芸能事務所マネージャーの小坂龍之介という役をいただいて、まずは芸能関係者、そのお知り合いに取材をしました。
芸能界に関わっていた方たちからいろいろお話をうかがい、リアルなイメージを取り込みました。
特に事務所のマネージャーさんの服装など、かなり綿密に教えていただき、そこから役作りを開始しました。
で、実際に稽古に入ってみたら、どうもそもそも服装(衣装)が違う…実際にはマネージャーさんというのはスーツを着るもので、しかも俳優さんのマネージャーはイギリス系ブランド、芸人さんのマネージャーはイタリア系ブランドを…着こなせていない感じでルーズなイメージでしたが、今回は演出的に違う、ということで、作り直しでした。
【名前】から役作り
僕は役を与えられたら、まずは役名に着目します。作家さんが付けた名前ではありますが、そこには何らかの意図やイメージがあるはずだからです。
これはオペラでは必須。その役の性格をそのまま名前にしている場合も多いからです。
(その話はまた後日)
例えば「小坂」という苗字を検索すると(「日本姓氏語源辞典」)…「小坂」はかなり古くからある姓で、日本各地に散らばっているようです。
つまり、割とよくある名前。でも歴史は古く、いわゆる中流ぐらいの名家であるようです。
そして「龍之介」…古風であり、しかも「龍」の文字を入れるぐらいですから、家は由緒正しく、両親家族から相当期待されて育てられたことが想像できます。
ところが当の本人は現在、芸能プロダクションのマネージャー…明らかに親の敷いたレールからは外れているのでは?
家を継ぐこともなく(もしかしたら次男では?)芸能プロダクションに入社。
(ここからは勝手なイメージ)
ボンボンで慶●義塾に入学と共に上京。親の期待に耐えかねて反発からか学生時代はバブルの雰囲気にも呑まれて遊び歩き、就職な大手は諦めてサークルの先輩の紹介で芸能事務所へ。
大した野心もないのでのらりくらりと仕事をし、売れず無駄に芸歴だけ重ねてきた「けんじかんじ」を途中から担当。
劇中に事務所をクビになりますが、その後、実家に泣きつくこともなく沖縄で漁師になったとのこと。よほど実家の敷居が高くなってしまっているのか、下手したら勘当されているのかもしれません。
キーワードとなる台詞
台本を読んで真っ先に気づいたことがあります。「偉そうに…」という言葉を龍之介が何度も口にするのです。
>社長に
「さすがは社長…局Pも偉そうにそう言ってました」
>みなみに
「おたくも、さっきから誰にくっちゃべってるわけ?あんまり偉そうなこと言ってっと、テレビ出れなくなっちゃうよ」
>(独り言)
「どいつもこいつも偉そうに…一体何様のつもりだ!」
これだけ同じ言葉が出てくるのも珍しいです。つまりそれだけ龍之介の頭の中にはこの言葉が大きな割合を占めているということです。
自分を見下す存在、権威を持つ人間への嫌悪感。自らはプライドが高く、しかし【権威】というものに逆らえず、ただただ耐えながら上に立つ人間に取り入って生きている人間。だからこそ自分が見下せる立場の人間に対しては、その立場を明確にしていたい、という欲求が、あの態度の豹変ぶりを自分の中で正当化しているのでしょう。
そういった【権威への嫌悪】はどこから生まれたのか、と考えれば、先述した名前の由来と組み合わせれば簡単。【親】や【家柄】への反抗心。子供時代から、常に上から押さえ込まれながら育ってきた反動であるのは、すぐに理解できることでした。
ですから、自分より下だと思っていた蕎麦屋の出前や、所属芸人のみなみやかんじから諭されたり、反抗的な態度を取られた時の龍之介の怒りや苛立ちは、確かに理解できるものでした。
テレビ局プロデューサーなどを接待したりお金の力などを使って根回ししてきた担当漫才師「けんじかんじ」を解散させようとする女社長への嫌悪も相当なものだったでしょう。
こうやって生い立ちから作っていった小坂龍之介という人物を演じ終えて、彼をきちんと舞台の上に生かすことができたのかな…と。
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ちなみに物語冒頭の【M1】にも登場する龍之介。あのシーンは、僕の中では物語終盤に社長から首を言い渡された後、という設定で歌っておりました。だから星を見上げて、宇宙の摂理とか人生について語る歌を歌っているわけです。
その曲が終わり、再び動き出し街中を歩く時にはスッと時間が巻き戻されて芸能マネージャーの龍之介に戻っておりました(女の子のお尻を追っかけておりました)
※これは特に演出家からの指示はなかったので、勝手に自分の中で辻褄合わせをした演技プランでした
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今まで演じてきた他の全ての役同様に、同じ境遇、同じ時代を生けていれば僕も同じ人格に成り得たであろう、僕の中にいる1つの人格。
今回も引き出しの中に大切にしまっておこうと思います。
改めまして、ご観劇くださった全ての皆様に、関係者の皆様に、心より感謝して…また皆様方とお会いする機会がございますように。