反響も大きいし、自分自身も余韻が長く響いているので、過去は忘れる性格だけど今回は…オペラ「クリスマス・キャロル」初演を振り返ってみたいと思います。


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まず、稽古がスタートしたのが9月末。
まだ前半部分しか楽譜が届いていなかったものの、なかなかピアノに向かって譜読みする時間が捻出できず、正直準備万端とは言えない状況で音楽稽古に参加しました。

稽古初日の様子…顔は笑っているけど、心は焦っている


単音で自分のメロディは音取り出来ていたのですが、ピアノが入ると和音の中にぶつかる音が必ずあって惑わされる…思っていた以上に稽古初日は苦戦を強いられ玉砕したのを覚えています。(のちにこの伴奏との関係性が一気に解消する瞬間があります)

加えて当時、実は喉を壊していて、発声もめちゃくちゃになっていて、単純に狙った音程を出すのも大変な状況でした。アリア一曲歌ったら即座に声がなくなる(出なくなる)状態でしたので、家での練習も控えなければならなかったのです。


音楽稽古が続きましたが、その間にも続きの譜面が次々と届いてきます。ようやくスクルージ役の分量の多さに気づき、焦り始めたところで「コレペティ稽古」が設けられました。


作曲者の塚田真理さん直々にマンツーマンの稽古をつけてもらい、また別日には別組ピアニストの松本康子さんに客観的な音楽解説と対応法などを教えていただきました。
別組スクルージ役の香月健さんと、ピアニストの松本康子さん



少しずつ音が入っていくものの、まだ曲と仲良しにはなれていない実感。そして立ち稽古も始まり、さらに終盤の楽譜も届きます。焦りがピークに達した頃、ある事実を知ります。

「塚田真理さんの師は三善晃さん」

パーン!と目の前の霧が晴れた瞬間でした。三善晃先生の作品である合唱組曲「三つの抒情」は僕が最も愛する作品で、その技法・作風を自分に取り込みたくて毎日この作品をピアノで弾くのを日課にしていた時期がありました。

合唱出身の僕にとって三善晃、木下牧子、多田武彦、高田三郎は僕の音楽活動の根幹でしたし、心の深い部分に染み込んでいる音でした。

その事実を知って改めて楽譜を眺めた時、一気に全てが自分の中に取り込まれていったのを覚えています。


立ち稽古は順調で、一つ一つのシーンをまずは全力で演じながらコツコツと作っていき、中盤以降はそれらを物語の順番でつなぎ合わせていった時に、繋がらないところを修正していく作業。


最後のシーンまで立ちがついてから、終盤になって改めて物語序盤でスクルージの現在の役作りをしていく、という形で自分なりに組み立てながら稽古を積み重ねていきました。


ボブ・クラチット役の島田道生さんが歌う最高傑作アリア…稽古ながら涙が止まりませんでした


精霊2(「現在」を司る精霊)を怪演する杉野正隆さん…別組だったので稽古場でのみの共演でした



他のシーン、他の役の方々がどんどん完成度を上げていっているのを見るにつけて、本当にこの作品が歴史に残るべき最高傑作であるのを実感していきます。


その主演を務める重圧以上に、最高の栄誉を心に留めて、ひたすら真っ直ぐ、熱い気持ちと幸福感を心身ともに刻みながら稽古を積んでいくことができました。