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マリアは当初、アメリカ兵の負傷者の看護に撤していた、やがてバグダッド制圧後は市内の病院に集まってくる市民を診るようになり、行く当てのない戦争孤児の面倒を献身的にみていたよ。

攻撃も一年以上続くと市内の戦争孤児は百人以上になり二百三十日で戦争も終結となったが膨れ上がった孤児達の収容施設が足りなくなりならなくなってきた。


子供

マリアはアメリカ政府と交渉し、市外に専用の施設を設けたのだ。結局のところこの施設を設けた事が対三国と諸外国に対してもアメリカの非難が緩和されたことは当時の新聞を読めばすぐに変わることだ。

しかしその後、イラクだけではないアフガニスタンやパキスタン政府からもこの収容施設に戦争孤児を引き取ってもらいたいと言われバグダッド市外にあった施設の他に三国にまたぐザーヘダーンに新しい施設を建設したのだが施設運営には莫大な費用がかかる、各政府はお互いに費用を負担したがしだいにその援助額は減りとうとうアメリカの援助のみに頼らざるをえなかった。しかし、その援助も期間限定されマリア達は追い詰められていった。」

「どうしてガイバーガーさんはそんなにマリアさんについて詳しいのですか?」

そう言われると、ガイバーガーは口を(つぐ)んだ。右のズボンの裾を捲りソックスを下ろすとその足には義足が装着されていた。

「この足は、当時市街戦をやったときに敵戦車の機銃で撃ちぬかれた時に吹っ飛はされてしまったのだ、その時に運ばれた病院にマリアがいたのだよ。」

「なぜマリアは看護婦から戦争孤児の面倒を見る事になったのですか?」

矢継ぎ早にアンが質問をすると当時の記憶を思い返しながら言葉重たげに語り始めた。

「あんた方の世代の人間には解らないだろうけど戦争は人を残酷にするものなのだよ。銃を持てばそれがたとえ女でも子供でも先に弾を打ち込まないと我々がやられてしまう、そんな中でバラバラになった死体や腕、足を切断した人間を毎日看護していたら矛盾や苦悩を抱くのはあたりまえだろ!戦争孤児はそんな彼女を慕いあの時の彼女には生きる希望となったのだよ。そう言うワシも当時右足を切断した時には随分とマリアに当たったものだがワシの心を救ってくれたのも彼女だったのだ。」

そう言うとガイバーガーは思い返すようにうっすらと口元を微笑えませた。

その後、アンは幾つかの質問をガイバーがーにし、帰り際に一言だけ聞いてみた。

「あなたは、もしかしてマリアさんを・・」

「その質問は生涯ワシだけの秘密だ。」

「こうしてあんたにここまで話したのは今も続く本当のマリアの苦悩を大衆に伝えて貰いたかったからなのだ。実は先日、晩年のマリアを演じるジュリアもわしにマリアの話を聴きに来て同じ事を質問していったよ!しかし、最後の質問はしなかったがな・・」

そう言うとガイバーガーはテーブルに置かれている書類を手にし、出て行けといった様子で手で出口のドア方を指差した。

出口に向かうアンを背中越しにガイバーガーは最後に言った。

「撮影はきっと過酷だろうが期待している」

その言葉を貰いアンは下で待つケイトのもとへ向かった。ロビー横のバーではアンを待ちかねたケイトのテーブルにはバドワイザーのビンが五本程置き少しほろ酔いの感じでバーテンダーと話し込んでいた。そんなケイトをアンが見つけケイトの横の椅子に腰掛けるとケイトがアンを心配したかのような顔で覗き込んできた。

「どうだった?アン」

そうケイトが言うとアンは先ほどまでのガイバーガーとの会話を想い返し、バーの天井に飾られている星条旗を見つめるばかりであった。

そして撮影はその晩より三週間後にアリゾナで行う事となった。ほぼ一年近くをこのアリゾナ近辺での撮影が続く事となりアンも身支度を整えケイトと共にアリゾナへ向かった。


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製作発表会も無事に終わりジョンは大喜びで壇上のアンに歩み寄りアンに抱きついた。

「アン、最高だったよ」

新人女優のアンではあったが準主役級のこの仕事はジョンにとっても映画会社との大きなビジネスとなっていた。

アンの緊張も解けふと顔を上げるとスコット・ガイバーガーがスタッフと共に会場を去ろうとしていた。多くのマスコミが彼の後を追いかけコメントを貰おうと色々な質問を彼に向かってマイクを向けた。

アンは会場出口近くに差し掛かかったガイバーガーに向かって走り出し大きな声で彼に向かって話しかけた。

「ガイバーガーさん、ガイバーガーさん」

マスコミを掻き分けアンはガイバーガーに歩み寄った。周囲の関係者は何が起きたのかと言った表情でアンに注目した。カメラマンは一斉にファインダーを覗き周りの記者達はその様子をうかがった。

「ん?」

その呼びかけにガイバーガーが振り返ると鋭い視線でアンを睨み付けた。

「何だ」

無骨な表情と素っ気無いその言葉にアンは一瞬怯んだがアンは視線の先のガイバーガーを睨め付け意志のこもった言葉をぶつけた。

「ガイバーガーさん、マリアの青年期を演じるアン・マッケンローです。実はガイバーガーさんがマリアさんの事を御存じだと伺ったので少しでもその話をお聞きしたいのですが」

沈黙が緊張となり辺りが静まり返るとガイバーガーはアンの事など無視し、その場を多くのスタッフとマスコミを連れ立って歩き出し消えていった。

アンがジョンやケイトのもとへ戻ると照れくさそうにアンが呟いた。

「無視されちゃった。無理ないよね」

「何なの?無視して、感じ悪いわね・・」

そうケイトが怒り顔で出口付近を見ると一人の男がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

「アン!」

そう一言だけ言ってケイトはアンに合図を送った。

その男はアンの前に来ると小さなメモを手渡し消えていった。そのメモには“マンダリンオリエンタルホテルのスウィートに十九時”とだけ書かれてあった。

「なんだ!マスコミがいるからアンを無視して後から自分のホテルのスウィートに来いだなんてあのガイバーガーって何か勘違いしていんじゃないの?行っちゃダメよアン!」

そのメモを横から読んでいたケイトがいった

しかし、アンはどうしてもガイバーガーからマリアの事について情報が欲しかった。アンはこの役を演じるにあたってジョンに頼みマリアについて集められるだけの情報を探してもらった。アンも何度も台本を読み直し、ニュース記事やインターネットでマリアについて調べたのだがマリアと言う人物像がどうしても見えてこなかったし見つからなかった。マリアが行っている活動は色々とニュース記事として出ていたが生い立ちや彼女のコメントなどはその中にはいっさい無かった。だからどうしてもアンはマリアの情報が欲しかった。

アンはケイトを連れ十九時少し前にマンダリンホテルに着くとケイトをロビーに残しエレベーターで最上階へ向かった。エレベーターを降りると二人の男がドアの前に立ちその一人が先程の男だった。

アンがドアの前に立つと男がノックして合図を送ると中からドアが開きアンを招きいれた。

アンが中に入ると目の前には大きなリビングがありそのソファーにガイバーガーが腰掛けていた。手にした書類に目を通しテーブルの上には数多くの書類が積まれていた。アンがその様子に見とれて立っていると書類に目を通していたガイバーガーが向いのソファーを指差した。

(そこへ座れって、意味?)

そう思いアンは指差されたソファーに腰掛けた。

時間がゆっくりと過ぎていった。どのくらいたった頃だろうかガイバーガーが書類をテーブルに置きアンに向かって顔を上げた。

「時間は貴重だ!それで、私にいったいマリアの何が聞きたい」

いきなり話し始めたかと思ったら話の核心を突然と突かれ最初こそ動揺したアンではあったがそこは女優である、直ぐに自分を取り戻しガイバーガーに質問を返した。

「マリアの事に関してもっと色々な事が知りたいのです。私が演じる若くて輝いていた頃のマリアの話を・・」

そうアンがガイバーガーに言うと薄ら笑いを浮かべて口を開き始めた。

「マリアは決して輝いてなんかいなかったよ。戦渦の中でただ負傷者を手当てし、矛盾と苦悩に日々にさいなまれていた一、少女だったよ!」

「戦渦?」

「もう五十年も前になる第二次イラク戦争での事だ。まだ右も左も解らない小僧だったワシが配属されてすぐに、クウェートからバグダッドへ向けて進行中の時だった。我々、アメリカ軍は初めこそ中東の宗教扮装が収まらない為に仲介として介入しただけがイラン、アフガニスタン、パキスタンを巻き込んだ対アメリカ一国戦争と化してしまったのだ。我々の攻撃はピンポイントでの攻撃を繰り返していたがやがて地上戦では市民を巻き込んだ銃撃戦となってしまった。そんな戦渦で看護婦として働いていたのがマリアだったんだ。


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久しぶりの再開は時間を早送りするかのように進んで行った。二人の会話はあの頃の思い出話から始まりお互いに歩んできた一歩一歩を踏みしめるように話尽きる事はなかった。そんなとりとめもない話をして数時間が経ちアンが真剣な眼差しでナンシーに語りかけた。

「ねえ、ナンシー。今、私のところに大型映画のオファーが来ているの、この映画は制作費もさることながら撮影に莫大な時間がかかると言うことなのナンシーならどう思う?今の私は駆け出しの新人女優と何ら変わりないわ、少しでもメディアに出ていないとあっという間に忘れ去られてしまう小さな存在だわ。だからここの所ずっと悩んでいたの、この仕事を受けるべきかどうかを、ねえナンシーどうしたら良いと思う?」

そうアンが言うナンシーは戸惑うことなくアンにアドバイスを送った。

「アン、何を悩んでいるの?今のアンに何があるの?たかが小さな舞台に上がった小娘じゃない、今あなたに大きな舞台が(めぐ)って来たのでしょ!ならその舞台に飛び込まなくちゃ前には進めないじゃない、その事を教えてくれたのはあなただったんだから、今の居心地よさに縛られないで前に進みなさい。」

そうナンシーはアンに言い切った。その言葉は今のアンには厳しくもありまたここまで積み上げてきた実績に(とら)われていた自分を見透かされていたかのようにアンの心に響き渡った。

翌日、アンは早速ジョンに電話して映画のオファーを受ける事を伝えた。

受話器を置いたアンの顔付きはもうこの作品に賭ける意気込みで胸がいっぱいだった。

夏の盛りを過ぎ、映画会社が製作発表会を模様した。

世界各社のマスコミがこの映画に注目をし、過去最大級の制作費とキャストがこの映画の壮大さをよりいっそう演出した。

映画のタイトルは「戦場のマリア」と言ったこの映画は実在する女性を題材として製作される事となった。大手物流会社のファースト社がこの映画のスポンサーとなり莫大な費用を投じて製作する事となった。

壇上に上がっている大物俳優や女優に混じってアンがセンターよりやや横の席に座っていた。

マイクを持ち派手なアクションでこの映画の関係者を紹介しているテレビ司会者のマイクは一人一人のプロフィールを正確に紹介して行った。

「ねえ、アン」

声をかけて来たのは隣の席に座っているリンダ・クラークだった。彼女はテレビドラマでデビューした最近では一番人気の新進の女優だった。端整なその顔はアンよりも年上に見えたがまだ十八と言う若さであった。

「あの、ファースト社の社長、スコット・ガイバーガーって何でこの映画に莫大な資金を出してきたか知っている?」

「いいえ」

「何でも、この映画の製作タイトルにあるマリアって言う女性に昔、第二次イラク戦争で助けられたそうなの、だからあの社長ったらこの映画だけでなくマリア財団と言った基金を作って戦争孤児の為に活動しているマリアを宣伝する為にこの映画を作る事にしたって言う噂よ」

そうリンダが言うと、アンは少し前のめりになって壇上横の老人であるスコット・ガイバーガーに視線を向けた。

「それでは、マリアの青年期を演じるアン・マッケンローです。」

司会のマイクが主役のマリアを演じるベテラン女優、そして俳優達を紹介した後にアンの名前を叫んだ。

アンが席を立ち軽い会釈をすると多くのカメラマンが一斉にフラッシュをたき始めその眩い光の閃光がアンにプレッシャートとして降り注いだ。