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「あの・・・」

恐る恐る声をかける敬子にその少年はまるでそこに敬子が居ないがのごとくまったく動じることなく本を読み続けていた。

「あの・・・」

さらにもう一度、敬子はその少年に声をかえてみるがその無反応な様子に敬子も少しムッとした様子でもう一言声をかけた。

「こんにちは・・・」

その大きな声に突然起こされた子供の様な表情で瞼を見開き少しムッとした表情でその男の子は敬子の方に顔を向けた。

下から見上げたその少年は何処か南国の国から来た様な浅黒い顔に大きな二重瞼で敬子に答えた。

「何?」

そう言った様に感じたその言葉は日本語ではなく、何とも言えない意味不明なトーンの言語が敬子の耳に飛び込んで来た。敬子にはさっき読んだ本の様に彼が言っている意味だけは薄っすらと感じ取る事が出来た。

「始めまして、私は渡辺敬子と言います。あなたは?」

突然その場で自己紹介されたその少年は敬子の顔を見て答えた。

「何突然、自己紹介してるんだよ」

その乱暴な言葉遣いに敬子は驚いたが直ぐに自分の方が年上である事の自覚を取り戻しその少年に言い返した。

「初めて会った者どうし挨拶で自分の名前を言うのは当たり前じゃないの?」

その言葉を聞いてその男の子は捻くれたように答えた。

「今ここで自己紹介をしたって直ぐに現世でまた違う名前になってしまうのに何で今ここで名前なんか言い合わなければいけないの?」

そう言う彼の意見はもっともだと感じた敬子だったがこの場で目の前の少年の事をあんたとは言いづらい・・

「でも、こうしてここで話しているのに、あなたの名前が解らないと話しづらいじゃない」

その言葉を聞いて少年は嫌そうに自分の名前を答えた。

クーモ
「俺は、クーモ」

「へえ・・変わった名前ね・・」敬子がそう言うと

クーモは憎まれ顔でこう答えた。

「そう言うあんただってワナラヴェなんて変じゃないか・・そんな名前この世で始めて聞いたよ」

「この世でって・・、この世じゃあなたと私しか居ないじゃないの・・」

そう言った自分の言葉に敬子は何ともおかしくなって半分笑った表情でクーモに話しかけた。

「ワナレヴェじゃなくワタナベでしょ・・まあ良いわ、私は敬子」

「ケイコ・・」

「そう、わたなべけいこ。ケイコって呼んで」

そう言うとクーモの表情は先程とはうって変わり敬子に対するその視線は優しい子供の表情に変わっていった。

「ねえクーモ・・あなたは何時からここに居るの?」

「何時って言われてもだいぶ前だよ」

「だいぶって?」

そう敬子が訊くと

「だってここじゃー時計もないし何時も明るいから今が昼なのか夜なのかまったく解からくていったいどの位の時間が過ぎたのかなんて考えたこともないよ、それに俺たちはもう死んでいるんだから時間なんて関係ないじゃん。」

そう言うクーモの返答に敬子はもっともだと思うほかなかった。

「そうね、それではあなた今まで何冊くらいここの本を読んだの?」

「そうだな~」

腕組みをし、傾げた顔で天井を見ているクーモが恥ずかしそうな表情で答えた。

「この本棚五百個分くらいかな?」

「五百個・・・・」

その数に敬子は呆然として言葉が出なかった。

(この子はいったい何時からここに来てるのか、この本棚一つ読み終えるのに普通でも一年はかかるんじゃないかと思える・・私なんかさっき読んだ本一冊読むのに最低でも5時間はかけたと思う。そうするとこの子は単純計算しても五百年前後前からここに居たって事?そんなバカなこと・・)

しかしこの事を否定出来ない所に今、自分が居ることに今更ながら再認識させられた自分を感じた。


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どの位の時間が経っただろうか。その本を敬子が読み終わるまで四時間?十時間?まったく時間の感覚のないこの場所での時の感覚は無意味としていた。

「んんん・・・終わった・・」

大きな伸びを一つして敬子はその場で仰向けになって天井を見上げた。

「疲れた・・」

言ってはみたものの疲労も空腹もそして睡魔さえ襲ってこない。このまま何時間でも集中して何冊でさえ本を読めてしまえそうな感覚さえあった。

敬子はその場で今読んだ一冊について考えだ。

イタリアで代々続くブドウ畑の大地主の長男テリーの話であった。

何不自由なく育った彼は二十歳頃になると多くの友達こそいたがその我がままぶりから町中の大人の嫌われ者となっていた。しかし、幼馴染のモニカだけはそんなテリーに真っ直ぐに向かっていった。

三十歳を前に多くの恋をしたり一度は会社勤め等を経験したりして最後には一番の理解者であるモニカと結婚し実家のブドウ畑で良質のワインを世界中に出荷し、事業はとても成功したが、晩年のテリーはモニカに先立たれ生きる希望をなくし事業も不振気味となり寝たきりの生活が続き終焉を迎えました。

 

(もしこの本を私が選択したら私は神様から何を託されるのだろうか?・・・)

その高い、高い天井を見つめ敬子は目を閉じてこの本の内容を回想し続けた。

「ふう・・まったく解らない・・」

お腹の中に溜まった淀んだ空気を(いっき)に吐き出し、敬子は両目を見開きスクッと立ち上がった。

「このままではらちが明かないな・・」

(入り口に一番近いこの場所からいったいどの位の本がこの場所には有るのかまず探ってみよう・・)

何列も並んだ棚の奥に敬子は目を送ると果てしなく続く棚に何とも言えぬ不安を始めて抱)いた

「まあ、取り敢えず歩いてみよう・・」

本を棚に戻しこの図書館の一番奥を目指し一歩一歩、本棚の間を歩いてみる。

(こんな大きな棚によくこれだけの本をきれいに並べてあるな・・いったい誰が並べたんだろう、凄いな・・)

敬子がそう思い見上げる首が少し疲れてきた頃だろうか目線を先に合わせた時、遥か遥か先の棚の下のほうで何かが動いたように感じられた。

「何だろう・・」

敬子はその遥か先の本棚に向かって足早に歩いていた。少しずつほんの少しずつその小さな物が何なのか見えてきた。

「人だ・・」

「私以外の人間がここには居るんだ」

見つめるその先に安心とまた不安が急に敬子に襲ってきた。

その人間との距離が近づいてくると敬子の不安は取り除かれていった。その者の様子がハッキリと見えてきたからだ、本棚の下に座って黙々と本を読んでいるその男性は十四・五歳位だろうか大人に成り切っていないその未成熟な体とあどけなさが残るその顔で一心不乱に本を読んでいた。

敬子がその少年の前に着くと1メートル程の距離を取り声をかけてみた。