少しばかりのネタバレを含みますので、最後まで読んでいない方はご注意ください。
銅炉山が開いた時、花城は法力の暴走を防ぐために、本来の姿ではなく、子供の姿になりました。この時、郎蛍に化けて謝憐のそばにいるくだりが描かれています。謝憐の作る食事を顔色も変えずに食べたり、普段はほとんど何も喋らないのに自分から謝憐に話しかけたり、落ち葉の集め方が花城と同じだったり、姿勢もいつもと違うので、謝憐も気が付きます。（ヒントになる描写も複数あり、とてもわかりやすいです。）
一つの可能性ですが、もしかしたら、花城が郎蛍に化けたのは、この時が初めてではない可能性があります。謝憐が胎霊を捕まえる時に、水中で花城にキスされるシーンがあります。この直前の郎蛍が花城ではないか、と思うのです。
根拠①
謝憐が街中で仙楽太子のお守りを配った後、地面に捨てられて踏まれるのを謝憐が拾い上げるシーンがあります。拾い集めていると誰かの足元が見え、’’謝憐が顔を上げると、郎蛍の二つの黒い瞳が包帯の間から見えていて、謝憐を見つめていました。’’というような描写があります。郎蛍は普段は非常に臆病で端っこにいることが多く、自分から謝憐と目を合わせることも、自分から謝憐に近づくこともほとんどないのです。自分から謝憐をじっと見つめるというこの描写は非常に珍しいのです。この時謝憐は、「どうしたの？穀子とお向こうで座ってて、すぐに終わるから」と言いますが、郎蛍は動きません。郎蛍が言うことを聞かない描写も珍しいのです。わざわざこの描写があるということは、何かを仄めかしていると思います。
根拠②
この後、謝憐が水中に飛び込んで落ちた時に、花城はすぐに現れています。湖のそばにいる穀子と郎蛍に逃げるように言った後、自分は水の中に飛び込んでいるのです。そんなにタイミングよく現れるということは、花城は元々そばにいた可能性が高いのです。
根拠③
花城がこの後、謝憐に尋ねる場面があります。’’もし僕が現れなかったら、どう捕まえるつもりだったの？（胎霊を）お腹に中に飲み込んで、その後剣も飲み込みつもりだったの？’’と図星で謝憐の考えていたことを当てています。郎蛍の姿に化けていた時に、黒煙が謝憐のお腹の中に入った時に、謝憐が護身符と香草を飲み込んで、黒煙を吐き出したのを見たから、当てることができたに違いありません。
そして、実際にそれを行動に移そうとした瞬間に、花城が現れてキスしているのです。つまり、花城が少しでも遅れていたら、謝憐は水面に顔を出した瞬間に胎霊を飲み込んでいたのです。花城はそれを阻止するために、このタイミングで現れて謝憐の口を塞いだのです。そしてこの時の花城はきっと怒っていたに違いありません。自分をもっと大事にしない殿下にも、自分自身が現れるのが遅かったことにも。
この仮説を念頭に置いて、改めて前後の郎蛍の様子について読んでみましたが、この辺りの郎蛍に関する記述にヒントらしいものはあまりないので、あくまで一つの可能性です。謝憐をじっと見つめていたのは、もしかしたら違う理由があるかもしれません。花城がタイミングよく現れたのも、もしかしたら骨灰が何らかの反応をして、謝憐に危険が及んでいるかもしれないと思って駆けつけただけの可能性もあります。
でも、この時の花城のキスは「失控之吻」（理性を失ったキス）とも呼ばれていて、「失控」とはコントロールを失うという意味なので、どうしてコントロールを失ったのか？を考えた時に、郎蛍の姿に化けている時に、一部始終を目の当たりにして、謝憐が自分を傷つけようとする場面だったので、それが耐えられなくてコントロールを失ったのではないか、と思うのです。
今まで一番辛かったことは何か、を風師に尋ねられた際に、花城は「愛する人が目の前で傷つけられているのに、自分自身は何もできず、守ることができないこと」と答えていることからも、花城がどれだけ謝憐が傷つくのが耐えられないのかが理解できます。花城が離れた場所にいたなら、突如現れてコントロールを失うのには飛躍があるように思うのです。
そのためこの時のキスは、謝憐が自分を傷つけようとするのを見て、色々思い出していてもたってもいられず、本来の姿に戻って水中で殿下に口付けしたのではないかと思うのです。そこには、謝憐が自分を大事にしない怒りと、自分がもっと早く対処していたらという自分自身への怒り、そしてもう二度と謝憐を傷つけさせないという決意も混ざっているように思います。それが「失控之吻」に至った原因だと思うのです。
下の記事でも書きましたが、この時、少し長めにキスしています。それも、コントロールを失ってつい、と考えると辻褄が合うように感じます。（下の記事を書いた時は、この時の郎蛍が花城だった可能性が念頭になかったので、単に謝憐を救うためのキスだと書いています。）
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余談ですが・・
天官賜福には旧版と新版があって、旧版しか読んだことがないので、いつも旧版を元に記事を書いているのですが、新版では細かいところで多少内容に手が加えられていて、権一真の人物像や、霊文と錦衣仙のエピソードも割と印象が変わっているみたいで、ずっと気になっていました。
新版を注文したので、（届くまで少しかかりそうですが、）届いたら読み進めて、過去の記事にも新版との違いについて順次追記をしていこうと思っています。もしボリュームがありそうなら、新版と旧版の違いをテーマに記事を書いてみたいと思っています。
