昨夜はお通夜でした。

僕の門下生の吉富妙子さんが先月25日にお亡くなりになりました。享年83歳。



80歳を過ぎても、月に2回のペースでレッスンに通ってくださり、亡くなられる1月前の1月22日もレッスンをしていました。

とてもストイックで勉強熱心。僕も一切の妥協はせずに、真剣に声について、歌について向き合ってきました。彼女の楽譜は書き込みでびっしり埋まっていました。



山田耕筰が大好きで、資料を見つけてはコピーを持ってきてくれたり、自分でも歌うために、移調譜を手書きで綺麗に書き上げてからレッスンに挑んでいらっしゃいました。

僕からのアドバイスで「発声の勉強の為に」とイタリア歌曲にも取り組んでくださったり、一昨年の春には僕が合唱指導をする第九ミリオーネンプロジェクトに参加。「死ぬまでに歌ってみたかった」という「第九」に初挑戦しました。



純粋で綺麗な細い声でしたが、徐々に声量も出てきて、ホールで歌ってもピューンと後ろの席までよく通る声でした。昨年11月の門下生発表会では、とても素敵に歌ってくださり、打ち上げでは名指しで高評をしたのでした。



歌の他にも、油絵をされていて、銀座で個展を開かれた時に伺ったら、とても喜んでくれて、まるで少女のように可愛い表情に、こちらまで照れくさくなりました。


いろんなお教室に通ったり、「ていおん!」を始めとして、様々なコンサートや舞台にも足を運ばれていて、僕が出演するもののほとんどにお越しくださいました。そんな中でもご家庭のことも全く手を抜くことがなく、華奢な体のどこにそんなエネルギーがあるのか、と驚かされることばかりでした。



何よりも笑顔が素敵な方でした。
個人レッスンの時は、前後の生徒さんと必ずご挨拶するようにしているのですが、彼女は誰とでもすぐ仲良くお話していました。いつもふっくらとした頬っぺでニコニコ。みんな彼女のことが好きになってしまうのです。


いつの間にか生徒さん同士で親しくなっていて、レッスンの前後やその他の日にも一緒にお茶をしていたり、お出掛けをしていたり。自然と門下生同士の和が拡がりました。



僕にとっては、生徒さんでありながら、まるで友達のようでもあり、時には母のようでした。いつもさりげなくお洒落で、はにかむような笑顔が忘れられません。



今年に入ってから体の不調がある話をされていて、2月は検査と療養の為にレッスンをお休みすると連絡がありました。


その検査で胆管癌が見つかり、すでに施しようのない状態だったそうです。そのまま入院されていたそうですが、最期はご自宅に戻られて、息を引き取られたとのことでした。


あまりにも急な話で、未だに信じられません。今年の秋の発表会ではフランクの「Panis Angelicus」を歌いたい、なんて話もされていたのです。4月の「ていおん!」も楽しみにされていました。



本当に悲しいです。


どうか、安らかに。
ご冥福をお祈りいたします。


門下生発表会より(2015.11.23)
最前列、一番左に座っていらっしゃいます