こちらの三題噺は、今までと比べると少し長めのお話です。
内容も前の作品とは違って言うなれば、ちょっと寒い日のココアですかね。
こちらも宜しければお読みください。
まただ。
またあの子が来ている。
今日は雨だというのに、いつものようにその子は来た。
周りはいつもならオレンジの世界だが、今日はもう暗くなってしまっている。
それでもその大きなツインテールの女の子は、太陽のようなキラキラな目で私を見ている。
もの好きな子供もいるのだな。と思ってしまう。
私はしゃべれないし、動くこともできない。私1人では何もできないのだが、そんな私をあの子は飽きもせず、ずっと見ていてくれるのだ。
しばらくすると「○○○○、お待たせ」という男性の声がする。
いつものように父親が迎えに来たようだ。
「パパ、今行くよ」
その子はツインテールを揺らしながら声の方に向かう。
姿が見えなくなるまで、その子は私を見ていた。
商店街の一角の小さなアンティークショップ。
そこに私はいる。
いつの頃からか、ツインテールのあの子はそんな私を見に来るようになった。
夕方のこの時間、いつも私の前に来る。
父親が迎えに来るその時まで。
今日のように雨にも関わらず、あの子は変わらない。
風邪などひいてしまわないだろうか。
次の日、前日の雨が嘘のようにとても良い天気になった。
私も太陽の光を浴び、とても気分がいい。
このショップはあまり人が来ることはない。
私はショーウィンドウの中で今日ものんびりと外を眺める。
商店街の人や買い物をする婦人、ステッキ片手に優雅な散歩をする紳士。
さまざまな人が通るのを私は眺めるが、私を眺める人は誰もいない。
日が落ち、オレンジが空を染め始める。
そろそろ大きなツインテールを揺らしながら小さな足音が近づいてくる時間だ。
………
今日は来ないのだろうか。
……………
オレンジが徐々に黒に染まっていく。
………
その日は来なかった。
次の日もとても良い天気だ。
商店街もいつものように活気に満ちている。
しかしその日もあの子は来なかった。
次の日もその次の日もあの子は来なかった。
何かあったのだろうか。それともただ来ないだけなのだろうか。
あの子の大きなツインテールと太陽のような瞳が思い浮かんだ。
次の日は、あの子が最後に来た日のように雨が降っていた。
そしていつもの時間。
しかしあの子の姿はない。
もう来てはくれないのだろうか。
その時、車がアンティークショップの前に停まった。
そこからカッパを着た子供と立派なコートを着た紳士が降りてきた。
このお店にお客が来るのなど、何年ぶりなのだろうか。
いったい何を買っていくのだろう。
そう思っていると、紳士は中に入ってきて店主と話し始める。
カッパの子供は中に入れば良いのに、入ろうとせず私の前に来た。
フードを被っているので分からないが、こっちを見ているようだ。
最近の子供は変わっているのかな、と思う。
「ではこちらを」
後ろで店主の声がして、唐突に私が持ち上げられる。
え?
そのまま箱に入れられ、真っ暗になる。
誰かに手渡され、扉の音を通り、雨の音の中を通過する。
そして静かな空間で落ち着く。
おそらく車の中に入ったんだろう。
「さぁ帰ろうか」
その男性の声とともに車はゆっくりと動き始めた。
しばらく真っ暗の中で揺られながら考える。
数年ぶりのお客に買われたのが、まさかの私だったとは。
このままどこまで行くのだろうか。
しかしやはり最後に思うのは、あの子のことだ。
こうしてあそこを離れてしまった私はもう戻れない。
あの子はまた来てくれるのだろうか。
もしその時に私がいないとあの子はどうしてしまうだろう。
あの大きなツインテール。あの太陽のような瞳。
さようなら。もう1度最後に会いたかった。
車の音が止まる。
真っ暗のまま、私はまた誰かに持ち上げられ雨の中に出る。
しばらくすると家に入ったようだ。
私はどこかに置かれ、持っていた足音が離れていく。
ここが私の新しい居場所か。
真っ暗のままだが、外に出してもらってももうそこはあのショーウィンドウではない。
商店街の人もあの子ももう見れない。
小さい足音がまた近づいてくる。
あのカッパの子だろうか。
「もう開けてもいい?」
その声がした瞬間、私は何かを感じた。
箱のフタが開けられる。
すると、そこにはカッパの子がいた。
そしてフードを取ると、大きなツインテールが2つ現れた。
そこにいたのはあの子だった。
私を買ったのは、あの子だったのだ。
太陽のようにキラキラした瞳にまた会えた。
あの子はその変わらない瞳でまた私を見てくれる。
そしてショーウィンドウの時は触れられなかったあの子の手が私に触れる。
温かい。
その手がそのまま私のフタを開ける。
やっと、ついにこの瞬間が来た。
もう数年、いやそれ以上開かれなかった私のフタ。
それがあの子によって開けられた。
ありがとう。私は1番開けて欲しかったあの子に開けてもらえたのだ。
お礼に奏でよう、私の歌を。
私があの子のために、あの子のためだけに。
このオルゴールの音色を。
おしまい