新版(2023年5月発売)の改編箇所です。今回は''自分''を負けてしまった殿下が極楽坊に到着したところからです。
前回は新しい物語が丸ごとが追加されている箇所だったので、割とドラマティックに紹介できたのですが、今回はドラマティックさや甘さに欠けるかもしれません...あまり期待せずに読んでください
このあたりの変更箇所は、第一弾の記事71で結構紹介してしまっているのですが、流れをわかりやすくお伝えするために、ところどころ重複するところがあります
極楽坊に入り、艶かしく踊る女鬼達が天井の瑠璃鏡に映し出され、その本来の姿は骸骨だったという描写が追加されています。
そして奥にいる花城の服装がラフなものに変わっていて、花城の本来の姿を謝憐が思いっきり褒めます。
謝憐が「極楽坊は花柳なの?」と花城に尋ね、花城が「花柳になんて行ったことない。俺の本来の顔は、そんなふうに思われる顔をしてる?」と返します。(このあたりの変更点は記事71に詳しく書いてます)
旧版では極楽坊に着いてから、花城に指輪のことを尋ねたり、家か住処かの話をしたり、賭坊を運営するのは危険ではないかの話が出たり、郎蛍が連れて来られたりと割と盛りだくさんでしたが、
新版では容姿を褒めて、ここは花柳なの?の会話が終わった瞬間、厄命が反応して、割とすぐに花城が出かけます。そして謝憐が下弦月使について行って、ある部屋の前で止まっている時に、花城が後ろから声をかけます。
花城「兄さん、探したよ。どうしてこんなところに?」謝憐「その...君を探すためだよ。家が大きくて迷子になったよ」花城「住処で、家じゃない。遊びで造って、暇な時にちょっと立ち寄って、そうじゃない時は放ってある」「違いはあるの?」・・・と続きます。
そして、花城「そういえば、どうして俺を探してたの?」謝憐は首にかけている指輪を取り出して、「この前これを置いて行ったから」花城は一目見て「あ、それ?あなたに贈ったんだ」「どういうこと?」「貴重なものでもないし、遊び感覚で着けてくれればいいよ」花城がそういえば言うほど、謝憐にはそれが大事な物に思えます。
謝憐が指輪をしまったのを見て、花城は続けます。「賭けの品にしなくて嬉しかった」謝憐「さっきも言ったけれど、受け取ったなら大事にする。いつか返してほしくなったらいつでも言って」花城「何かしたことを後悔したことはない。贈ったなら返してもらうこともない」謝憐「''孤注一掷、死亦無悔''かい?」
そして謝憐はあることを思い出します。「今日の黒い衣の男の正体は分かった?」花城「ただの描かれた皮だ。何も出てこない。でもそのうちきっと尻尾を出す」(つまり旧版で言う空殻みたいなもの)
謝憐「そう言えば、どうしてあの剣がそんなに欲しかったんだ?あんな賭けをしようとするなんて...」花城「あの剣が他の人の手に渡ることは許せない」謝憐「昔の私みたいに、名剣を見つけたら手に入れたくなるんだな」
花城「そういえば、ちょうど見て欲しいものがあるんだ。来てくれる?」と言って、武器庫に連れて行きます。
郎蛍が登場しない分、色々会話の順序も変えられています。
武器庫で「鬼王閣下に雑用をさせるなんて畏れ多いだろう?二巻p30」の後に追加があります。
謝憐は、武器庫の真ん中に黒玉のような長い剣があり、その上に絵画が並んでいるのを見つけ、部屋の四方の壁にも絵画が飾ってあるものの、ここだけはとても目を引くもので、思わず手を伸ばしてそれに触ろうとした時に、花城に「どの武器が一番強いと思う?」と話しかける描写があります。
(後で分かることなのですが、これらの絵もただの絵ではなく、仕掛けがあるのです)そこで厄命の話になります。
厄命の話が終わり、武器庫でいろんな話を語っている時に、花城が謝憐に宴会の準備ができたことを告げ、謝憐は名残惜しそうに武器庫を後にする描写があります。そして、興奮して自分から花城の手を取る描写も旧版同様にあります
極楽坊の一番高い楼で宴をすると聞いて、謝憐は「そんな大層なことをしなくても」と言いますが、花城は「小さな宴だよ。兄さんせっかく来てくれたのなら、是非何日か遊んで行ってよ」と返します。
席に着くと、美しい紗の衣を纏った女郎達が次々と食事を持ってきます。その中にウインクする風師を見つけ、謝憐が焦ります。旧版では風師はそのまま下がりましたが、新版では近くに立ちます。
謝憐は花城にお酒を勧められて、お酒は禁を破ることになるからダメなんだと断ります。花城が振り返ろうとすると、風師に気付かれまいと謝憐が慌てて花城の肩を掴む描写があります。
(次のシーンは第一弾で紹介したのですが、もう一回書きたい!!)
花城は紅い服の肩先を掴んだ謝憐の手を見て、「何かあるなら遠慮せず言って。急にどうしたの?」謝憐「・・やっぱり・・お酒もらうよ」「でも、禁を破るんじゃないの?」「三郎となら禁を破っても構わない!」
「そうなの?でもそれだと申し訳ないな」「いや、大丈夫。前にも禁を破ったことあるし」「お?それは酒の禁?それとも.....」
「色の禁はない!!絶対ない!!これまでもないし、これからもない!!」それを聞いた花城は、嬉しいのかめんどくさいのか分からない表情をします。
会話が終わって花城が振り返ろうとする時に、謝憐はまた肩をしっかり掴み、自分の方に向かせる描写があります。
謝憐「ちょっと!」花城「兄さんちょっとどうしたの?」謝憐「ちょっと退屈かな」花城「それじゃあ外に出て気晴らしする?」
それを聞いて謝憐が立とうとした時に、地面が揺れ、突然宴会場が高い楼から落ち、画舫(華やかな遊覧船)に早変わりします。
(大好きな殿下との画舫デートを用意するなんて、ロマンチストすぎますねそんな二人を見守るそのへんの鬼火になりたい...)
涼しい夜風が吹き渡ります。
花城は謝憐にお酒を一杯注ぐと「もう退屈じゃない?」と尋ねます。風師がいなくなったので、謝憐はホッと一息つき、「この極楽坊は本当に面白いね」と言います。
花城は瞬きして、得意そうに「こんなの何でもないよ。兄さんに見せたいもっと不思議なものもたくさんあるんだ」と言います。まるでお宝を見せびらかす子供のようだと感じて謝憐は笑顔になります。
その時、奇妙な音が聞こえてきて、謝憐が耳を澄ますと、「渡我!渡我!(成仏させて!)」と言っているようでした。
画舫が漂っているのは、漆黒の夜色と水色の中で、これ自体が巨大な一つの花灯のようでした。周りにもたくさんの花灯が取り囲んでいるほか、光につられてやってきた小さな鬼達も彼らを取り囲んでいました。
花城は「誰かがいると寄ってくるんだ。相手にしなくていいよ」と言いますが、謝憐は「成仏させるのも、なんてことはないよ」と返します。
花城は目を細めて「兄さん優しいね。この『見君川』の孤独な魂は幾千万にのぼるから、成仏させきれないよ」
謝憐は『見君』の二文字を心の中で繰り返しました。謝憐「この川は『見君川』と呼ぶの?どうしてこの名前に?」花城「この川が人界に繋がってるからだよ」謝憐は納得して言いました。「毎日君を思うのに、君を見ることができない(君に会えない)」
川岸にはたくさんの白い衣を着た小鬼達がしゃがみ込み、遠くから流れてくる水灯を眺めていて、人界の家族からの便りを待っているようでした。
夜の川、流灯、鬼火、遊魂、画舫、二人は怪しげで凄艶な景色の中にいました。
謝憐「誰も成仏させないなら、この鬼達はどうすればいいの?」花城「自分で何とかする。川をしっかり照らしてくれて、真面目に仕事を終えたら、楽になる」
時折、凄惨な鬼の泣く声が聞こえてきます。花城「二十年待っても、想い人が来なかった小鬼が泣いているだけだよ。よくある光景だ」
謝憐「二十年?長すぎるよ。どうして諦めないんだ?諦めたら彼も楽になれるのに」花城「諦めることなんてできない」
謝憐はその声に少し違和感を覚え、振り返ります。花城は既に顔を横に向け、いつもの調子で笑いながら、「人界の花灯もよく水に流されて来るんだ。特に中元節は多い。兄さん、見て」
そう言いながら、川から花灯を一つ持ち上げて、中に入っている紙切れを見ます。
一緒に祈願内容を見ると、「不細工で、金もないけど、七人嫁がほしい」「明日墓の盗掘に行くから、どうか金持ちの墓であってほしい」「自分より頭の良いライバルがみんな死にますように」
人は神に祈願する時は矜持を持って祈るのに、鬼王に祈る時は皆本性丸出しなのです。
最後の「ライバルが皆死にますように」の祈願を見て、謝憐は賭坊で娘の寿命を賭けた男を思い出し、賭坊を運営するのは危険ではないか、の話を花城にします。
「他人に押さえられるよりは自分で掌握しておいた方がいい p20」の後に少し追加があり、「兄さんも、俺が掌握していた方が安心だと思わない?」と尋ねる描写があります。
謝憐は「確かにその通りだね。差し出がましいことを言ったね」花城「そんなことないよ。心配してくれてありがとう」
この後、謝憐「これらの祈願は叶えてあげるの?」花城「いや、見たら捨てていいよ」謝憐「放っておくの?」花城は面倒くさそうに「そう。普段は見たりもしない」謝憐「どうして?」
花城「人に頼るより、深淵を這い出そうとするなら自分でなんとかしないと。毎回誰かが助けてくれるわけじゃない」
謝憐「でもたまには叶えてあげないと、鬼王は祈っても全然効果がないって言われない?」
花城「別に拝んでほしいとは思ってない、彼らが勝手に拝んでるだけだ。それに、たまたま叶った人は言えるけど、あんな願い事ばかりだから、叶わなかった人は余計なことを何も言えない」
天界の神官達は、少しでも信徒を増やすために毎日頑張り、少しでも信徒への怠慢があれば、すぐあちらこちらで文句を言われるのに、
もし彼らが花城が祈願を見てさえいなくて、叶わなくても誰にも文句を言われないなんて知ったら、きっと自分の神廟を燃やしたくなるほど苛々するんだろうな、と謝憐は思うのでした。
謝憐は笑いながら首を振り、比較的普通の祈願をいくつか記憶に留めて、時間がある時に花城の代わりに叶えてあげようと思うのでした。
謝憐「そう言えば、骰子を振るのも何かコツはあるの?」花城「あるよ。ただ運が良いだけだ」謝憐「だから今日賭坊では、からかったの?」花城「兄さんをからかうなんて。『運気』というのはとても奥深いものなんだけど、修行することもできるんだ。ただ、一日では無理だし、誰でもできるわけじゃない」
謝憐「それなら、私はできる方には入れないね」花城「兄さん勝ちたいなら、早い方法があるよ」花城は謝憐の手を握り、運気を授けます。
二人でそこから何十回遊んで、深夜になって謝憐が疲れたと言いだしてから、花城は画舫を極楽坊に戻します。
花城を見送ってから、少し座った時に、外から「殿下...太子殿下...」と呼ぶ声が聞こえてきます。
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『見君川』
「諦めることなんてできない」
心に刺さる言葉が少し追加されてます。
人界に通じる川で、魂が孤独に二十年想い人を待ってて、それでも十分長すぎる年月なのに、八百年も待ってた花城を思うと心が痛みます。
第四巻の過去編の冒頭では、戦士した兵士の魂が花灯として売られているのを見て、謝憐がなけなしのお金で花灯を全て買い取って、川で魂を成仏させていく描写があります。
最後に成仏することを拒んで残った魂が花城で、謝憐と会話を交わします。
極楽坊をこの川辺に建てたのも、''毎日貴方を思うのに、貴方に会えない''ことを表した『見君川』という名前を付けたのも、きっと謝憐への想いからなんだろうな。
数百年にわたって、この川を眺めながら過ごした花城の、数え切れない数の寂しい夜、寂しい想いをひしひしと感じます。
そこに思い至ると、この画舫のシーンがより心に沁みます...。
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たくさん記事を書いて、すごく今更なのですが...
たまに時間を空けて記事を読み返すと、誤字や言い回しの間違いに気が付き、結構赤面します
夜中とかに書いて、自分で自分の文章をチェックしても、意外と間違いに気が付けなくて...
多分読み返してても、表記より内容に意識がいってしまって、目は文字を追ってるけど、頭は他のことを考えてる状態です
普段小説や文章を沢山読まれる方が多いと思うので、記事を読んでいて誤字脱字、言い回しなどがおかしいところがあれば、
あ、ここは意識が変なところにいってたんだろうな、と寛大な心でお許しください...
昨日、たまたま小さなお花屋さんの前を通りかかり、花怜をイメージした濃い赤色のお花と白いお花を一輪ずつ、お迎えしました🌷
目に入る度に花怜を思い出し、癒されます。普段はあまり生花を飾らないのですが、二人をイメージした二輪のお花が可憐に寄り添う姿は、なんとも素敵でおすすめです
誕生祭じゃなくてもこの組み合わせで飾りたくなります