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大筋のところ、敬子の説明でクーモにも今まで解らなかった単語の意味は概ね理解出来た。しかしその形、色と言ったリアル感だけは今一つイメージがついていないようであった。

敬子がクーモに向かって質問をした。

「ねえクーモ、あなたさっき”次の世界では凄い金持ちになりたい“って言っていたわね、あれだけの本を読んでいれば多くのお金持ちの話にも出会ったでしょう、どうしてその中の一人に決めなかったの?」

その言葉にクーモは突然押し黙ってしまった。

「ん?どうしたの?」

敬子が考え込んだクーモに優しく問うとクーモは照れくさそうに敬子に向かって話し始めた。

「実はね、お金持ちの話は幾つか見つけたんだよ、例えばアラブの石油王だったりネット・トレーディングで大儲けをした人生だったり世界進出をして大成功をした百貨店王やらカジノで当てた人間やら事の詰り大儲けした人間の話は山ほどあったよ!だけどね、さっきのケイコからの説明でどうしてその人の人生がお金持ちになったのか解ったように思うけど俺には未だにネット・トレーディングと言った意味等、解らない言葉が多くてどの本にして良いか解らなかったんだ」

その話しを聞いて敬子は目を閉じ大きくいなずいた。

(そう、それはそうだわ、この子が本で得た言葉には一切、説明がないのだから迷ってとうぜんね・・)

「それじゃあどうかしらクーモがお金持ちになって本当に幸せになれる人生を私が選ぶって言うのは・・」

少し悩んだ表情でクーモは敬子を見つめて答えた。

「本当に、俺に合った本をケイコが選べるのかい?」

「失礼ね、あなたより私の方がまだ、世の中の知識を多く知ってるんだから安心なさい」

そう敬子がクーモに話すとクーモは心底安心したかのような笑顔を敬子に投げかけ

「解ったよ」

とだけ答えた。

(でもこれだけ数多くある本の中からクーモに合った素晴らしい人生を選ぶなんて、どうしたら良いのだろう)

敬子は自分で言ってしまったとは言え余りにも無責任な言動だったのじゃないかと今更ながら後悔をし始めていた。

しかし敬子も悩んでいてもクーモの本は見つからないと考え、意を決っしてクーモに向かって声をかけた。

「それじゃあクーモ始めますか!」

気持ちを奮い立たせるようにクーモに向かって声を出し大きな本棚に目線を上げた。

そんな敬子の気持ちを察してかクーモが敬子に声をかけた。

「ケイコ、俺も意味は解らないながらに大体は目星を付けた本は何冊かわあるんだ・・当たり前だろ」

自慢げなその表情に少しホッとする敬子だった。

「えっ、そうなの!それは良かった。その本はいったいこの棚の何処にあるの?」

敬子がクーモに言うと、クーモが馬鹿にしたような笑いを浮かべて敬子に向かって答えた。

「これだけの棚にある本を一冊、一冊覚えていてこの本だよ、なんて言える訳ないじゃないか、それに大体選んだとしたってそれは結構な数あるんだからどの棚のどの本なんて覚えてないよ!」

「何よ!さっき目星は付けてあるっていったじゃない」

敬子がむきになってクーモに言い返しすと

「目星はつけてあるよ!だけど棚にあるなんて一言も言ってないじゃないか」

その言葉に敬子が不思議そうな顔をしているとクーモは今いる場所よりまだ遥か先の棚の方に向かって指を指した。

「向こうに何かあるの?」

「向こうの棚の横にこれならばと言った本を何冊か積み上げているんだよ」

(良かった。一から本を探さずにすんで・・探すとなったらいったいどの位の時間がかかった事やら考えただけでもゾッとしそう)

ホッとした敬子はその棚の先を見つめた。

「それなら今からそこにいってみましょう」

「いいよ、ついておいで」

そう言うとクーモは敬子より前に出て先を歩いた。その足取りは力強く一歩一歩その奥の棚を目指すクーモの背中には何やら自信がみなぎっているかの様にさえ敬子には思えた。二人はそれから棚を一つ、そしてまた一つと歩き続けた。

無言でただ先を目指すクーモの後ろで敬子は右、左と棚と棚の間を通る度に(この棚は横にもいったい何列あるんだろう)と今更ながらにその莫大が本の数に驚くばかりであった。


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「あのね、最初の本を読んでいた頃は小さな本や大きな本、薄い本や厚い本など色々な国の色んな人の人生の本を読んでいたんだ。だけど何度も読んでいてやっぱり厚くて大きな本の人の人生は内容も面白いし大きな成功をしている人が多いんだって事が解ったんだ、それからは厚い本を何冊も何冊も読み続けたんだよ。そうしたらある日意味の解らない言葉が出て来て・・」

「意味の解らない言葉?」

「だってこの場にある色々な国の言葉は私だって読めるしクーモだってあんなにも多くの本を読んできたんだから今さら解らない言葉なんて出てこないでしょ!」

まくし立てるかの様な敬子の言葉にクーモは眉間に皺を作って考えた様子で敬子の顔を見つめた。

「違うんだよ、読めないんじゃないんだ意味が解らないんだよ」

「意味?」

「そう意味」

クーモが訴えているその「意味」と言う言葉がどうしても敬子には理解出来なかった。そこで敬子はクーモに質問をした。

「じゃあクーモが解らなかった言葉を教えて・・」そうクーモに言うと

「んん・・例えば・・」

少し考えた表情でクーモは話し始めた。

「だいぶ前に読んだ本では戦争のとき大砲とかロケットとかを使って戦争をするとか書いてあったんだけど大砲ってどんな形の武器なのかも解らないしロケットなんか想像も出来ないよ・・」

このクーモが何年も意味不明として疑問としていた単語はこの後、延々と壊れた蛇口のように続いた。

敬子は最初、このクーモが言っている「意味が解らない」と言う事自体が理解出来なかったが次第にクーモが言っている事って・・と思い始めた。それは生前クーモが生活していた環境下にはこの様な言葉自体が無かったんじゃないかと言うことだった。

(クーモが一人の人生を熟読して、それを棚、五百個分と言った莫大な数を読んだ時間と言ったら私には想像も出来ない!だからいちいちその意味を考えていたのでは話が進まないからクーモにとってはそれが意味不明な言葉であっても先に進んでしまってたんだ。

だからクーモは先程「意味が解らない」といったのか・・)

クーモの解らない言葉の意味を一つ一つ説明するには時間かかるので敬子は大体の意味合いでクーモに説明をした。

「大砲とは、相手に大きな硬い玉を火薬と言った物で飛ばしてぶつける武器、ロケットとはその火薬で空高く人間も飛ばせる武器になったり乗り物になったりする物よ」

ロケット

敬子はクーモに余り理解しにくい単語はなるべくはぐらかす様な言い方で説明をした。その説明を真剣に聞くクーモの瞳は多くの知らない事を吸収したいといった純粋で嘘のない瞳で敬子の話を真剣に聞き入っていた、そんなクーモが突然話しかけてきた。

「じゃあ、セックスってなに?」

唖然とした敬子は表情を強張らせて

「こっ、子供はそんな言葉を知らなくていいの!」

驚いた表情で敬子はクーモに言った。

「だって、十五歳前後の話になると決まってこの言葉が結構出てくるんだぜ・・」

まさかクーモからそのような言葉が出て来るとは、悪気の無い表情で出された言葉に敬子の頬はこの白い世界にまるで朝焼けの様に真っ赤に染まっていた。


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「ふーん・・まあまあね」敬子が答えた。

はにかんだ表情でクーモが敬子に質問を返した。

「それじゃー敬子はどの位ここの本を読んだの?」

自慢する様に敬子は答えた。

「本棚一万個かな?」

敬子もさすがに言い過ぎたかなと思ったがその言葉にクーモは突然落ち込み、ため息を付いた。

「一万個か、まだ先が長いな。でも本棚一万個分を読んでまだ自分の一冊に出会わないの?」

(この子は本気で私が棚一万個分読んだと思っている。早く冗談である事を打ち明けないと何とも気まずい雰囲気になりそうだ・・)

敬子がそう思うや

「嘘、嘘、今の全て嘘、この棚一万個なんて読めるはずないじゃない・・」

そう言うとクーモはホッとした表情の後にムッとした顔で敬子に質問をした。

「それじゃ本当はどの位読んだのさ・・」

「えっ・・・」気恥ずかしそうに敬子は答えた。

「一冊・・」

絶句した表情でクーモは聞き返した。

「一冊?嘘でしょ・・」

その驚きに敬子は苦笑いをクーモに投げかけた。

「本当?」

その驚いたクーモの表情はまるで子供のようだった。

敬子は照れくさそうにクーモを見つめた。

「そうよ!何か?」

その返事を聞くとクーモはもう笑いの壷にはまったかにように大笑いを始めた。その笑い方はもう尋常ではない程でその笑い顔を見ている敬子までがつられる様にクーモと一緒に笑い始めた。

幾ばくかの時間が経ちクーモの笑い声も響かなくなりすっかり落ち着きを取り戻した時、敬子はクーモに質問をした。

「ねえ、どうしてクーモは何時までもここで本を読んでいるの?この棚五百個も読めば次の世界でのこの「一冊の人生」と言ったものはもう見つかっているんじゃないの?」

そう言うとクーモの顔は少し曇りがになり敬子を見つめた。

「んんっ、俺は次の世界ではスッゴイ金持ちになりたいんだ。俺の居た村はそれは小さな島で島での収穫なんてないんだ、獲れる物と言えば島の回りにいる魚だけさ。ただ年に一回、とてつもなく大きな魚が村近くの浅瀬までやってきてそれを槍で突くんだ。

「槍?」

敬子はこの大きな魚を槍で突くといった魚の大きさが鯉くらいのものと考えていた。

「大きな魚ってどのくらいなの?」

敬子がクーモに質問をすると

クーモは頭を少しだけ傾けて考え答えた。

「ケイコくらいの大きさかな・・」

「私くらい?」敬子は驚いた様子でクーモを見つめた。

(私くらいの魚の大きさと言うとサメかな?それとも鯨かな?でも鯨では小さ過ぎるし、後はマグロか何かだわ・・)

「ねえ、魚の特徴は無いの?」

「特徴はあるさ」

あの頃を思い出したかのようにクーモの顔には生気が満ち、男らしささえ感じられた。

「口の先には槍が着いていて背びれは七色に輝くんだ」

「解った!カジキマグロだわ」

カジキマグロ

胸の痞え(つかえ)が落ちたかのように敬子が大きな声でクーモに叫んだ。

「カジキマグロ?うちらのじい達は一角と呼んでいたよ」

(そうか、クーモが生きていた頃にはカジキマグロなんて名称はまだなかったんだ、だから特徴のある口の部分をみて一角、角に見立ててそう呼んでいたんだ。)

「俺達のじいは、その一角漁を町に持って行き僅かな金と交換して薬や肉を買って村に帰るんだ。一角をいっぱい取った時はそれは嬉しくって村はお祭りをするんだよ。だから俺は一角を取らなくてもお金がいっぱいある新しい暮らしをしたいんだ。」

そうクーモが話すその表情は何とも複雑そうな表情に見えた。

「ねえクーモ、これだけの量の本を読んでいてなぜクーモが描くお金持ちの人間の本を見つけられないの?」

敬子は不思議だった。そしてそのクーモの複雑な表情の意味が理解出来ないでいた。

「それは・・」

何とも歯切れの悪い返答がクーモから戻ってきた。

「んん?」覗き込む様に敬子はクーモの顔を見つめた。

クーモはその場で恥ずかしそうに、そして意味も無いように手をブラブラさせたり足の裏を地面に擦り付けたり何とも答えようの無いような素振りを続けた。

「ねえ、クーモ。何か恥ずかしい事があるの?ここでは恥ずかしい事なんて無いんじゃないかな?だって私もクーモも始めて来たこの場所で何か解らない物に出会ってもお互いに答えようがないんだから」

その優しい表情がクーモを安心させたかの様に落ち着いた表情でクーモが頭を上げた。