最近、私の勤務先やこのブログには顔面神経ブームが来ていますので、わかりやすく、顔面神経とその疾患を解説しようと思います。
対話形式が読みやすいと思いますので、架空の人物(医師Aと看護師B)を設定して、お読みいただこうと思います。
※看護師Bさんはベテラン看護師で、医師Aよりも歳上です。
医師A「本日は、顔面神経について解説しますね。」
看護師B「はい。でもウチは眼科ですし、顔面神経に問題ある人はまず耳鼻科で治療、ですよね。」
A「うん、まあそうなんだけど、眼科の中でも眼形成をやる以上は、眼瞼下垂で目が開きづらい患者さんは元から多く扱うけど、今後、徐々に顔面神経麻痺で目が閉じにくい患者さんも増えてきて診ていく事になると思うし、ネット上で顔面神経麻痺について情報を探している人にとっても、まず先に知っておきたい情報と思うんです。」
A「正常の顔面神経の機能の知識がぼんやりしてると、顔面神経麻痺はもっとわかりませんよ。」
看B「そうですね。わかりました。」
A「脳からは12対の神経が出ています。上から嗅神経・視神経・動眼・滑車・三叉・・・・と色々ありますが、そのうち7番目が顔面神経です。」
看B「…眼科だったら視神経や動眼神経のほうを先に聞きたいですけどね〜」
A「まあまあ、そう言わず。顔面神経はおおざっぱに何をする神経だと思う?」
看B「全部は言えないですけど、顔の筋肉を動かすのが顔面神経でしょう。顔面神経麻痺で目が閉じれなくなる事があるのを考えると、目の周囲の眼輪筋とか。名称はおぼえてませんけど口の端(口角)を上げる筋肉とか。」
A「そう、表情筋を動かす機能を担っていますよね。でもそのくらいは、まんま名称の通りなのでほとんどの人が思いつくと思う。今回知ってもらいたいのは顔の表情筋支配以外の機能です。」
看B「顔の筋肉の運動支配以外・・ですか。」
A「はい。よく顔面神経を解説するイラストには耳の前あたりから何本もの顔面神経の枝が黄色で描かれてて、こめかみやら下顎やら、顔のいろんな筋肉へ向かってますよね。ああいう顔面神経が骨の孔から出て顔の表面へ出た部分以降は、今回はほぼ無視(割愛)します。
ちょっとwikipediaの顔面神経の項目
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A1%94%E9%9D%A2%E7%A5%9E%E7%B5%8C
をみてみてください。これ読んでだいたいのイメージつかめます?」
看B「うーん・・・はい、と言いたいところですけど、なんだかとっつきにくくて、すんなり頭に入ってこないというか。」
A「そうそう。最初はシンプルに理解しないとですね。
脳神経は脳から出てきます。そのルートを簡単に示します。顔面神経は表情筋を動かすだけの神経ではない、こういう枝分かれがあって、こういう機能があったのね、だから顔面神経が麻痺したり変な連結で神経が再生するとこういう症状が出うるんだね、という事が今日の解説で覚えられたらいいですよね。」
看B「ええ、まあ確かに…」
A「では始めます。脳から出てきた顔面神経は顔の表面を目指しますが、顔面神経の出発点は頭蓋骨の内部なので、まずは頭蓋骨内のほら穴を通らないと顔の表面には出れません。
顔面神経は顔面神経管に入ります(入口名は省略)。この管はL字をしていて、入ったらすぐ、中でほぼ直角に曲がっています。
看B「名前がそのままなので覚えやすいですね。」
A「ですね。直角に曲がっている管に入ったら、管に沿ってその通りに曲がりたいのが人情じゃないですか。実際、ほとんどの顔面神経線維は管の通りに直角に曲がります。直角に曲がる部分は(膝:しつ)と呼ばれます。」
看B「一部は曲がらないんです?」
A「はい。大多数の本流は管に沿って曲がりますが、一部はそれとは別の方向で直角に曲がります。こいつらが顔面神経第一の分枝です。図だとわかりやすいですね。」
看B「そんな神経あるんですね。」
A「その一部の変わり者たちは大錐体神経と呼ばれ、涙腺へ向かい、涙の分泌を担当します。(※単独ではなく他にも涙腺へ向かう別系統の神経はあります)」
看B「あぁ、涙という事は眼科的にも重要…!」
A「でしょう?いかにも眼に関係しそうな名称の神経ではなく、顔面神経こそが涙腺の担当神経(の1つ)なのです。」
A「次いきましょう。顔面神経管内の膝と呼ばれる部位で大部分の神経線維は管に沿って直角に曲がり、そのすぐ後でまた一部の線維が神経管に沿わず別方向へ行くんです。これは二番目の枝、アブミ骨筋神経になります。」
看B「アブミ骨って耳の聴覚関係の骨ですよね。ツチ・キヌタ・アブミって習った遠い記憶があります。」
A「そう、その3つの骨(耳小骨)が有るのは鼓膜の奥のスペース、鼓室です。鼓室にアブミ骨もアブミ骨筋もあります。」
A「顔面神経一番目の枝の涙腺へ向かう神経(早くも名前省略)は、顔面神経本隊から別れてからそれなりの距離走って、やっと涙腺にたどり着きますけど、この第二の枝、アブミ骨筋神経は顔面神経管のそばに鼓室があるので、本隊と別れてからの走行距離は短いです。高速道路とサービスエリアみたいな距離」
看B「それはかなり近いですね!」
A「音が聞こえるには空気の振動が耳に入り、鼓膜に振動が伝わり、ツチ・キヌタ・アブミに伝わり・・と伝播していくんですが、アブミ骨筋が収縮するとアブミ骨が振動しにくくなり音が伝わりにくくなる、つまり過剰に大きな音から聴覚系臓器を守る役割を担っています。」
看B「という事は神経麻痺でアブミ骨筋神経が機能しなくなったら・・」
A「その話はまた今度にしましょう。次に顔面神経から枝分かれする第三の神経は鼓索神経です。鼓室に入って筋を支配した、さっきのアブミ骨筋神経とまぎらわしいかもしれませんが、鼓索神経も鼓室には入ります。しかしそこからが違って、舌へ向かいます。舌では舌の前2/3のエリアで味覚を担当します。」
看B「2/3ってかなーり広い範囲ですね。」
A「そう。舌ナントカ神経って名の神経は他にありますが、味覚の大きな部分を担うのはそれらではなく顔面神経(からの分枝)だったんです。」
看B「過去に学校で習ってはいたんでしょうけど、
顔面神経=味覚を担う神経だなんて
イメージがこれまで薄かったですね。」
A「鼓索神経は味覚プラス、図のとおり唾液腺(顎下腺と舌下腺)にもいきます」
看B「機能しなくなったら唾液量が足りなくなるんでしょうか。」
A「減るだろうとは思いますが、現実には顔面神経の麻痺が多い部位って、鼓索神経が出る場所より末梢(下の)レベルであるケースが多そうですね…。今思ったんですが、唾液は左右のいろんな唾液腺から分泌されて、口腔内という一つのスペースを潤すわけですよね。でも眼は?眼は左右の2つあって、涙液分泌する涙腺も別々ですから、反対側が分泌量増やして肩代わりなんて事もできなくて口腔よりさらに乾きやすそうですよね。」
看B「ただでさえ顔面神経麻痺ではまぶたが閉じない事で乾きがおきやすいのに。」
A「これで顔面神経管に入った時点の顔面神経から、大錐体・アブミ骨筋・鼓索の3つの神経が枝分かれしたわけです。残りの本隊は茎乳突孔という穴から頭蓋骨の外へ出ていき、顔や頸部の多数の筋に向かい、その運動を支配しますが、今回は触れません。」
A「損傷を受けた部位にもよりますけど、顔面神経の障害によっておきうる症状が筋肉の麻痺だけではなさそうなのが、理解していただけたら幸いです。」
看B「麻痺が治る過程で神経の混線がおきたら、唾液が出るべき場面で涙が分泌されたりも、ありうるという話がなんだか納得できました。」
A「良いと思ったらチャンネル登録と好評価ボタン」
看B「ありませんよ。」
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