概要
平成19年(2007年)5月7日に、国の九段第3合同庁舎と合築でオープンした千代田区役所新庁舎。地上23階・地下3階のビルの9・10階に千代田図書館はあります。図書館単体の建物ではありませんが、皇居に隣接する北の丸公園が一望できる環境は本に親しむには抜群のロケーションといえるでしょう。
千代田図書館は指定管理制度を東京都の中央図書館で初めて導入した図書館として知られています。指定管理制度とは、それまで地方公共団体や外郭団体に限定していた公共施設の管理・運営を株式会社や民間法人・NPO法人が行う制度です。千代田図書館は指定管理者3社(株式会社ヴィアックス、サントリーパブリシティサービス株式会社、株式会社シェアード・ビジョン)により運営され、各企業の専門分野を生かした業務分担を行っています。基幹となる「図書館サービス」機能に加え、展示やイベントの企画運営などを行う「企画」機能、利用者やマスコミへの情報発信を行う「広報」機能を担っています。ユニークなサービスは未来の日本の図書館像を浮き彫りにする試みとして注目されています。
蔵書数 | 約17万冊(開架:約12万冊、児童書:約8千冊) |
閲覧席数 | 約240席(電源・ネットワーク設備のある席:82席) |
コンセプトは、地域に根ざした図書館運営
千代田区は区民が約5万人と23区で最も少ないが、昼間は約82万人のビジネスパーソンが集中する特異なエリアです。また、出版産業を地域産業に持つなど、ほかの地域とは異なった特徴があります。千代田図書館は五つのコンセプトで地域に根ざした図書館運営を展開。“千代田区の玄関口”となる図書館をめざしています。
①千代田ゲートウェイ
・コンシェルジュや展示などを通して千代田区の地域情報を発信。
・千代田区の地域産業である“出版”に関する情報を発信。
・本の街・神保町と連携して書籍の入手をサポート。
②ビジネスを発想するセカンドオフィス
・ビジネスの発想を育てる資料を整備。
・セミナーや講演会によるビジネス支援。
・情報収集ができる環境を夜10時まで確保。
③区民の書斎
・上質な読書空間を皇居前の地に形成。
・中高生が学び考える力が育つ資料を整備。
④クリエイトする書庫
・千代田図書館の貴重な資料による研究の場を提供。
・千代田区の地域資料を歴史的資料と捉え充実を図る。
⑤ファミリーフィールド
・保護者として必要な知識を提供できる場を設置。
・0歳から中学生までの読書を支援。
・託児サービス等による保護者のリカレント学習環境を整備。
(左)千代田区役所 (右)フロア図
9階◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
・調査研究ゾーン[セカンドオフィス]
ビジネス図書・新聞・雑誌・辞典・年鑑・白書などの基本資料を中心に、ビジネスに役立つ資料を揃えたゾーン。電源やネットワーク設備のあるデスク席や、インターネットでの調べものができる専用のパソコンも設置。無線LANも完備しています。年に数回、このスペースでイベントやセミナーが行われます。
・一般開架ゾーン[区民の書斎]
北の丸公園側に面しており、リラックスして読書・学習ができる空間です。新聞・雑誌・新着図書コーナーがあります。
・レファレンスサービスカウンター
図書館を有効に活用するために、専門のスタッフが資料探しをサポートします。
・情報探索コーナー
調査・研究の情報収集のために、インターネットやオンラインデータベースを専用のパソコンが利用できます(申込制)。
・コンシェルジュブース
図書館の総合案内をはじめ、千代田区の地域案内を実施。また、図書館内を案内するガイドツアーも随時受け付けています。
・インターネット利用席/AVブース席
DVDなどの視聴覚資料が館内で利用できます。4名まで一緒に映像を楽しめる大画面テレビを備えたブースもあります。
・研修室
会議や研修など幅広いニーズに対応できます(事前申込制・有料)。
・展示ウォール
千代田図書館の特徴あるコレクションや千代田区に関連するテーマで企画展示を開催します。
10階◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
・子ども室/児童書コーナー
児童書や紙芝居などを揃えています。子ども室には授乳やおむつ替えができる部屋があり、ゆっくりと過ごせます。
※保護者が図書館を利用する際、子どもを一時預かる託児サービス(事前申込・有料)を定期的に行っています。
・光壁
「光壁」とは和紙をガラスなどと組み合わせた壁建材やタペストリーにする手法で、和紙アートディレクターの堀木エリ子氏と区内の小学生たちが共同製作したものです。光を当てると淡く光ります。
ここもポイント!~出版にまつわる本棚
千代田図書館9階の赤い棚ゾーンに「出版にまつわる本棚」があります。出版産業が千代田区の地域産業のひとつであることから、“出版”の一連の事柄がわかる資料を集めています。出版の歴史や検閲・言論統制などについての著書280冊をはじめ、配架冊数は約1,120冊。出版関連の企業の社史が約180冊あり、その一部をホームページの「出版にまつわる本棚」のページで紹介しています。社史の内容や目次、企業の歴史などを詳しく開設し、その企業の関連文献やリンク先なども記載。「東京堂百二十年の歩み」(2010年発行)は日本の出版業界全般の動向を伝えるとともに、巻末の「出版物刊行一覧」では明治から平成にかけての書籍の判型の流行、価格の変遷などがわかる資料としても活用できます。
「出版にまつわる本棚」には出版社のPR誌を集めたユニークなコーナーも
ここもポイント!~貴重な資料
千代田図書館には出版界の歴史研究に適したふたつのコレクションがあります。
古書販売目録コレクション
古書販売目録とは古書を販売するためのカタログで、古書の流通事情・状態、値段などを知るための資料です。「古書販売目録コレクション」の中核は、古書販売業「弘文荘」の店主・反町茂雄氏の旧蔵資料です。反町氏は質の高い古書販売目録の作成や貴重な古典籍の発掘など数々の業績を残し、古書も目録販売の発展に大きな影響を与えた人物で、反町氏が約60年にわたって収集した資料を、反町氏の死後に長男の雄一氏が寄贈。古書販売目録は元来、一時的な商品販売カタログであるため、長期間保存されることは希有であったため、図書館の所蔵コレクションとしては全国的にも珍しいタイプです。約9,350点の資料がデータベース化されており、図書館のホームページから検索できます。
内務省委託本&出版検閲コレクション
千代田図書館は「内務省委託本」と呼ばれる図書約2,300冊を所蔵しています。戦前期の日本で内務省が行っていた出版物の検閲業務に用いられた本の一部で、昭和12年(1937年)頃から、千代田図書館の前身である駿河台図書館を含む東京市立図書館4に委託されていました。それらの図書には、内務省の係官が内容をチェックするために引いた赤線や青線、出版の可否についてのコメントが記され、当時どのような検閲が行われていたかを知ることのできる貴重な資料です。
図書館からのメッセージ
千代田区立千代田図書館 広報チーフ
坂巻睦さん
平成19年(2007年)5月7日の指定管理者制度でのリニューアルオープンに際しては、運営コンセプトを設け、それに沿って新しい事業に取り組んできました。中でも「地域に根ざした図書館」ということに着目しているため、ビジネスパーソンが利用しやすいサービスや、地域産業である出版産業の活性化に繋げる事業などが目立っているかと思います。また、当館はあまり広くないため所蔵できる本に限りがあるのですが、少しでも利用者が必要とする本をご提供できるよう、徒歩圏内にある「本のまち神保町」も図書館と考え、神保町付近での本探しのサポートも行っています。それを担っているのが図書館コンシェルジュです。コンシェルジュは、来館者への総合案内に加え、神保町の古書店をはじめ、区内の施設や飲食店などもご案内します。事業は館内に留まらず、館外でも様々な活動を行っています。小学校などへの司書派遣のほか、企業の会議室や廊下などでビジネス書をポップ付きで展示する“出張展示”、社員の読書推進や人材育成などを目的としてご活用いただいています。今後も出版社や書店など地域との連携を図りながら、皆さまが活用しやすい図書館作りを目指していきたいと思います。
EDITORIAL NOTE① アッパレ!江戸古地図の絨毯
「あなたのセカンドオフィスに。もうひとつの書斎に。」がコンセプトの千代田図書館。平日夜10時まで利用できるのはビジネスマンの多い千代田区の図書館らしさをうかがわせる。
平成19年(2007年)5月7日にオープンした千代田区役所ビルの9・10階にあり、窓からは皇居が一望できる抜群のロケーション。館内も書架の高さが低く設定されていて、威圧感がなく、明るい空間で気持ちよく読書が楽しめる。
千代田区界隈は出版関連の会社が多い。当然、文学との縁も深いため図書館には「千代田ゆかりの文学者」コーナーを設け、そこには有島武郎、泉鏡花、菊池寛など明治以降の作家・文学者の書籍が並んでいる。学生時代に読んだ本の数々を目にすると、学生時代に回帰したような気持ちにさせられる。
特に印象的なのはコンシェルジュカウンターの前に敷かれた江戸時代の古地図を写した絨毯だ。それはリニューアルオープンの際の宣伝媒体などにも利用した、千代区立図書館所蔵の古地図を5メートル四方に拡大印刷したもの。「千代田」の名称は皇居=江戸城の別名「千代田城」からとったもので、図書館に入って千代田城を中心とした古地図が出迎えられるのは、どこかアッパレな気分にさせられる。古地図には現在も残る当時の地名や史跡名が記されている。現在の風景を思い描きながら、その地名を探すのも一興だ。
コンシェルジュは館内だけではなく地域案内もしてくれる。千代田区の情報をまとめたファイルや配布物も置かれているので、千代田区散策のベースにもなりうる。地域の文化を発信する施設として、千代田図書館は独自路線を歩んでいる。(Tipsy chico)
EDITORIAL NOTE② 千代田図書館の書架は街全体に
千代田図書館は明治20年(1887年)に大日本教育会附属図書館として神田区一ツ橋通町の旧体操伝習所寄宿舎内に開館したのだそうだ。明治1881年(明治14年)に開校した筆者の出身校が神田区駿河台に移転したのは明治21年であった。同じような時期、同じような場所にあった図書館と大学の関係はきっと密接なものではなかったかと想像してしまう。大日本教育会附属図書館は東京市立神田簡易図書館、一橋図書館、駿河台図書館と改称して、昭和30年(1955年)に千代田図書館として開館。平成19年(2007年)に区役所移転に伴い、現在の場所にリニューアルオープンした。名称も場所も変わったが、出版社や書店の多い神田エリア、大学が集中する駿河台エリアにおいて、知的文化・教養を育成する重要な施設であったと思う。
昭和の末期に駿河台周辺で学生時代を過ごした筆者だが、残念ながら千代田図書館に通った記憶はない。資料文献探しはもっぱら大学の図書館、そこで見つからないものを探すために神保町の古書店めぐりをした。大学を卒業してからは神保町に足を向けることはなくなったが、今も神保町には160軒を超える古書店があるという。そして千代田図書館ではコンシェルジュサービスのひとつとして古書探しの手伝いをしてくれるのだ。千代田図書館の蔵書は館内にあるものだけではない。書架は街全体に。千代田図書館は「図書館」の概念を根底から覆すアカデミズムの拠点だ。(上原由迩)
千代田区立千代田図書館
利用案内
休館日:第4日曜日、1月1日~3日、特別整理期間
開館時間:月~金曜10:00~22:00 土曜10:00~19:00 日曜・祝日・12月29日~31日10:00~17:00
アクセス
住所:東京都千代田区九段南1-2-1 千代田区役所9-10F
電話番号:03-5211-4289・4290
ホームページ:http://www.library.chiyoda.tokyo.jp
取材協力_千代田区立千代田図書館 取材_湘南文学舎