ネタバレを少し含むので、最後まで読み終えていない方はご注意ください。

花城と謝憐の初めての出会いは、花城が城壁から落ちて謝憐に受け止められた時です。その後、風信によって傷の手当てのために連れて行かれますが、後の風信の言葉から、この時風信を蹴って逃げたことが分かります。

 

二回目に会ったのは、花城が戚容に連れ去られて暴行を受け、馬車の後ろにくくり付けられて街中を引きずり回された時でした。この時謝憐は花城を助け、皇極観に連れて行きます。皇極観では花城に怨霊が集まり、謝憐の仙楽宮が燃えます。そしてその晩、花城は忽然と姿を消します。

 

数々の描写(「両手で謝憐の服の裾をぎゅっと掴んで離さない」「大きな黒い瞳を光らせてじっと謝憐だけを見つめている」「藁にも縋るかのように必死に抱きついている」「謝憐に話しかけられるとはにかんでしまう」など)から分かるように、子供の花城は謝憐のことが大好きなのです。それなのに、どうしてこの晩忽然と姿を消し、自分から謝憐を離れたのか?

 

謝憐を離れた理由

梅念卿が彼を占った時にこう言っています。「この子は大変な害毒で、破滅を招く天煞孤星(非常に不吉で周囲に不幸を招く)であり、関わるものは皆不運になり、親しくなったら命を落とす。触れることすらまかりならない」

 

(ちなみに後半で少し出てくるのですが''天煞孤星''というのは往々にして両親共に亡くし、亡くさないとしても亡くした方がマシなぐらいの環境に身を置くことになり、十八歳まで生きられない命格なのです。)

 

この言葉を聞いて、子供の花城は断末魔の叫びのように泣きじゃくります。決して認めたくはないけれど、彼には心当たりがたくさんあったはずです。

 

少し脱線します。

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彼の家庭の事情については多くは言及されていませんが、皇極観に向かう途中の会話で、この十歳の時点で「母はいなくなった」と言っているので、早くに母親を失っていることが分かります。家でも毎日他の家族からも疎まれ、喧嘩が絶えないような環境でした。きっと赤い右目が不吉だと言われたり、彼の誕生によって家に悪運をもたらしたと罵られたこともあったかもしれません。

 

あとがきで、作者は彼の生い立ちについて、家の中ではすぐに正座させられたり、跪かされたり、ご飯をもらえなかったり、残りご飯しかもらえなかったり、古い服を着せられ、お金を盗んだと疑われることもあったそうです。家族と口論になったら太子廟で一晩寝る、そんな設定だったと語っています。

 

時系列は少し後ですが、廟で少年たちに囲まれて「化け物は今日も廟の中で寝るつもりだな。次に帰ったら母ちゃんに死ぬまでぶたれるぞ!」と言われ、「母ちゃんなんていない!あの人は俺の母さんじゃない!」と言い返しています。小さい頃に母親を失い、継母か、母親代わりの女性から虐待を受けていたことが分かります。

 

続いて少年たちに、「殴ったらお前の父ちゃんに言いつけて懲らしめてもらうぞ」「お前母ちゃんいないもんな。母ちゃんに捨てられたもんな。家もないし、家族から嫌われてるもんな」と言われています。父親はいたけれども、味方をしてくれなかったことが窺い知れます。

 

新版のあとがきで、花城が小さい頃、母親が度々耳元で歌を口ずさんでいて、後の花城もそれを時折口ずさむ設定だったので、きっとそれは花城にとっては数少ない良い思い出で、少なくとも実の母親からは愛されていたと思うのです。

 

そのため、最近まで花城の母親は、小さい彼を残して亡くなったと思っていましたが、少年達のこの会話から、もしかしたら子供を置いて家を去らなければならなくなったのではと思っています。(あくまで個人的な推測です。)

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小さい頃から右目のことで周りから誹謗中傷を受けたり、家族からの心無い罵りの中で、彼は自分が不吉な存在だと心のどこかで思っていたかもしれません。でも一国の国師でもある人から直接、自分のそんな命格を聞かされ、嫌でも認めざるを得なくなるのです。命格であるということは、死ぬまで何ら変わらないことも意味しています。

 

そして彼自身、自分が謝憐に悪運をもたらしたと気が付くのです。謝憐が彼を助けたために、祭天遊はわずか三周で中断され、彼が次に現れた時は戚容に引きずり回されたことで町の住人に迷惑をかけ、風信も間接的に骨折することになり、謝憐は国王と衝突し、王妃は涙を流します。

 

(この喧嘩のくだりを花城は垂れ幕の後から座って聞いていた描写があります。)そして皇極観の謝憐の仙楽宮も彼が怨霊を引きつけたために燃えています。

 

彼がこの晩忽然と姿を消して、自分から謝憐のそばを離れたのは、これ以上謝憐に悪運をもたらしたくなかったからなのです。わずか十歳の子供が、帰る家と呼べるものも満足にない子供が、そこまで考えて真夜中に山で姿を消すなんて、もう胸がいっぱいになります。

 

 

ちなみに、泣き叫ぶ子供をなだめた後、謝憐は子供を寝台に置いて寝かせ、国師と「杯水二人」「人は上に向かおうとも下に向かおうとも人でしかない」などの会話をしています。以前記事53『君吾と謝憐の違い』で紹介したように、この会話は謝憐と君吾を分けたものと言っても過言ではなく、後の謝憐の人生観に大きな影響を与えています。

 

普通に考えると花城は寝ていたと思いますが、その後の人生において謝憐と共鳴する部分があることを考えると、もしかしたらこの会話を聞いていたのではないかと思うのです。(ここはあくまで深読みしがちな個人の見解です。)

 

後に全てが明らかになる時、花城の命格が天煞孤星になったのは、銅炉山が溜まっている厄運を全て呪いとして放出することがあり、花城が生まれた日時が悪かったこともあり、この時の厄運を全て吸収してしまったのではないかと、梅念卿が説明しています。

 

その後の花城

この後、謝憐が花城に会う場面は、謝憐がたまたま花城の所に行ったか、謝憐から花城の存在に気がついて声をかけているかなのです。謝憐の廟で「何のために生きればいいのか」の会話がなされた時、謝憐は風信や慕情とたまたまこの廟にやってきています。

 

戦が始まってからは、彼は謝憐を守るためにそばにいますが、あくまで「守る」以上のことはしません。物陰に隠れていた彼を謝憐が見つけ、風信の口から彼が戦場では常に謝憐の前で戦っていたことが分かります。

 

温柔郷でも、謝憐が道中鄙奴によって背後から狙われた時に、謝憐を守るために花城は姿を現します。温柔郷のあと、謝憐が再び彼に会った時も、謝憐が彼の存在に気がついて声をかけています。

 

つまり、彼は自分から積極的に謝憐に声をかけることはなく、常に影から謝憐を守るようにしているのです。

 

運気を操る花城

彼が鬼王になってから、運気を操る法術を修得したのも、そういった背景が関係していると思います。人間の頃、悪運によって苦労し、そばにいる人達も不幸にしてしまい、謝憐にも悪運をもたらしてしまったために、そばを離れざるを得ませんでした。

 

人間として死んでからは命格としての悪運は終わったのかどうかは定かではありませんが、彼にとって悪運の陰影は強く、どうにかして変えたいと思ったに違いありません。

 

彼は極楽坊の時に「一日頑張ったぐらいでは身につかないし、頑張っても誰でも身につくものではない」と言っています。きっとそれなりの苦労をして身につけたものなのでしょう。彼は謝憐を探しながら、苦労して運気を操る法術を修得したのです。

 

彼はただ謝憐に迷惑をかけずに、謝憐のそばにいたいのです。そして運気を操れるようになった今の彼は、もう何も憚ることなく謝憐のそばにいることができるのです。

 

 

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以下、余談です。

天官賜福以外のことを書いていいのか、とても迷うのですが、少しだけ...。

 

最近、冷凍フルーツにハマってます。(←急になんの話)

個人的なおすすめは、ゴールデンパインと、マンゴー、ブルーベリーです。

 

暑い昼間にアイス代わりに食べたり、紅茶に入れてフルーツティーにしたり、炭酸水に入れて飲んだり。マンゴーは凍ってても半解凍でもトロトロで甘くて美味しいし、ゴールデンパインはもう鉄板で最高です。プレーンヨーグルトにブルーベリーを入れると、解凍されるにつれてブルーベリー味になって美味しいです。

 

真夜中、小説を愛でる時間や、考察する時間が至福なのですが、時々そのお供に冷凍フルーツ食べます。低カロリーでビタミン豊富なので、夜更かしして小説を愛でても、そんなに肌荒れしない気がします。信徒の方でフルーツ好きな方がいらっしゃれば是非お試しをラブラブ