~その4からの続きです

 

初診から二週間が経ち、針筋電図検査を受けました。検査室は通常の診察室からは離れた場所にあり、人気もなく静まり返っていました。受付を済ませ待合室に入ると、既に他の方の検査が始まっているようでした。

 

しばらくして検査が終わり、初老の男性が女性に付き添われて出ていき、後から先生と看護師が出てきて隣りの控え室に入って行きました。聞き耳を立てていたつもりはなかったのですが、周りが静かだったので会話が自然と耳に入ってきてしまいます。

 

『重症筋無力症だね~。物が二重に見えるっていうから恐らく間違いないね。』

『そうですね~。間違いないですね。』

 

この会話を聞いた時、それまでは頭では分かっていたつもりでも、正直なところあまり現実感がないままでいた『自分自身も何か重篤な病気なのかもしれないということ』を初めて実感し、少し怖くなりました。

 

やがて名前を呼ばれ、照明を落とした薄暗い検査室に入り、右手、右足を電極を貼り検査が始まりました。

 

『脚から検査しますね。少し痛いと思いますが、力抜いてください。』

 

「針筋電図検査は痛い」と聞いていたので覚悟していましたが、思ったほどの痛みもなくちょっと拍子抜けした感じでした(後に他院での検査時にはかなり痛かったので、この時は特別だったと思います、、)。

 

『あ~。筋の動きは正常なので、筋肉の問題ではないですね~。』

『ここも正常ですね~。』

 

と検査は順調に進んでいるんだなぁ、、と思っていたところ、

 

『ん~?。脊髄からの反応が遅いな、、』

『H波 ○○(聞き取れませんでした)、0

『こっちも神経伝導速度が遅いな、、

 

と、それまでは私に話しかけていた先生の口調が、急に看護師さんへ向けたものに変わったのが分かり、リラックスしていた雰囲気が一瞬で変わりました。

 

「何か変な結果が出たのかな、、、エイチ波って何だろう、、、」と思う間もなく

 

『念のため、手も調べてもいいですか?』

『家族に同様の症状の方がいませんか?』

『親兄弟だけでなく親戚、親族にもいませんでしたか?』

 

と、矢継ぎ早に質問を受け、

 

『自覚症状はないかもしれませんが、嚥下障害があるかもしれないので調べましょう』

 

と、首や下顎にも針を刺し、看護師に何かを告げながらデータを取った後、

 

『ギラン・バレー症候群に似てるが、麻痺が長いな、、、』

 

との、独り言のような先生の呟きと同時に、長い検査が終わりました。

 


検査終了後、先生は私の顔をじっとみながら「想定される病気について、結果を同僚と相談させてください」と言いました。

 

私は「恐らく先生は病気が何なのか、目星がついているのだろう」と思い、幾つか質問をしました。

 

「考えられる病気は何ですか? 」

 『複数の医師できちんとしたカンファレンスをして、次回お伝えします』 

「では、先生が疑っている病気には、治療法はあるのでしょうか?」

 『確定していないので何とも言えませんが、グロブリン療法などが考えられます

「伝染や遺伝の可能性はありますか」

 『伝染はしませんし、遺伝もあまり心配は要りません』

 

家族に影響が無いことと、治療法があるということに若干安堵していると、  

 

『では、今日は以上です。』

 

との看護師の声掛けで問診は終了しました。本当はもっと聞きたいことがたくさんあったのですが、「二週間後には結果は出るからいいか」と思い、検査室を後にしました。

 

でも本当は、一番最初に聞きたかったのですが、怖くて聞けないことがありました。

 

 

「先生、この病気は治るものですか、、、」

 

2017年10月 『雲のかかった中秋の名月』