体内の鉄分と甲状腺の働きの意外なつながり | まぶたを治す道 〜眼瞼下垂はあとかたも無くすぐ治る〜

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瞼の手術治療に関するブログ
現状治らない疾患の治療法発見に興味があります。その為には古い慣習や常識にはとらわれません。未来の医療の構想のようなものが混じっております。読者に何かをもたらすことができればと思います。

ここのブログ、というか私の勤務先の眼形成外来は次々と鉄欠乏状態の人を発見する変な外来なのですが、

 

甲状腺眼症のかたも時々受診されるので、内科でないにしても基礎知識を入れておかねばなりません。

 

甲状腺ホルモンが生成されていく各段階について学んでいたところ、ある気づきがありました。

 

甲状腺がヨウ素を取り込むという事は一般的にもよく知られていると思います。

 

何のためにヨウ素を?もちろん甲状腺ホルモン生産のためにヨウ素が要るんですよね。

 

甲状腺はヨウ素イオン (I)の形で外部から甲状腺内にヨウ素を取り込みますが、 (I)の形のままでは甲状腺ホルモンのパーツとして使えません。

 

そこでヨウ素イオン (I) を甲状腺ペルオキシダーゼという酵素が I+(ヨウ素カチオン)に変換します。※以下すべて甲状腺内での話なので、ペルオキシダーゼの先につく「甲状腺」という単語は省略します。

 

Tgの話も省略してシンプルに、ヨウ素と、チロシンという物質が結合していくんですが、ここでヨウ素原子を1個もらえたチロシンと2個もらえたチロシンは微妙に別の物質になります。

ヨウ素原子1個+チロシン → モノヨードチロシン

ヨウ素原子2個+チロシン →   ヨードチロシン

 

甲状腺疾患に何らか関わりのあるかたであれば、甲状腺ホルモンにはT4とT3があるのはご存知ですよね。

 

この4とか3とかいう数字はそのホルモンが持つヨウ素原子の数です。

 

ヨードチロシン(ヨウ素2個)と モノヨードチロシン(ヨウ素1個)が合体したら、合体後の物質が持つヨウ素原子の数はいくつでしょうか?3個ですよね。予想がついてるかもしれませんが、そうです、T3が生まれます

ヨードチロシン+モノヨードチロシン→T3(トリヨードチロニン)

 (この反応にもペルオキシダーゼという酵素が不可欠)

 

ではヨードチロシン(ヨウ素2個)と、同じくヨードチロシン(ヨウ素2個)同士が合体したら、合体後の物質が持つヨウ素原子の数はいくつでしょうか?4個ですよね。そう、T4が生まれます

ヨードチロシン+ヨードチロシン→T4(チロキシン)

(この反応にもペルオキシダーゼという酵素が不可欠)

 

甲状腺ホルモン完成までの過程で何度も出てきてるペルオキシダーゼの重要っぷりがなんとなく伝わったでしょうか。

 

ペルオキシダーゼって言葉、甲状腺疾患で通院されてる方はなんとなく聞いた事がありますよね。

自分の甲状腺細胞を障害する抗TPO(甲状腺ペルオキシダーゼ)抗体(TPOAb)の有る無しを血液検査で調べた事があると思います。

 

今回は甲状腺の正常機能に(女性において高頻度に不足しがちな)鉄分が関与があるのでは、という話なのですが、

 

人体に鉄分が足りないとどうなると思うか?を周囲の人に質問してみると、たいてい

 

貧血(血中のヘモグロビンが少なくなった状態)になる。」

 

という答えが返ってきます。たしかににやり

 

ヘモグロビンはヘムという物質とグロビンというタンパク質が結合したもので、鉄原子を持つのはヘムのほうだけです。

 

ヘム + グロビン → ヘモグロビン

 

ヘムがどんな構造をしてるか、興味のあるかたは下記リンク先を見てください。そこまで見なくていい人は読み進めてください

 

ヘム(wikipedia)

リンク先を見てもらうと構造式が書かれていて、なにかのマシンに搭乗したパイロットのごとく、中心部に 鉄原子(Fe)が据えられてますよね。Fe原子が足りなければ、ヘムという物質は成り立たないし機能しないのは明白です。

 

 

なんとこのヘムは甲状腺ペルオキシダーゼが働くのにも必要なのですびっくりあせる

 

慢性的な出血過多(おもに月経)により体内の鉄分が少ない状態を放置されている人が多くおられますが、これで

 

鉄分の必要量が満たされているかどうかと甲状腺の働き(甲状腺ホルモンの生産と分泌)とが

 

無関係ではなさそうだ という事が見えてきました。

 

ただこれらは正常に機能している甲状腺においての話なので、甲状腺の自己免疫疾患発生が鉄分欠乏のせいだという話ではありませんのでそこはご注意を。

 

フェリチンという検査項目で推定できる体内貯蔵鉄。鉄欠乏状態だと、ヘムが十分作れず、ヘムを必要とする酵素であるペルオキシダーゼの働きを低下させ、甲状腺の働きに何らか悪影響を与えているかも、という推論です。

 

 

 

 

ここまで推論を書いてきたところで、悲しいお知らせが。

Pubmedで海外論文を調べてみたら普通に甲状腺と鉄欠乏の関連性について論じた論文は

すでにありましたゲローゲローゲロー

 

 2019 Sep 20; 132(18): 2143–2149. PMID: 31478926
Association between iron deficiency and prevalence of thyroid autoimmunity in pregnant and non-pregnant women of childbearing age: a cross-sectional study

 

一例としてあげましたが、この論文の中でも

"Studies in animals and human have shown that ID impairs thyroid metabolism by decreasing the activity of TPO and interfering with the synthesis of thyroid hormones, thereby leading to decreased plasma thyroxine (T4) and T3 concentration, as well as reduced peripheral conversion of T4 to T3."

動物およびヒトを対象とした研究によると、ID(鉄欠乏症)はTPO(甲状腺ペルオキシダーゼ)の活性を低下させ、甲状腺ホルモンの合成を阻害することで甲状腺代謝を障害し、血漿中のチロキシン(T4)とT3濃度を低下させるとともに、末梢でのT4からT3への変換を低下させることがわかっています。

 

わかっています・・・(とっくに)わかっています・・ゲッソリ笑い泣き

 

でもそういうお話、日本語圏ではあまり聞かないような?えー

 

ちなみに(鉄原子無しでは成り立たない)ヘムを必要とする酵素として甲状腺ペルオキシダーゼが今回話に出ましたが、

そういう酵素はなんとペルオキシダーゼだけじゃありません。滝汗

 

と、いう事は鉄欠乏状態の悪影響は多彩(貧血だけに限らないの)であり、

「ヘモグロビン値が正常範囲なら(貯蔵鉄を反映する)フェリチン値が低値でもべつに気にしなくていい」のではない、という事がわかりますね。

 

鉄欠乏症に興味あるかたは過去記事のこちらをぜひ。