天界の中秋宴で、三千灯が上がる前に、神官達の間でお酒が回されていき、雷の音が止まったタイミングで、お酒を持っている神官を題材にした劇が上映される余興がありました。

 

そして、謝憐のところで雷の音が止まり、謝憐と三郎が親密にしている劇が上映されました。今日はこれについて書いてみます。

(多少のネタバレを含むので、最後まで読了されていない方はご注意ください。)

劇が上映された時、師青玄は謝憐に、半月関の人達が帰ってから誰かに書かせたものではないか、と言いますが、謝憐は肯定も否定もしません。

 

しかし謝憐は、彼らに本名を名乗ってもいないし、少年天生がそんなことができるはずもないと思います。

 

それに、もし彼らなら、謝憐と花城のそんな曖昧な関係を主軸にした物語ではなく、きっと謝憐の聡明さや勇敢さを主軸にするはずです。

 

劇については、

「戯曲の舞台は手が混んでいて、造りも申し分なく、役者の扮装まで素晴らしい快作」

「わざわざ謝憐のために書かれた戯曲」

「戯曲は最高の結末を迎えて幕を閉じた」と描かれています。

 

ここまで凝られて、作り込まれた劇なのです。

これはもう、きっとあの人の仕業ですよね。

 

これには二つの見方があります。

 

一つ目は、花城が謝憐のために用意して、わざと見せたという説。人界に遍く信徒がいる君吾の長命灯の三倍にもあたる三千灯を、謝憐の退屈しのぎのために用意するのなら、その前の余興も用意していてもおかしくありません。

 

地師は花城と協力関係なので、地師にわざと謝憐にお酒を回してもらって、謝憐に見せたのではないか。天界には黒水の分身が五十もあるので、花城が見せたい劇を持ってきて、上映させるのは難しいことではありません。

 

二つ目は、花城が民間に書かせたもので、たまたまこの劇が上映された説。

 

以前別の記事で書いたのですが(記事43『戚容が見た衝撃的な光景』)、少し後の時系列で、黒水の復讐の終盤、謝憐と花城が法力を奪い合うために、お互いを押し倒して口付けする場面があります。

それを見た戚容が、次の日そのことを罵るのを、花城は謝憐が帰ってくるまでずっと(おそらく甘い回想をしながら)聞いていて、謝憐が帰ってきてから戚容を殴って失神させています。

 

つまりこの劇も、花城が殿下との半月関の旅を、民間で劇として書かせて、自分自身で見ながら思い出して楽しみたかったのではないか。

 

この説は、''地師もきょとんとしていた''という描写を受けて、あくまで地師はわざと謝憐に渡したのではないという考え方です。そして、花城は自分で楽しむ用に書かせたもので、本来は謝憐に見せるつもりはなく、民間の中のこの劇がたまたま選ばれて、天界で上映された、という考え方です。

 

(どちらの説も、花城が書かせたという見方です。二次創作でもこのシーンを題材にしたものがあり、花城が書かせたと見るファンが多いです。ただ、わざと上映されたのか、たまたま上映されたのかは、意見が分かれます。)

 

でも個人的な見解としては、前者の、花城が謝憐のために用意して、わざと上映させた説です。この余興は、もし何も細工をしなければ、民間のどんな劇が持ってこられるのか分かりません。

 

そして小説で言及されているように、謝憐にまつわる劇で一番可能性が高いのは、慕情や風信を主役にしたもので、大抵謝憐が引き立て役か、悪役に仕立て上げられているのです。

 

たとえそんな劇が上映されても、謝憐は想定の範囲内なので、気にならないかもしれませんが、この後、満天の灯で殿下を感動させたい花城が、直前にそんな劇を見せたいと思うはずがないのです。

 

ここからは個人的な推測ですが、何よりも一番の理由としては、謝憐にあえてこの劇を見せて、謝憐がどんな反応をするのか、試したい気持ちがあったと思うのです。

 

劇の内容は、謝憐が思うように、あくまで実際あった動作や会話、呼び方を再現したもので、内容そのものに嘘は含まれていません。

 

それでも少しばかりの脚色なのか、演者の演じ加減なのか、他の神官達(客観的な目線)から見ると、少し「色事の台本」のように感じられています。

 

謝憐がもしこれに対して嫌悪感を示すなら、きっと直前の風師と水師の夫婦劇を見た当事者達のように、文句を言ったり、嫌な顔をしたり、劇を中断させるはずなのです。

 

花城はこの劇を見せることを通して、謝憐がどう反応するのか、見てみたかったのではないかと思います。

 

もちろん謝憐は、嫌悪感を示すことなく、中断させることもなく、真剣に最後まで、しっかり観ていますおやすみ

 

この場合の''地師もきょとんとしていた''という部分ですが、後に分かりますが、黒水は五十の分身を使い分け、黒水本人は言うまでもなく、分身もどれも演技がすごく上手いのです。

 

一見ただの余興ですが、花城が三千灯を上げる前に、謝憐のためにわざわざ用意したものなら、とても甘いですよね照れ

 

そして、さりげなく謝憐の反応に探りを入れようとする意図があったのなら、謝憐も期待を裏切ることなく真剣に最後まで観たことが、より一層甘く感じられます照れ

 

 

少し話は逸れますが、

他にも花城が謝憐の反応を確かめているのではないかと思う描写があります。

 

例えば、黒水の復讐のくだりで、途中花城が少し抜けて、後から華やかな骸骨の輦輿で謝憐を迎えに行き、その道中で「兄さん、結婚しよう」と言う場面がありました。

 

実はこの「哥哥,成亲吧」という言葉は、少し訳し方に迷う言葉なのです。

 

普通は「兄さん、結婚しよう」と訳すし、小説でもこの訳ですが、そのままそういう意味にもとれるし、実は、“僕と”という主語がないので、「(誰かととは言わず)哥哥、結婚したら?」というニュアンスにもとれる言葉なのです。

 

もし万が一、謝憐が良い反応を示したら告白成功だし、謝憐が嫌悪感を示したら、「哥哥、早く家庭を持ったら?と思っただけだよ。怒らないで。」とも言い訳できる言葉なのです。

 

花城は逃げ道を残して、謝憐の反応を試したのではないかと思っています。

 

 

殿下の前では、いつも慎重すぎて臆病すぎる花城の恋心、見ていてとても胸が締め付けられます...。

 

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鉄板の甘いシーンは皆さんよくご存知だと思うので、今回は、“よく考えると甘いシーン”を集めてみたいと思いました。

 

いくつか用意したのですが、長くなってしまったので、二〜三回に分けて、今回と、次回はこのテーマで書いてみようと思いますおやすみ