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前回は、門で媒婆が師青玄に「縁談うまく調整するから!」と言うのを黒子が聞いてしまったところで終わりました。またもや黒子目線照れでのスタートです。

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黒子はどうして最近の師青玄が変なのか、分かったような気がしました。どこかに好きな女の子ができたのか?この前お金持ちの家で別室に連れて行かれたし、その家の娘か?いつも説書を聞きに来る常連の女の子か?いろんなことが浮かびます。黒子は媒婆を押しのけ、師青玄の襟口を掴んで部屋に入り、勢いよく戸を締めました。媒婆はあまりの勢いに驚いて逃げます。

「どうしてなんだ!どうしていまだに他の奴らと同じ扱いなんだ!一番の親友とも言ってくれないし!どうして俺から離れようとするんだ!!」怒りながら黒子は質問を浴びせます。どの質問も師青玄の心に刺さります。誤解だと説明したくても黒子の力が強くて声が出ません。

 

師青玄が例の三人組に傷つけられてから、賀玄は二度と視界から離れないようにしようと心に決めました。今の師青玄はただの凡人で、体も弱く手脚も不自由なので、弱ければ弱いほど賀玄の心を揺さぶります。その事件以降、小屋には師青玄を守るために咒法を仕掛けて、安否がわかるようにしておきました。徐々に賀玄は、師青玄を支えるちょっとした動作、腰に手を回して一緒に樹に飛び乗る動作などでは満足できなくなっていました。もっと抱きしめたい...  そう思うようになっていたのです。

 

師青玄も黒子の正体が誰なのか分かってきた時、驚くことはありませんでした。分かっているけれど言葉にはしない。言葉にしなければ、二人とも今の単純な関係でずっといられるから。あの日、師青玄が舌を出して雪の感触を確かめている時、黒子は目を逸らすことができず、もっと近づきたい、自分の唇をそこに重ねたい・・そんな気持ちを必死に抑えて「良い名前だ」と答えるのが精一杯でした。師青玄にとって自分がどんな存在なのか、それがはっきりするまでは、驚かすようなことはしたくないと思うのでした。

 

店舗に立つ師青玄は粗布の衣を着ていても、顔や雰囲気が良いからか、お店にやってくる女性たちが恥ずかしそうに師青玄を盗み見することがありました。でも手脚が不自由なことに気が付くと、すぐに毛嫌いするような眼差しに変わったりします。そんな様子を見ると黒子は無性にイライラするのです。いつでも師青玄がたくさんの人に囲まれているのを見ると、黒子は自分もその大多数のうちの一人な気がして、自分のちっぽけさを感じるのでした。

 

あの日、お酒に酔って今にも倒れそうな姿で眠ってしまった師青玄を眺めて、黒子は思わず吹き出します。起こしても起きないので、両手で抱えて部屋に入ります。師青玄の熱い頬が肩にあたり、くすぐったくなります。寝床に置いた後、しばらく寝顔を眺めていました。知らないうちに本来の姿に戻り、気がついた時には自分の唇を重ねていました。師青玄が夢の中で動いたかと思うと、我に返り、唇を離します。離しますが、後悔はありません。次の日、頭痛で辛そうな師青玄を見て、何食わぬ顔で熱いお茶を渡しました。

 

一緒に店舗を経営することは、黒子にとっては都合が良かったのです。いつでもそばにいられるし、門を跨ぐときに少し支えたり、立ち上がる時に手を引っ張ったり。師青玄の手脚が不自由なこともあり、そういった挙動も説明がつくのが黒子にとっては嬉しいことでした。

 

お金持ちの家で作画した際に師青玄だけ別室に呼ばれた時は、気持ちが落ち着かずそわそわしていました。最近様子が変で、作画をしていてもぼうっとしていることが多く、特に用事がないのに黒子を外に遣わそうとしたり。どうしたのかと尋ねても、いつもはぐらかされて、考えすぎだと言われます。どうしたのか、考えを巡らせながら帰ってきた時に、小屋の前で媒婆が縁談をうまく調整すると言うのを聞いてしまったのです。

 

それを聞いた瞬間、全ての不安と、全ての悔しさが押し寄せ、怒りに任せて師青玄を壁に押し付けたのです。絞り出したような「息ができないよ・・」と言う師青玄の声で、自分の粗暴な挙動に思い至り、手を離します。でも辛くて、次の瞬間思わず師青玄を強く抱きしめます。「お前は俺のだ!!俺のだ!!」そう言いながら、師青玄の首元に噛みつき、衣の中に手を滑らせます。理性を失ったかのように黒子は目の前の師青玄を自分のものにしたい欲望に駆られました。「賀兄、優しくして..」師青玄はすすり泣くような声で言いました。衣の中から黒石が落ちてコロコロ転がりました。その音で黒子は理性を取り戻し、本来の姿である賀玄に戻ります。

 

一旦手を離し、師青玄の背に手を回して、再び抱きしめます。驚かしてしまったことをどう謝ろうか考えているうちに、師青玄が先に口を開きます。「ごめん、誤解なんだ。あの媒婆が一人で喋ってて、未亡人とくっつけようとしたんだ。断ったんだけど、聞いてなかったようで...。・・好きにしたらいいよ。元々この命も君のものだし...」魂が抜けたような顔で、何をされても文句言わないような表情を見て、賀玄はまた怒りが沸いてきます。「それどういう意味だよ」自分のことを操り人形のように思ってるのか?

 

「その...どう考えてるか分からなくて。命を取らずに生かしてくれた時は感謝した。でもその後、黒子に化けてそばに現れた時は、どうしてそうするのか分からなくて。もしかしたら、復讐の計画のうちかもしれないし、もしかしたら凡人になった俺がおもしろいだけかもしれないし。理由が分からなくて、断ることもできないし、尋ねる権利もない。」師青玄は自分の考えていることを淡々と伝えました。

 

賀玄は少し考えて、「命を残したなら別の企みを用意しない。俺を誰だと思ってるんだ。あれだけの年月を一緒に過ごしたのに、俺のことがわからないのか?」「・・・確かにわからないよ。多分本当に分かったことは一度もない。元々一番の親友だったけど、最後明儀じゃなかったし、今は黒子でもない。どれが本当の君かわからないんだ。」賀玄は返す言葉がありません。

 

明儀としてそばにいた時は、上天庭で正体を隠すために日々戦々恐々としていた。師青玄と出会って、彼が各神殿や神官を紹介してくれたり、兵器や記録などの置き場所を紹介してくれたことで、当初は調査する上で大きな助けになった。近くにいる人みんなを笑顔にする師青玄のそばにいるのは心地が良かったけれど、そんな気持ちを認めてしまうと復讐に差し障ると考えた。復讐が終わって、それまで自分を支えていたものがなくなった時、改めて師青玄の影が心から離れなくなった。元々は無視できる気持ちだと考えていたが、それは間違っていたのだ。

 

「俺は明儀だし、黒子でもある。姿は異なってもずっとそばにいた。何も害を加えるつもりはないから安心しろ。さっきの...その..粗暴は許してほしい...」少し安心した師青玄は「まだ恨んでる?」と尋ねる。賀玄にとっては痛い質問だった。自分はもう恨みを捨てていて、どう師青玄の心に入り込むかだけを考えていたのに、師青玄はまだ罪悪感を引っ張っているのだ。「もう憎くない。だから自分の命が俺のだとか、そんなことはもう言うな。俺に従う必要はないし何も借りはない」そう言いながら、賀玄はまた師青玄を抱きしめます。少し経って、師青玄は口を開きます。「一回離れて、本当の顔を見せて」

 

目の前の賀玄は、あの日の兄の首を取った時の狂ったような顔ではなく、明儀によく似た、色白で鼻の高い整った顔でした。しばらく見つめていると師青玄の顔は赤く染まってきます。「初めまして、賀兄」賀玄は初めて師青玄の前で他の人になりきる必要がなく、師青玄のまっすぐな目を見て思わず抱きしめます。

 

誤解は解けたけれど、依然として、最近どうしてぼうっとしているのかわかりません。「最近どうして変なの?」賀玄が尋ねても、師青玄は顔を赤くして、目が泳がせるだけです。「もし困ったことがあるなら一緒に解決策考えるよ」賀玄は言います。一見普通の言葉なのですが、最近例の卑猥な絵画のことを考えすぎている師青玄にとっては違った意味に聞こえてしまい、気持ちが落ち着かなくなります。賀玄に抱きしめられた腕から逃れようとしますが、片腕での抵抗は虚しく、あれこれしている間に身体が反応してしまいます。師青玄は顔が赤くなったり、白くなったり、慌てたり、気まずくなったり。下を向いて道徳経を唱え始めました。賀玄はそんな師青玄を見て口付けします。そして、そのまま二人は身体を重ねるのでした。

 

次の日の朝、賀玄はまだ眠っている師青玄を眺めながら、後悔にさいなまれます。気持ちを伝え合う前に関係を持つことは本意ではなかったのです。最初は怒りで理性を失ったものの、誤解が解けてからも手を離すことなく、自分のものにしてしまったことに、少しの罪悪感を持っていました。でも先ほどの様子だと、師青玄も自分のことを好きということでいいんだろうか?そういえば、あいつの命は俺のもの..とか言ってたし...もしかしたらそれで合わせてくれたのか?いろんなことが頭をよぎり、師青玄が起きたら気持ちを確かめようと思うのでした。

 

師青玄も目覚めた時に、横にいる賀玄の顔を見つめて考えていました。凡人になってからほぼ毎晩、賀玄が兄を殺す夢を見ていましたが、今目の前にいる賀玄は全く違う顔をしています。黒子が賀玄だと知ってからは少しの怯えもありましたが、それ以上に好きになる気持ちを抑えることができなくて、そばにいたくなるのです。昨日は「お前は俺のだ!!」の一言にやられて、自分も正気を無くしたかもしれないと思います。いつから、いつもイライラしている賀玄のことが好きになったんだろうか。嫌々ながらも一緒に女装してくれた時なのか、初めて会った時からなのか。

 

師青玄は自分が上天庭に属すると心の底から思えたことは一度もありませんでした。何百年過ごしたし、風師としての仕事も全うしていたけれども、自分の素質がどれほどのものかは自分自身がよく分かっていたし、中天庭で兄を補佐するぐらいで十分満足していました。それがある日、自分が飛昇した時は怪訝に思いました。兄がどれほど自分のことを肯定しても、何とも言えない不思議さを感じていたし、功徳をばら撒くことで他の神官からの敬愛や承認を得て、心の奥にある疑問を埋めようとしたのです。

 

明儀が飛昇してから、師青玄は心から自分と彼は似ていると感じました。性格は真逆だけれども、彼の目を覗き込むたびにその奥に彼の孤独を感じ、彼も上天庭に属さないような気がしたのです。彼が一番の親友になるには時間はかかりませんでした。孤独な二人の魂が、一緒にいることで神官として完璧になれた気がして、任務の時はよく明儀を一緒に引っ張っていきました。他の神官にはわからないであろう、何らかの共鳴を感じたのです。

 

そんな感情を師青玄は一度も口にしたことがありません。神官として、恋だの愛だのは兄の教えでは必要ないとされていました。凡人になってしまった今の自分の身体を見て、何も良いところはないように感じます。どうしたら賀玄に好いてもらえるんだろうか?...頑張ってお金を稼ごう。二人の今の関係がどうであれ、責任を取らないといけないと思うのでした。

 

起きた師青玄を見て、賀玄はご飯を食べるように言いますが、師青玄は何かを探しています。黒石を探していることがわかると、代わりに探してくるから先にご飯食べておいで、と師青玄に言います。この黒石は、以前賀玄が川辺で拾って、師青玄に似てると言って師青玄にあげた物でした。

 

部屋には咒法が施してあるので、黒石を探すのに時間はかかりませんでした。黒石を探し出すと、黒石の側に竹の筒が置いてあることに気が付きます。どうして寝床の下なんかにあるんだろう。部屋が荒らされた時に落ちたのか?でも頻繁に触っている物なのか、埃も被ってない。不思議に思い、賀玄は開けて中を見てみました。中には、何十枚の絵が保管してありました。どの絵にも描かれていたのは彼でした。明儀姿の賀玄、黒子姿の賀玄、本来の姿、筋肉がとても魅惑的に描かれている賀玄...。それを見て、賀玄の不安は全て消え去りました。この絵は師青玄の心の中で自分がどれほどの存在なのかを物語っていました。

 

庭に出て黒石が見つかったことを伝え、一緒に山の中腹に行くことを提案します。縮地千里を使ったら良いよ、と言う師青玄に、法力をあまり使ってほしくないのを知っていて、賀玄は師青玄を背負って行きます。梧桐樹の下では秋風が吹き、夕日に照らされて、絶え間なく葉っぱがひらひら舞い降り、あたり一面は黄金色に覆われていました。美しい景色に見惚れて、師青玄は笑顔になります。そんな師青玄に、賀玄はゆっくり近づいてきて、耳元で何か囁きました。それを聞いた途端、師青玄は顔から耳まで真っ赤になり、賀玄を見つめて耳元で「俺も愛してるよ、賀郎...」と言うのでした。賀玄は師青玄を抱きしめて、二人で樹の上に飛び乗り、お互いの気持ちを伝え合うのでした。

 

師青玄は凡人になって三年目にして、愛してくれる存在を見つけます。賀玄は彼が手脚が不自由であることも、何も無いことも気にせず、どんな時も一緒に生きようと思ってくれた人でした。師青玄は、遠回りしたけれども、自分の欲しい生活が手に入ったことに感謝します。隣にいる眩しい笑顔の賀玄を見て、師青玄は彼を抱きしめ、三年目を楽しく終えたのでした。

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ついに結ばれましたねラブここまで長かった...。今晩はお赤飯食べてお祝いしたいラブ原作では初夜はとっても濃厚な記載があります。もうとっても満足できるぐらいエロいです。(でもここの二次元はガイドラインなるものがあるので大人の事情で書けませんえーんできることならその部分もあらすじも書きたかった笑い泣き朝チュンでごめんなさいえーん

特筆すべきは「賀兄、やめて!」じゃなくて「賀兄、優しくして...」ですよ!これだけで甘すぎて悶えますお願い突然の''賀兄''もいいですよね照れどこの時代、どこの世界にでもいるおせっかいな媒婆さん、今回は良いお仕事をしてくれました。

 

ハッピーエンドじゃないと心臓が持たない!って方はここでひと段落した方がいいかもしれないです。この後のお話としては多分1〜3話で終わるかな?その後に番外編もあって、それも素敵なので更に1、2話分、番外のあらすじを紹介すると思います。

 

絶対ハッピーエンドじゃないと無理!!って方以外は、是非一緒に最後まで二人を見届けてほしいです。個人的にはとても納得ができる最後だったし、思うところが色々あったので、それも語り合えたら嬉しいですおやすみ