僕がデビュー間もない頃に、大変お世話になった演出家、岩田達宗さんと、新宿駅でバッタリお会いしました。



マスクを着けていたから、もしかしたら人違いかもしれない…と、思いながらも、ここでお声掛けしなかったら一生後悔する、と思って、勇気を出して「岩田さん?」と声をかけてみたら…「おぉ!?おぉ!リヒトー!」と、僕のことを覚えていてくださいました。



僕が岩田さんと初めてお会いしたのは、コレギウム・ムジクムという団体の2002年公演、オペラ「笠地蔵」でした。知り合いの紹介で地蔵役として出させていただき、その時の演出が岩田さんでした。



出番もそんなに多くなく、アンサンブルの一人…という役でしたが、合唱の一人一人まで輝かせる岩田さんの演出と、そのエネルギーやアイディアに感化され、舞台にのめり込んで挑んだのを覚えています。

(地蔵役は本当に息を止めて演じたら、気絶しそうになりましたが…この舞台の為なら死んでも良いって、当時の僕は本気で考えていました…若かった…でも、それほど熱い舞台でした)



翌年、同じ団体でオペラ「愛の妙薬」のオーディションがあることがわかったので、絶対にまた岩田さんとお仕事したい!と思ってオーディションを受けました。いま思えば、超ド下手だったし、何も持ち合わせていなかったけど、とにかく気持ちだけは伝えたくて全力で歌いました。チケットノルマがすごい額でしたが「大丈夫です!」と言い切ったのは、何の根拠もなく、ただただ岩田さんの演出で舞台に立ちたい一心でした。

↑ちょうど20年前の自分。わ、若い…。

(オペラ「愛の妙薬」よりベルコーレ役)




それから何度かご一緒させていただき、その都度に刺激とエネルギーをもらって自分のモチベーションにしていたのだと思います。



僕自身が演出の仕事をする時にも「岩田さんなら…」という言葉が常に頭をよぎり、その中で自分らしさというのを見つける作業をしています。



岩田さんの思い出の中で僕を常に支え続けている言葉があります。ベテラン歌手の方が経験値を生かして、自由に、奔放に演じられるのを見て、不器用な自分自身を卑下して僕が「やっぱ、真面目じゃダメなのかな…」と呟いたら、岩田さんが(いつもの)デカい声で「リヒト!真面目の何が悪い!…お前はそのままでいろ!!」と僕に向かって怒鳴りました。(※本人は怒鳴った意識はない、たぶん声がデカいだけ)



全身全霊が痺れるような感じで、岩田さんの言葉を受け止めたのを覚えています。あの言葉は、僕の人生を決定づけたと言っても間違いありません。



舞台の仕事をしていると、未だに不器用だったり、人よりも上手くいかなくて落ち込んだり、恥ずかしい気持ちになったりすることが多々あります。そんな時、必ず岩田さんの言葉を思い出すのです。「お前はそのままでいろ」



岩田さん、ありがとうございます。

そして、今日お会いできて、お話できて幸せでした。本当はもっともっと聞きたいことがたくさんあるので…またお会いすることが出来たら嬉しいです。