前回の続きですが、まずは黒子(賀玄)目線で始まります!(前回の賀玄目線がBetter&Sweetすぎて、賀玄目線ってだけでわくわくするの私だけかな?照れ

 

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師青玄を独占したい気持ちがだんだん深まってきて、抑えることが難しくなってきた。いつからそんな気持ちを持つようになったのかかわからない。けど、誰でも来る者拒まず、誰でも仲良しこよしな師青玄を見て、賀玄は無性に腹が立ってきて仕方がないのです。いつからか ’’黒兄は一番の親友だよ’’ という言葉を期待している自分にも気が付きました。でも、なりたいのは友達じゃない。なんなら、''黒子''も本当の自分じゃない。どうしたらもっと自分だけを見てくれるようになるのか。そんなことばかり考えるようになっていました。一層のこと、さらっていこうか。でもどこに?幽冥水府は師青玄にとって悲しい思いが詰まった場所だし、そんなところにさらっても仕方がない。

 

凡人になってから毎晩悪夢でうなされる師青玄を見て、昼間明るく笑顔でいる分、一人で黙々と背負っている苦痛の大きさに思いを馳せます。身内を失う痛みは誰より知っているはずなのに、その苦しみを彼に与えたのは紛れもなく自分自身であること、彼の目の中の''黒子''でさえ本当の自分ではないことに、行き場のないイライラが抑えられません。

 

謝憐のところに花城が戻ってきてからは、師青玄は城を出る用事もなく、城を出ないと二人きりになる機会もなく。賀玄は時折、梧桐樹の上で眩しい笑顔を見せる師青玄を思い出していました。そんな彼の隣に腰を下ろして、バランスを取るために時折袖口を引っ張られるのも、大笑いして後ろに倒れそうになる時にそっと手を回して支えてあげることで彼の温もりを感じられるも好きでした。師青玄はいつもたくさんの人に囲まれて、賀玄には他の人が目障りで仕方がありません。自分もその多数の中の一人に過ぎないと思うと無性に気持ちが落ち着かないのです。’’みんなでチキン食べにいこう’’ ’’行かない’’ 意地になって答えました。

 

 

その晩、彼は遅くに目が覚めると、師青玄が階段に腰掛けて何か描いていることに気が付きます。それは上天庭の絵、様々な神官の絵など、本当に見事に、生き生きと描かれていました。「上天庭が恋しいのか?」「・・これ良い値段で売れるかな?」「売れるかもな。みんな神官の話に興味津々だし、きっと見たい人は多い」「もし良い値段で売れたら、他のものも描いてみようかな」「・・神官の日々が恋しいのか?」「いや、そもそも神官じゃないし、恋しいも何もないよ。本当は上天庭を見ることができるような人間じゃないのに、それを描いて生業にするなんて、皮肉だよね」「風師として適任だと思うけど」「・・売れたら何描こうかな。神官や、いろんな名場面を描いてみようかなぁ」・・いつもこうしてすぐ話を逸らす...賀玄は思いました。

 

次の日、師青玄の絵は街ですぐに良い値で完売して、もっと欲しがる人もいました。晩、廟で粟粥と畑でとれた野菜を食べながら、日中の売れ行きを思い出し、師青玄は安定した収入になればいろんな計画が早く進みそうと、笑顔がこぼれます。日中はいろんなことで忙しくて、夜遅くしか作画できない師青玄を見て、賀玄は胸が痛みます。ある日ついに布織り機を迎え入れることになります。黒子は上手に布を織っていて、師青玄が尋ねると、母と妹が織工をしていたから手伝っているうちにできるようになったと答えます。

 

ある雪の日、子供達が雪だ!雪だ!と興奮しているのを見て、師青玄は子供達と雪遊びします。黒子が雪で一生懸命何か作っているのを見て近づくと、ちょっと待って、と言われ、次に来た時に熱いお水が入ったお椀を持っていました。「紹介するよ。今日の宴席の、この料理は・・あの料理は・・・」いくつもいくつも料理がうやうやしく紹介されます。お酒もあるよ。「ははははは!いいね!遠慮せずにいただくよ!」雪で作られた一つ一つの料理を、順番に食べ、順番に、好き、美味しい、これは酸っぱい、など感想も丁寧に伝えます。

 

宴席を楽しんだ後、黒子は立ち上がり、師青玄の手を取って立たせ、もう片手で両脚をすくい上げて背中に乗せます。「何してるの?下ろしてよ」「一緒に山の中腹に行って雪の皇城を見よう」「いいけど、自分で歩けるよ!」「遅いから、背負った方が早い」師青玄は道中、顔を黒子の背中に埋めます。日焼けしているせいで赤く火照った顔や耳が目立たなくて良かったと思うのでした。梧桐樹に登って、雪でいっぱいの皇城を見ても、それを鑑賞する心の余裕がありません。川の音と、高鳴る鼓動を感じながら、少しずつ呼吸を整えて口を開きました。「あの宴席、最高だったよ!」「あんなの子供騙しだよ」「俺がほしいと言ったのは本物の宴席じゃなくて偽物の宴席だったのかもしれないよ?」二人は一緒に皇城の美しい景色を見ていました。「・・夢を叶えてくれてありがとう」

 

 

春になって初めての雨の日、黒子は夜遅くに帰ってきます。背中には机を担いでいて、手には椅子を持っていました。「毎晩階段で作画してるから、これからこれを使え」「ありがとう。高かったんじゃない?」黒子は何も答えません。濡れた身体を拭いてもらおうと、師青玄は拭くものを渡しますが、黒子は濡れた机と椅子を拭き、師青玄を座らせて高さを調整した後、満足そうに何も言わず立ち去りました。

 

雪の日以降、二人の距離はさらに縮まったように感じたのですが、もしかしたら錯覚だったのかもしれないと師青玄は考えます。あの日以降、黒子はほとんど廟にいないし、どこに行ってるのか尋ねようと思っても、どんな答えであれ自分には無関係なような気がして思い直すのでした。毎日師青玄は絵を売ったり、説書したり、廟で忙しくします。廟を出て自立して生活できる人が増え、がらりと人が減った廟を見て師青玄は嬉しくもあり、寂しさから孤独も感じます。

 

そうこうしている内に夏が終わります。師青玄は時折あの雪の日のことを思い出していました。あの日は特に寒く、手脚も冷た過ぎて感覚がなかったけれど、心の中は温かかったのです。あの日黒子は自分の夢を叶えてくれたのに、今はほとんど姿を見せません。どこにいるんだろう・・・

 

以前弟子入りが決まった皮仔が家族を連れて挨拶にきます。奥さんと子供と、みんな師青玄にひざまづいて感謝を伝えます。「本当にありがとうございました。あなたこそまさに生きてる神様です。私たち家族の恩人です!」「そんなことしないで!神様でもないし、そんなに感謝されるようなことなんかしてないよ!」そう言いながら師青玄は彼らを起こします。「もし時間があったら、是非康城の故郷に遊びに来てください。乾物のお店を開こうと思っています。それでは、お体に気をつけて。」皮仔は名残惜しそうに家族と去って行きました。

 

故郷から出てきて、栄えている皇城で何かしようと思っていた矢先、悪い人に騙され悪運が重なって、最後には廟に辿り着きそのまま何年も過ぎていました。もうここで終わりかと思った時に、師青玄が現れて彼らを助けたのです。

 

家族を見送った後、師青玄は廟の片隅に座りました。・・・故郷か。何百年も前に自分にも故郷があったし、小さい時は満ち足りた生活を送っていたけれど、家族の闘争で兄と家を離れ、二人で支え合って何年も過ごしたな。飛昇してからは上天庭が何百年故郷になり、その後明儀に出会って・・・。明儀・・

何百年前の人間界の故郷はもうないし、上天庭は自分の故郷とは言えないし。故郷に思いを馳せても家はなく、帰るところもない・・・。黒子・・・

 

黒子は廟に入ってくるや否や、師青玄の憂いた表情を見てすぐに声をかけます。「黒兄!久しぶり!最近どう?」黒子は何も答えず、ずっと師青玄を見ています。見られて気まずくなり、師青玄は続けます。「最近帰ってこないね。仕事が忙しいの?・・それとも、他に住むところができたの?」「一緒に来い」黒子は手を引っ張って廟の外に連れ出します。

 

師青玄も二人になりたいと思っていたので、引っ張られるまま抵抗しません。廟を出てからは黒子は師青玄の不自由は脚に合わせて歩調を緩めます。「どこ行くの?」「見てほしいものがある」少しすると、ある小屋の前で止まりました。黒子は緊張と興奮と入り混じった気持ちで戸を開けます。「入って」・・・黒子はきっと新しい住処を見つけたんだ。もう二度と廟で寝泊まりすることはないんだろうな・・。そう思うと素直に喜ぶことができません。きっと自分に意見を聞こうと思って連れてきたんだ・・。そう思いながら、笑顔を作って中に入ります。

 

少し古い小屋ですが、中は綺麗にされていて日当たりも良く、部屋の中は明るく照らされていました。奥には寝床の部屋もあり、裏には庭もあります。庭には、沐浴用の木桶や、かまどもありました。師青玄は見渡して、都度賞賛しますが、黒子が離れていくと思うと、気持ちは落ちていくばかりです。「黒兄!いいね!この小屋いいと思うよ!長い間探してたの?」笑顔で尋ねます。「昼夜仕事してお金を貯めて買った。何ヶ月もかかったよ」黒子は賞賛を聞いてから、緊張していた表情が綻びます。

 

「ここが好きか?机をあの窓の前に置いたら日当たりもいいし、窓開けて絵画を売ることもできるかもな!寝床はもし・・・」「え?・・待って、どういうこと?」師青玄は尋ねます。「お前自分のためにお金使わないだろ。だから俺がお金を貯めて代わりに買ったら文句ないだろ?そろそろ家を持たないと、ずっと廟でみんなと暮らすのも違うだろ。それに自分の家があった方が色々やりやすいだろ?」黒子は真面目に言います。

 

黒子の気持ちを知って、師青玄は思いを抑えることができず、裏庭に行きます。黒子は師青玄が断るのかと思い話しかけようとすると「来ないで!一人にさせて!」師青玄は叫びました。部屋で待っていると、しばらくして真っ赤な目をした師青玄が戻ってきました。「ありがとう。気に入った。」

 

師青玄は二年目にして家を持ちました。もしかしたらこの家は、そしてこの城は三つ目の故郷になるかもしれません。彼は自分のことを理解してくれる人がそばにいることに感謝しました。そして、その人が自分のために家を用意してくれたことに感謝しました。小屋は決して新しくはないし、大きくもないけど、誰かの胸一杯の思いが確かに詰まっているのです。師青玄は黒子に向かって笑顔を見せながら二年目を終えました。

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黒子がみんなの前ではそっけなかったのはヤキモチ妬いていたからなんですね照れ萌えます。。二人になりたいし、二人になるとちょっとした接触でも嬉しくなる黒子。師青玄もだんだん胸が高鳴ってきて、ちょっとずつ心の距離が縮まる二人。忙しくて会えないと寂しくなる師青玄。何ヶ月も必死にお金を稼いで家を買ってあげる黒子。自分のためと知って感極まる師青玄。・・・もう二人の全てが尊い。

 

家を買ってあげるだなんて、''言葉より行動で示せ'' みたいなところが、なんか下手なプロポーズよりも誠意の塊すぎてグッときます。強い鬼なんだから、家ぐらいなんとでもできたはずなのに、ちゃんと数ヶ月働いて貯める誠意と堅実さ。黒水沈舟ファンになってしまいそうです照れ