届きません。最後ついに諦めて、座ってため息をつきながら「何がおかしいんだ?」と尋ねます。

 

郎千秋はじっと彼を見つめて尋ねます。「どうして銅像の後ろ姿を見て、自分だと分かったんだ?人は普通、自分の後ろ姿はわからないはずだろ?」謝憐は少し呆然としてから答えます。「どう説明したら良いかわからないけど、あれはたくさん見てきたんだ」

 

「あれは一体なんなんだ?どうしてたくさん見てきたんだ?」

 

謝憐がまだ答えないうちに、石棺の中から声がします。

 

「これは''太子贖罪像''って言うんだ、たくさん見てきただろうよ」

 

熱波が正面からやってきて、石壁の上に刺してあるたいまつに次々と火が点きます。そして、黒い影が棺桶の中から這い出てきます。

 

「この''太子贖罪像''がどうやってできたのか知ってるか?仙楽国が滅んでから、こちらの太子殿下は天下の民から恨まれすぎてな。それで皆が、太子が跪く姿の像や、這いつくばる姿の敷居を作ったんだ。

 

目的は、万人に踏みつけられて、二度と彼が日の目を見ないようにするためだ。これはどこの家にでもあるし、至る所にあるから、もしかしたらお前の廟の入口もこれが使われてるぞ。当たり前のようにたくさん見てきただろうよ」

 

墓室は火が灯って明るくなりましたが、空気は依然として冷たいままです。謝憐は目を細めて、突然明るくなった墓室に目を慣らせているようでしたが、郎千秋はすでに落ち着きを取り戻し、「誰だ?!」と叫びます。

 

黒い影はふた声不気味に笑うと、黒い髪をかき分け、白い顔が現れます。「俺が誰か、顔を見れば分かるだろ?」

 

この人は顔中血だらけで、さっき石棺の中で豪快に何かをかじっていたのがわかります。もう少しよく見ると、彼の顔は謝憐と三割ほど似ていたのです。

 

ただ、眉が高く釣り上がり、両目が格段に細く、それによって全体的に尖った顔つきになっているのです。それでいても、まだ見目麗しいと言えなくもないですが、顔を見れば扱いにくい人物ということがわかります。そのため、総合的には謝憐には似ていないのです。

 

謝憐は彼の顔を見ると深く息を吸い、目を閉じます。向こうは嬉しそうにやってきます。「太子従兄さん、俺だよ!嬉しいか?」

 

しかし残念なことに、顔も心も、この’’弟''と再会した喜びは微塵もありません。彼が顔中の血を、自分の衣になすりつけてくるがままにします。

 

「何が嬉しいんだ?仙楽皇陵は仙楽皇族にしか起動できない。私でなければ、他に誰ができるのか、想像がつく」

 

向こうの方で’’兄さん''やら''弟''やらの会話が聞こえてきて、郎千秋の眉が動きます。「あんたは小鏡王戚容なのか?」

''弟''は謝憐の肩を叩き、得意気に言います。「太子従兄さん、あんたの弟子は俺様の名前を聞いたことがあるんだな!」

 

謝憐は何も返す言葉がありません。仙楽国の小鏡王戚容は確かに有名なのです。でも、それは人々から度々残虐の象徴として引き合いに出されることで有名なのです。この人は精力旺盛で、行動が極端すぎて、しかも最悪なことに皇族のため、誰も何も注意できなかったのでした。

 

そのため、以前よく言っていたのが''太子従兄さんは完璧だ'' ''俺の太子兄さんは...''という言葉でした。誰かが謝憐に対して不敬をはたらけば、それが誰であろうとも、戚容はその人を麻袋に入れて、叩きのめしました。

 

彼の中には子供を愛し、老人を敬うなんて概念はなく、謝憐が一度彼の手の中から救った子供は十歳にも満たないのに、全身叩かれて血だらけで、悲惨すぎる姿でした。

 

謝憐が飛昇してからは、戚容はさらにひどくなり、例えば誰かが太子殿の前で唾を吐いたなら、その人の口に赤く焼いた炭を突っ込もうとするのでした。

 

仙楽国が滅びて、謝憐が凡人になってから、戚容は徹底的に狂い出したのです。率先して彼の廟を焼き払い、殿を叩き潰し、あちらこちらに跪く石像や這いつくばった姿の敷居を作り、謝憐に苦痛を与えるためなら、どんなことでも厭わないようでした。

 

謝憐はそのような行為には、ずっと耐え続けてきて、誰か他の人に危害が及びそうなら阻止して、最後耐えられなくなった時には、もう会わなくて済むように願ったのです。

 

謝憐は尋常でないほど怒りながら言います。「無駄話はもういい。私達を皇陵の中に入れてどうするつもりだ」

 

戚容ははははと笑いながら、「太子従兄さんは変わらないね。俺の顔を全然立ててくれない。弟として言わせてもらうけれど、何度も挨拶しに行った時は気にも留めてくれなかったのに、今回はどういう風の吹き回しか、自分から会いにきてくれるなんて。

 

こうなったらしっかりもてなさないとな。太子兄さん自らが俺を封印した後、それからずっと会ってないもんな。弟としては本当に会いたかったよ」

 

「もてなしは遠慮しておくよ。普通の人なら、君のもてなしには耐えられないだろうな。それにいつ挨拶しに来たのかも記憶にない」

 

戚容は驚きます。「なんだって?以前、小鬼達の魂を散らしたのは太子兄さんじゃないって言うんじゃないだろうね」

 

そう言われると、謝憐も思い出します。中元夜に花城と出会った時、道中鬼火がたくさんいました。もしかして花城が小鬼達を退治してくれたのか?でも、その時はまだ花城のことを知らないのに!

 

郎千秋は冷たく言い放ちます。「もてなすなり、昔話をするなり勝手にすれば良いけど、先に俺を放してくれないか?」

「大人が話してるのに子供が口挟むな。太子兄さん、自分の弟子を見てみろよ。年長者に対する尊敬もないし、こんな奴、一家を殺されて当然だな」

 

郎千秋は目が真っ赤になります。「お前何を言ってるんだ!」

謝憐は顔色が変わったのを見て言います。「放っておけ。あいつは狂って...」「どけ!俺に話しかけるな!」

 

謝憐は言葉に詰まり、何を言ったら良いのか分からなくなります。戚容は謝憐の顔色が悪いのを見て、突然向かってきて謝憐を抱きしめます。「太子従兄さん!太子従兄さん、どうしたの?死なないでくれよ!死んだら俺はどうすれば良いんだよ!」

 

こっちに向かってくる時に、謝憐の脚を蹴り、抱きしめた時に肋骨を何本か折ったのでなければ、謝憐は本当に自分のことを心配していると思ったかもしれません。謝憐の吐血はさらに酷くなりました。

 

突然、戚容が太ももを叩きます。「そうだ!良いものを見せてやるよ。きっと喜ぶはずだ!」

 

謝憐は「いらない!」ときっぱり断りますが、戚容は嬉しそうに謝憐の髪を引っ張って前に引きずり、跪いている銅像の前で止まります。「太子従兄さん、見て!心を込めて銅像を作ったんだ。ずっといつでも兄さんの勇姿を見られるように。どう?似てるだろ?好きか?嬉しいか?感動したか?」

 

謝憐は泣いている銅像を見ながら、何も言えず、顔が何度か引きつりました。前までは慕情のことを''回りくどい''と思っていましたが、戚容に比べたら、慕情なんて親しみ深くて可愛い白いお花のようです。

 

何も答えないのを見て、戚容はむきになります。謝憐の胸元を踏みつけながら、自分の胸に手を当てて、「これが太子従兄さんに対する俺の気持ちだよ。感じてくれたかい?教えてくれよ、嬉しいかい?言えよ!」

 

この様子を見ると、謝憐が「違う」でも言おうものなら、その場で頭を引きちぎりそうです。敵がここまで狂っているのを見ると、郎千秋も怒りが半分落ち着き、ついこんなことを口にします。「お前は病気か?」

 

謝憐は数口大きく息を吸い込み、髪はすでに乱れていました。戚容が何度蹴っても殴っても反応がありません。

 

「太子従兄さん、やるねぇ。太子従兄さんは、いろんなものを経験してきてるから、こんな程度のものじゃ何てことはないよね。新しいことを見せてあげるよ、きっと気に入るよ!」

 

戚容は謝憐の髪を掴んで、郎千秋の足元まで引っ張ってきました。郎千秋は謝憐がほぼ跪く姿で自分の前にやってきて、顔がほぼ地面に付いていて、姿勢も狼狽したものになっているのを見て、すぐに身体を逸らして、跪かれるのを避けます。

 

「どんな恨みがあるのか知らないけど、俺には関係ないから、俺を放せ!」

 

口を突いて出た言葉で、まさか本当に放してくれるとは思わなかったのですが、戚容は「わかった、放す!」と言ったのです。

 

鉄の鎖の音がして、謝憐が頑張って頭を上げると、郎千秋を縛っていた鎖が数丈長くなったことに気が付きます。前まで前まで五、六歩ぐらいしか動けなかったのが、二十歩程度動けるようになっていました。

 

郎千秋も呆然とします。戚容「放すだけじゃなくて、剣もあげるよ!」

 

そう言うと石棺の中から剣を一つ出してきて、地面に突き刺しました。剣身は黒玉のようで、まさに郎千秋が太蒼山に持ってきた絶剣芳心でした。

 

郎千秋は剣を地面から抜き取ると、鉄の鎖に向かって何度も激しく振り下ろしますが、ただ白い痕ができるだけでした。謝憐は「意味ないよ。この剣は年を取りすぎてるから、もう鈍くなってるんだ。これ以上振り下ろすと、折れるぞ」と言います。

 

郎千秋はその場で剣を折りそうでした。

 

この時、戚容が口を開きます。「そんなに怒るなよ!お前を手伝ってあげてるんだよ。人も剣もあげたから、好きにすればいい」

 

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このあたりは改編が大きいですね。

 

花城と謝憐が戚容の洞窟に行くところが改編されて無くなっているので、二人が小鬼に化けるくだりや、お互いの手に文字を書くくだりも無くなっています。あのシーンも割と好きでした。

 

以前記事92で紹介した、「宣姫がたまたま誰かすごい人に封印された戚容を助けたことがあり、それで戚容に気に入られた」という部分、戚容を封印したすごい人とは謝憐のことだったんですね。

 

あと、花城が郎千秋の廟を燃やしたのは、きっと入口の這いつくばる謝憐の像を見たからか、知っていたからですよね。

 

このあたりの場面は、郎千秋が反抗期みたいで、可愛くて萌えます。

 

やっぱり新版は旧版のファンにanother storyを見せてくれてるような感じがします。どちらが良いとかではなく、どちらにもそれぞれの良さがあって、両方揃えて愛でたくなります。