ひとみを残して、私は駆け足で帰った。坂道を下りたから、自然と全速力に近いスピードになる。
このまま力尽きるまで駆け抜けたかったけど、踏切でひっかかってしまった。
息を整えて、ふっと前を見ると、雲の隙間から大きなオレンジ色の夕陽が現れた。
どうして見る気分じゃないのに出てくるのかな・・・。
そんなことを考えてたら、遮断機が上がって、バテるまで走って帰ることにした。
家に着いた。
いつもならリビングに寄ってから自分の部屋に行くけど、今日は直接自分の部屋に行った。
とてもじゃないけど、母の顔なんて見れない。
クラスメートにいじめられたなんて知ったら、家族はどんな反応をするのだろう。
そんなの見当がついている。怒って学校に連絡するに決まってる。
それだけは避けたい。ひとみのためにも。
あんまり閉じこもっていると、母に怪しまれる。そう思って、部屋を出た。
リビングに行くと母は、いつものように夕飯の準備をしていた。
「お姉ちゃん、お帰り。どうしたの、いきなり部屋に行くなんて。」
荷物が重かったから、先に置いてきた。
前に何度かしたことがあるから、特に疑ったりしなかった。
なんとかやり過ごせたと思った瞬間、母が驚いた顔で尋ねた。
「その顔どうしたの!?唇の端、切ってるわよ!」
私は思い出したようにその傷口を右手の親指で隠した。
触った瞬間、ピリッと痛みがして、思わず顔をしかめてしまった。
母は消毒液を持ってきて、手当てをしてくれた。
「どうやったら、そんな所にそんな傷作れるの?」
殴られたなんて言えない。
外で転んだ
その時に、たまたま石がここに当たった
苦し紛れについた嘘だが、母は、もうこんな所に傷作らないでよね、と言って、再び夕飯の支度に戻った。
母が天然気味なことに、普段はイライラしてたけど、今日はそれでよかったと思った。
それから、誰とも会話しない生活が始まった。