ブログランキング ←読む前にクリック協力して貰えると嬉しいです。
__________________________________________________________________________________________________

アンも久しぶりのナンシーの声が聞けた事と再会の約束が出来た事で先程までの重苦しい雰囲気を一気に払拭した様子でその顔は笑顔で溢れていた。

ナンシーとの再会の日、ミッドタウンにあるメイシーズ近くにある小さなカフェでアンは待た。アンの顔には未だに出演のオファーに対して返事が出来ないでいる苛立ちや焦りが出ていた。先程までジョンの事務所でケイト達と例の映画の出演について討論を交わしていたが結局の所また結論は出なかった。

ぼんやりと信号付近の人ごみに目線をむけるとどの人間も皆、先を見て歩いている、そんな人々をみていると自分はここの所ずっと立ち止まっているだけの様に感じそれがとても空しく思えてきた。

夏を前に街には心地よい風が吹き込んでいた。

その風が悪戯でもするかのように信号待ちをしている一人の女性の髪に絡みついた。女性は長い髪をかき上げ、その姿にアンの瞳は釘付けであった。

その女性が持っている大きな皮製のボックスタイプの化粧バッグと、さっそうと背筋を伸ばし信号を待っているその姿、高く形の良いハイヒールがアンにはいっそう強い印象を与えた。三十過ぎの女、金髪、品の良いスーツに長い爪、一つ一つがとてもファッショナブルに思えた。


cafe

その女性がふとアンのいるカフェに目をやると何かに気がついたかのような表情に変わった、アンは周りの席に注意を寄せるが他の席にはカップルや一人でくつろいでいる様子の者しかいない。

アンがその女性をもう一度見直すとその女は笑顔で小さく手のひらだけを振りアンの方に向かって歩いて来た。カフェのドアを明け一目散にアンのもとに来たのはナンシーだった。

「アン、久しぶり・・」

あっけに取られたアンは自分が思い描いていた当時のナンシーのイメージとはかけ離れていた。

「ナンシーよね・・」

「アンたら全然私だって事、気がつかなかったでしょ!周りをキョロキョロして窓の外から見ていたらあなた可笑しかったわよ」

そう言われるとアンは何だか急に可笑しくなってきた。

「だって、ナンシーたら全然昔の面影がないのだもん」

「そうかしら、でもそうかもね。私、だいぶ変わったでしょ」

「凄いよ!どうしたの?」

「あなたと別れてから私、仕事の方向性を若干変えてみたの、あの頃は映画のスタジオメイクに拘っていて雑誌やテレビの仕事は絶対にやらないって決めていたんだけど、このままではいけないって思い色々な仕事にチャレンジしたのよ!だけど、そのきっかけをくれたのはあなたよ、アン。」

「私?」

「そう、あなた。洋子が亡くなった時、あの頃のあなたは小さな心に背負い切れない悲しみを抱えながらあの仕事をこなしていたわよね。その姿を見て私はこんな小さなアンが頑張っているのに私が頑張れる事をもっと前向きにやっていかなきゃいけないって感じたの、だからあなたと別れたあの後、映画だけじゃなくショーメイクの仕事や雑誌向けのメイクや色々なジャンルのメイクにチャレンジしたわ、今では、この世界では少しは有名になったのよ、あなたほどじゃないけどね」

そう言うとナンシーは笑いながら店員に向かって濃いエスプレッソを一杯注文した。

アンはそんなナンシーの言葉が嬉しかった、何よりも新人女優として世間にも認められ始めた自分にも自信はあったが大好きだったナンシーが自分以上に素敵な女性に変身していた事がアンにはたまらなく嬉しかった。


ブログランキング ←読む前にクリック協力して貰えると嬉しいです。
__________________________________________________________________________________________________

アンが二十歳を迎える頃には幼さが残るその顔もすっかり大人の女性といった風格と美しさが漂いここまで出演した映画の本数も増え若手映画女優では一目を置かれる存在になっていた。

週刊誌は常にゴシップ記事を取ろうとアンの周りに付きまといそんな生活にも慣れた頃、アンに一本の映画の依頼が舞い込んできた。

今までに無い大型制作費とキャスト、製作予定期間も優に一年以上を費やすといったものだった。

アンとそのエージェントスタッフはその映画にアンを参加させるかどうかについて大いに悩んだ。

「今ここでこの映画の為に一年間メディアに出ないと言う事は次から次へと出て来る新人女優に差をつめられてしまう事になってしまうんじゃないか?」

アンがニューヨークに来てから紹介された敏腕エージェントのジョン・ホフマンが神妙な顔でアンに話しかけた。

「そうね、でもこの作品で新人女優と言ったレッテルから一流女優の仲間入りが出来るかもしれない・・」

そう発言したアンすらもこの作品には慎重になっていた。

今までなら製作期間も限られていた事から映画だけではなく雑誌の取材やテレビ出演も可能であったが今回の作品はCG処理がされない為、大方の撮影が現場で行われる事が予想出来たからだ。

「でも、もしこの作品がまったく当たらなかったら?アンの役は決して主人公でもなければ、ヒロインでもないのよ」

そう言い出したのはアンを専属でマネージメントしているケイト・フィッシャーであった。

その場の雰囲気は重苦しくなりジョンもケイトもそしてその周りにいるスタッフの誰もが口を開かずにいた。

結局、このミーティングでは結論が出ずこの話し合いは改めて行われる事となった。

アンがジョンのオフィスを出ようと席を立った時バッグの携帯電話のコールがアンの耳に飛び込んできた。

携帯を手にして飛び込んできた声は微かに聞き覚えのある声だった。

「アン?私、誰だかわかる?」

その一言にアンは携帯を手にしたまま固まった。

「ナンシー?」

「そう、良く解ったわね、アン」

「ナンシー今どこなの?」

そうアンが弾んだ声でナンシーに聞き返すと

「今はフロリダのノースポイント。来週には撮影が終わってニューヨークで雑誌の仕事を済ませてから帰る予定よ。」

「だけど私の携帯番号が良く解ったわね、ナンシー」

「驚いたでしょう!実はデイビスの会社に電話して彼からアンの電話番号を教えてもらったのよ!デイビスなんか私の事をすっかり忘れていて思い出させるだけで十五分もかかってしまったわ」

「早く会いたい。来週ね、ニューヨークに着いたら直ぐに電話頂戴」

「解ったわ、アンもだいぶ活躍しているようね、あなたの話を聞くのを楽しみにしているから・・それじゃあ」

そう言ってナンシーは電話を切った。


ブログランキング ←読む前にクリック協力して貰えると嬉しいです。
__________________________________________________________________________________________________

リリィは戻る道すがら考えていた。

(あの自信は一体どこからでてくるのかしら、たしかに幼年期は可愛く町中の皆から愛されていたけど、母親の離婚は子供にとって決して楽しい出来事とは言えないし、どちらかと言えば学校には行けず友人も作れずただ映画の仕事の毎日といった親のエゴの様な人生じゃないか!その母親も交通事故で死んでしまったし、この先、彼女に一体どんな素晴らしい人生なんて迎えられるのかしら?)

そう考えるとリリィの疑問は膨らむばかりであった。

リリィが大きなテーブルの前に着くと投げ出した椅子とテーブルの上には投げ飛ばされた本が主人を迎えるがごとくただだまって待っているようであった。

リリィは椅子に座りなおしテーブルの先に投げ出した本を手にした。読みかけていたページを捲りリィはその先の人生を読み始めた。

 

アンはその後、父親のデイビスに引き取られる事となった。デイビスはニューヨークで広告代理店の仕事に就いていたのでロサンゼルスでアンと一緒に生活をする事は出来なかった。しかし、馴れ親しいヘアメイクのナンシーがアンとの生活を共にしてくれるとの契約を映画会社と交わし映画製作も進行する運びとなった。デイビスは毎週末にはアンの下へ来てはその週の出来事を事細かに聞いた。まだ洋子が亡くなって日も経っていない事もありアンは少し情緒不安定気味であった。映画の撮影時にも、微笑む程度の演技が大きく笑い過ぎたり、涙のシーンには本気で涙を流し過ぎたりその涙は止まる事がなかった。そんなアンを心配したナンシーは学校の先生と話しハリウッドの映画製作の社会科見学を提案した。学校の生徒がスクールバスに揺られて製作現場に来たのは間もなくであった。アンには来慣れた現場であったが初めて見る子供たちには映画のセットやその関係者はとても刺激的に映った。そんな撮影現場をアンはガイドの様に皆に事細かに説明をした。

「アン、アン!」

先生や子供たちと歩いている先から手を上げて歩いてくるのは現在、売り出し中の若手俳優のケリー・コナーだった。

「アン、今日はどうしたんだい?こんなにいっぱいの友達を連れてきてまるで遠足だな!」

そう微笑むケリーにアンは言った。

「そうよ、今日は社会科見学なの、どうやって映画が作られているか皆で勉強をしているのよ」そう言うとアンが皆に向かって話し始めた。

「こちらにいるケリーさんはとても苦労人なの、撮影現場でカメラマンの後ろでコードを持て走り回っている人よ」そうアンが冗談を踏まえ皆に紹介すると

「酷いなアン、もう少しましな紹介をしてくれよな・・」

はにかんだ様な笑顔で答えるそんなケリーをうつろな眼差しで見ていたのは先生だけであった。

 

アンは自分の撮影現場に皆を連れて向かった。その現場は小学校の体育館が五個も六個も入ってしまいそうな大きさのドームだった。中に入ると雑然と置かれていたセットの部品やライトの数々に子供たちは釘付けだった。

studio

撮影現場は眩く、多くのライトの数々がドーム内を照らし続けたていた、どのスタッフもアンを見かけると気軽に声をかけそんな様子にアンが連れ立った子供達は少しずつアンを見る目が変わって行った。

「アン?」

声をかけてきたのはナンシーだった。

「先生、今日はありがとうございます。」

「とんでもない、この様な機会は生徒達にもよい勉強になると思います。」

「アン、皆と仲良くやっている?」そうナンシーが聞くと

「皆、子供みたいにはしゃいで私、少し恥ずかしかったわ」

そんなお茶目な一言にこの社会科見学を先生と企画して本当に良かったとナンシーは思っていた。

その日以来アンは学校でチョットしたヒーローだった、撮影で学校を休めば翌日には多くの友達がアンにどの様な撮影だったのか事細かに聞いてきた。週末、アンに会いに来たデイビスもそんなアンの表情に安心しアンの話に何時間も聞き入っていた。

 

アンが撮影していた映画もようやく完成し、ハリウッドの映画関係者を招き試写会を催様した。多くのマスコミや評論家たちはこの作品に辛口の評論やコメントを出していたがアンの演技だけは極端に良く評価された。

撮影中に母親が亡くなった悲劇がよりいっそうアンのヒロイン性を高めたのだ。

試写会も終わりロサンゼルスでのナンシーとの生活も終わりが近づき、引越しの整理をしながらアンとナンシーは思い出話をしては二人して泣き合い一晩中、荷物を詰め込んでいた。翌朝にはアンもナンシーも目が腫れウサギの様な瞳に腫れた瞼はまるでボクサーの試合後の様だった。そしてアンはナンシーに長い別れを告げ父親の住むニューヨークへ向かった。