概要
日本史の教科書に出てくる小石川養生所(現在の小石川植物園)や昌平坂学問所があった場所が現在の文京区です。江戸時代は水戸徳川家上屋敷庭園(現在の小石川後楽園)や五代将軍徳川綱吉の大老・柳沢吉保が下屋敷として造営した六義園(現在は国の名勝)などがあり、落ち着いた佇まいであったことが想像できます。明治11年(1878年)には郡区町村編制法により小石川区と本郷区が成立。広大な加賀前田家の屋敷跡に帝国大学(現・東京大学)設置され、それにより坪内逍遥、森鴎外、夏目漱石、樋口一葉ら文人たちが居を構えるようになりました。昭和22年(1947年)に小石川区と本郷区の合併で公布された区名・文京=文教の府のイメージを濃くしました。
文京区立小石川図書館は昭和22年に設立認可され、窪町小学校内にて閲覧開始。その後、昭和26年(1951年)に小石川植物園にほど近い現在の場所に新館が建てられ、移転しました。お茶の水女子大学、拓殖大学、筑波大学附属中学・高校などの学校が周辺にあり、利用者の増加に伴い昭和41年(1966年)に全面改築。“文教の府”にふさわしい図書館として親しまれています。
文京区では、各図書館が分野ごとに分担して専門書の収集に努めています。小石川図書館は「法律・教育・音楽書・日本文学」 を分担しています。
◆所蔵資料
一般書 | 134,657冊 |
児童書 | 35,371冊 |
CD | 19,119タイトル |
カセット | 182タイトル |
レコード | 19,713枚 |
DVD | 132タイトル |
平成26年4月1日現在
地階◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
おはなしのへやがあります。
1階◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
児童室・小説コーナー、雑誌・新聞閲覧室、地域資料コーナーなどがあります。児童室では、国内外の絵本や児童向けの本がぎっしりと並べられています。かわいい手づくりの布の絵本は、貸し出しも可能です。カウンターの横には展示コーナーがあり、毎月テーマに沿った展示を行っています。
2階◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
レコード室、視聴覚コーナー、参考図書コーナー、レファレンスカウンターなどがあります。CDはもとよりDVD、レコードや楽譜など、豊富な音楽資料が所蔵されています。ジャズやクラシック、昔懐かしい日本のフォークなど、さまざまなジャンルが揃っています。特にレコード室には、2万枚近いレコードを所蔵。館内での試聴も可能です。
3階◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
閲覧席、YAコーナー、石川啄木コーナーなどがあります。小石川は文京区ゆかりの文人・石川啄木の終焉の地です。石川啄木コーナーには啄木関係の書籍を常設。また、2階から3階へ上がる階段踊り場にも、啄木の生涯を辿った資料が展示されています。
4階◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
視聴覚ホール、会議室などがあります。図書館において独自のホールがあるのは珍しく、レトロな雰囲気の中、講演会・映画会・落語会やコンサートなどを開催しています。
ここもポイント!~ 3層式の積層書架
1階から2階にかけての3層式の積層書庫は本棚の間隔が狭く、天井も低いため、圧迫感が否めませんが、図書館好きにはたまらない場所です。元々は閉架書庫として設計されたエリアで当初は利用者は立ち入ることができない場所を開架スペースとして開放。ぎっしりと本が集積する様子は圧巻です。古き時代の図書館のイメージが残る場所でもあり、どこかノスタルジックな気持ちにさせられます。本を探すためのジャンル別の見出しが充実しているのも特徴です。
図書館からのメッセージ
小石川図書館長
江口愛子さん
文京区の図書館では、こどもの成長段階に応じた読書機会の提供や行事の開催をしております。4ケ月健診の育児学級時に保健サービスセンターにおいて赤ちゃんと保護者に読み聞かせを行う“ブックスタート”、その後のフォローアップとしての“としょかんとなかよし”を実施しています。その他に当館では、乳幼児向けの絵本の読み聞かせ、“はじめのいっぽ”を毎週水曜日に実施しており、大変にぎわっております。児童向けにもおはなし会、映画会やコンサートなどを実施して多くの方に楽しんでいただいております。
また、小石川は「啄木終焉の地」です。毎年4月には石川啄木に関する講演会を開催し没後100年あまりたった今でも愛され続けている啄木を偲んでいます。
図書館は、地域のコミュニティーの場、生涯学習の場としても重要な施設です。これからも地域に根ざした図書館をめざし成長してまいります。
EDITORIAL NOTE① 名盤で浸る至福のひととき
小石川図書館2階にある「レコード室」には、膨大な数のレコード、CDのコレクションがずらりと並んでいる。同図書館が全面改築した昭和41年から、ある図書館員と文京区の理解により、今やその数は約2万枚にもなる。館内でレコードプレーヤーを使った試聴もできるが、貸し出しも可能なので、レコードを目当てに遠方からの来館者も多いという。ラインナップは主に1960~70年代を中心としたクラシックや現代音楽。フリージャズの名盤の数々、日本の古典音楽や落語などのレア物LP、さらに廃盤となって久しいものまであり、まさに音楽の歴史を感じるアーカイブだ。単になんでもありというのではなく、実によくセレクトされたコレクションとなっている。ジョン・コルトレーン、日野皓正、ザ・ビートルズなど、かつて一世を風靡した懐かしい顔ぶれの作品が並び、彼らの名を目にすると、好きなアーティストのレコードを手にしては、時間を忘れて聴き続けていた学生時代にタイムスリップした感覚になる。音楽で至福のひとときを浸る楽しみが小石川図書館には存在するのである。(Tipsy chico)
音楽をテーマにした企画展示も行っている
EDITORIAL NOTE② マップ「啄木の足跡をたどる」を手に町めぐり
明治期の日本を代表する歌人・詩人・思想家である石川啄木。岩手県出身の彼の東京での拠点が文京区であった。小石川図書館では館内に啄木の偉業を紹介するコーナーを設置。また、彼の居住地をまとめたマップ「啄木の足跡をたどる」を配布している。
本好きな人なら石川啄木の名前を知らない人はいないだろう。「東海の小島の磯の白砂に われ泣きぬれて 蟹とたはむる」「はたらけど はたらけど猶わが生活楽にならざり ぢっと手を見る」などと聞くと、意味はわからなくても、この人は真面目に生きた善人なんだと思ってしまう。ところがよくよく調べてみると啄木は怠け者で、無責任で、女癖が悪くて…とんでもない碌でなしであったことが判明する。仕事は長続きせず、収入は借金に頼ってばかり。彼の親友である金田一京助は家財を売って啄木の生活費を用立てたようだが、息子の春彦は幼心に「石川啄木は石川五右衛門の子孫かと思った」というエピソードもあるそうだ。
結核に冒された啄木は明治44年(1911年)4月13日に妻・節子に看取られて小石川町久堅町の借家で永眠。26歳であったため「夭折の天才詩人」などと称賛もされるが、後世に名前を残せたのは、実は困窮の生活を余儀なくされていた節子の“裏切り”にも一因がある。啄木の死後、節子に残されたものは、わずかばかりの家財道具と啄木の日記、遺稿であった。啄木の遺言に従えば日記は焼却されるはずであった。しかし、節子は日記を焼くことはなく、遺稿の散逸も防いだ。それが後に啄木の作品を補い、その価値を高めることになる。
石川啄木の作品の素晴らしさは小石川図書館でたっぷりと知ることができる。図書館で配布しているマップを手に町めぐりをして、天才・石川啄木の人物像に思いを馳せると、それまでとは異なる文学観が芽生えるだろう。(上原由迩)
小石川図書館で配布している「啄木の足跡をたどる」
文京区立小石川図書館
利用案内
休館日:第3月曜日、12月30日~1月4日、特別整理期間
※第3月曜日が祝日の場合は開館し、翌日休館
開館時間:月~土曜9:00~21:00 日曜・祝日・12月29日9:00~19:00
アクセス
住所:東京都文京区小石川5-9-20
電話番号:03-3814-6745
ホームページ:https://www.lib.city.bunkyo.tokyo.jp/lib03-koishi.html
取材協力_文京区立小石川図書館 取材_湘南文学舎