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黒子は小屋に入ると、暗闇の中でうなされている師青玄が目に入ります。「・・兄さん、怒らせたらだめだ...」夢の中でうわごとを言う師青玄は表情も苦痛み満ちていて、涙を流していました。黒子は涙を指で拭いて、その指を舐めます。胸の上をそっと叩きながら「もう兄さんは大丈夫だ。お前の言う通りにするよ...」となだめながら、風師扇を師青玄のそばにおきます。

 

朝になって師青玄が目覚めると体はまだ痛みました。兄が亡くなって何年経っても悪夢は減ることがありません。起きあがろうとした時、風師扇が手元にあることに気が付きます。手に取り、扇の骨を触ると滑らかで光沢があります。そのまま深く考えることなく懐に入れました。庭の音に気が付き部屋を出てみると黒子が水を沸かしていました。「黒兄!今日は早いね!」「頭が打たれて馬鹿になってないか見にきたんだ」「ははは・・そんなわけないだろ?大丈夫だよ」「寒くなってきたから温かい水で顔洗え」そう言って温かい水と、熱々のお粥も渡してくれました。

 

「風師扇取り返してくれてありがとう」黒子は何も言いませんが、師青玄が何を聞きたいのか分かったようで「俺は指一本触れてないぞ」と言います。その目は嘘をついているようには見えません。師青玄は少しがっかりして「袋叩きにしてくれたと思ったのにしてないの?・・少なくとも何発か殴ってくれたんだよね?」と聞きます。黒子は笑いながら「もう二度と絡みに来ないよ」と言います。二人は目を合わせ、師青玄は笑顔で「よかった!」と言いました。

 

それから数日、師青玄は小屋で療養し、小屋の中の壊れたものを修復したり作画します。そうしているうちに、当初黒子が言っていたように、小屋を店舗として本や絵画を売ろうと考えました。そうすれば作画しながらお客さんが来た時に接客できるし、新しい試み、例えば屏風や扇子なんかに絵を描くことも始めようと思いました。

 

早速黒子にも尋ねます。「もし良かったら...一緒に店舗を経営しない?ずっと店舗にいなくていいからさ。ただ...今まで色々やってもらったのに、いいとこだけ一人で持っていく理由もないから、売れたお金は半分こしよう」「・・わかった」少しして師青玄は続けます。「お店の名前を考えたんだ」「なに?」「・・・双玄。」そう言いながら師青玄は黒子の目をまっすぐ見つめます。一瞬、二人の間に冷たい風が吹き、師青玄が襟元を締めようとした時、バランスを崩しそうになるのを黒子は背中に手を回して支えます。雪がパラパラ降ってきて、師青玄は思わず舌を出してその冷たい感触を確かめました。黒子はそんな師青玄を見て眼差しが熱くなります。「いい名前だ」

 

冬が過ぎ春がきて、「双玄書画坊」はついに開店の日を迎えます。古くからの客も、新しい客もみんなお祝いをしに来てくれました。初日の反響を見て、師青玄は一歩前進したと感じます。売れ行きが良ければ、廟の人を助けることもできるし、黒子に美味しいものを食べさせることもできると考えました。

 

その日師青玄は何度も黒子の方を向いて笑みをこぼしていました。今晩こっそり黒子のために鶏と鴨を用意していたのです。その晩、食卓一杯のご馳走が並びました。お酒を飲みながら、二人は楽しい時間を過ごします。凡人になってからお酒を飲んでない師青玄はすぐに酔いが回り眠ってしまいます。次の日、頭痛で目覚めた師青玄に黒子は熱い飲み物を差し出します。「もう二度とお酒飲まないや。頭が痛すぎる」「しっかりしろ、あとでお店開けるんだから」「どうしてあんなに飲んだんだろう」「三杯しか飲んでないけどな」今日の黒子は特別に機嫌が良いように見えます。

 

店舗の売れ行きは良く、お金持ちの家で作画するついでに、その家の飼い犬や飼い猫の作画もすると喜ばれました。金銭的な報酬以外にも、食べることが好きなのを聞きつけて貴重な食材やお菓子をくれることもあります。黒子は師青玄が外に出る時はずっとそばにいました。こうして数ヶ月が過ぎたある日、あるお金持ちの家で作画を終えた後、師青玄はその息子に別室に呼ばれ、少し卑猥な作画はできないか頼まれます。「・・いやそれは・・・」「何?最近名声が出たからってこんな低俗なものは描けないって?」「ははは・・違うんだ・・・はははは・・・つまり・・俺・・経験がないからさ。うまく描けないと思う・・はは」彼が描きたくないのではなく、描けないことを知って、お金持ちの息子はお腹を抱えて笑いました。「お金やるから、これで城一番の春楼に行っておいで。どの女も美人だし最高だしきっと満足できるよ。経験ができたら描いて。そういうのがほしい友達いっぱいいるから紹介するよ」

 

・・こんなこと黒子に相談できないしどうしよう...と悩む師青玄。その日から師青玄は上の空で考え事することが続きます。黒子がどうしたのか尋ねても、顔を赤めて何でもないと言います。師青玄は時々、黒子が店舗にいない時に、黒子の絵を描いたり、明儀の姿を描いたり、黒子が力仕事をしている時の筋肉が出ている姿などを描きました。たった一度だけ本当の賀玄の姿を描くこともありました。夢でうなされて目覚めた時に急いで描いて、丸めて、少ししたらまた広げて・・。もし賀玄が過去の恨みを捨ててそばにいてくれるなら、自分も罪悪感を捨てて心を開けるのかも・・と思うのでした。

 

秋になったある日、店じまいをしようとした時、中年のふくよかな女性がやってきました。その女性は師青玄に年齢を聞いて、自分は媒婆(縁談の取り持ちをする女性)であると自己紹介します。「良い縁談があるからこの機会を逃さないでね」と媒婆は続けます。「夫を亡くした未亡人が再婚したがっていて、四人子供がいるから、きっとよく産める女性だから、もし自分の子供を欲しいと思っているなら、良い縁談だと思うよ」と。「その女性に気に入られたなら嬉しいけど...今は結婚するつもりはないんだ。申し訳ないけど、これ以上気を遣わないで」師青玄の言葉に媒婆は驚いた様子でした。顔が良いのと商売が繁盛している以外は取り柄がなさそうだし、手脚が不自由で良い年になってもまだ独り身なのに、縁談を断るなんて信じられない様子です。

「一度会ってみたら?」「いや、いいよ」媒婆は外に出ながら「あまり複雑に考えないで、縁談、絶対満足いくように調整するから!」そう言い残しました。もう一度追いかけて断ろうと思った時、媒婆の後ろに黒子が怒りに満ちた表情で立っているのが見えます。

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お店の名前が ''双玄'' ですよ!師青玄も黒子の目をまっすぐ見ながら言ってるんです!もうお互い、分かり切っている状態ですねおねがいそしてついに!!ついに!!ついに!!次回、デレデレこんな展開が待ってます。次回は賀玄目線でのスタートですが、今回の内容の中に伏線がいくつかあります。次回、最終回ではないのですが、一つの区切りを迎えます照れ